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1.4.人魚: 外来人魚の食性

4. 外来人魚の食性


 古来、長命、大型に成長したものは、見た目を生かして人間を捕食すると考えられてきた。マーメイド種が魅力的な女性の姿に擬態するのは、獲物の少ない冬場において、大型の獲物である人間の船乗りを主な捕食対象としていたためというのが、初期人魚学での定説であった。のちに、これは人間だけではなく、人間を捕食対象とする大型海獣や大型魚類へ、自らの身体を使った、一種の擬餌であったとする説が主流となる。実際、人魚は非常に警戒心が強く、臆病な気質のものが多い。特に火に対しては拒否反応を示すため、人間を主に捕食していたという説は現在では支持されていない。


 タイの海人種プラアパイマニーは、成魚になると皺が増え小柄な猿に似るが、幼魚はひれに独特の模様をもっており、上見すると人間の乳幼児が水に浮かんでいるように見える。このため、これを見た人間が救出しようとし、近くにいた親魚に襲われる事例が、何件か報告されている。現地ではプラアパイマニーは子育てをする愛情深い人魚であると考えてきたが、人魚研究が動物学の一部となり、資料が公開されるようになると、擬態疑似餌説と対立するようになった。プラアパイマニーの成魚は幼魚を疑似餌と使う説 と(1)、育児中に子を守るために人間を襲う説が浮上し、未だに決着はついていない。プラアパイマニーは、幼魚をある程度の大きさ――人間の乳幼児大の幼魚は、成魚とほぼ同じ大きさである―まで保護し、人間を捕食する可能性が極めて高いということしか、現段階では言えない。


 メロウ型は性質がおとなしく、髪などに葉緑体を含む特徴的な姿がよく知られている。マーメイド型同様、魅力的な容姿をもち、「つつましく、親しみぶかく、優しく恵みぶかい」(O’Hanlon (1870))。彼らは人間と平和的に共存することにより、排泄物を含む人間の生活廃棄物を獲得しやすくした。彼らは髪に栄養を与え、日照時間の短い寒帯を生き抜くために葉緑体を利用し、自然界に存在しない調理された食物を食べることで、効率的にエネルギーを得る (2)。


1)現地では人魚伝説は非常に人気があり、繁殖地は観光地にもなっているため、この二つの説の決着はかなり興味を持たれている。「魚類」である人魚が愛情を持っていることを期待する者がいる一方で、「魚類」が人間を釣ろうとするという、逆転的な冗談を全面に売り出して集客効果を得ようとする動きもある。


2)ヨーロッパの寒帯原産であるメロウ型は、日本のような湿度の高い温帯では飼育状態が合わず、帰化できないという見解なので、侵略的外来種を主に取り上げる本書で触れるにはいささか不適切と言えるが、人魚の食性の一つとして例に挙げる。

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