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3.2.バジリスク: 生態

3.2. 生態


 バジリスクは一見ニワトリに非常によく似た形状をしている。実際にはコブラ科のヘビの遺伝子に酷似するが、類縁関係は近くない。通常の家畜用ニワトリよりも尾が長く、その点ではオナガドリなどと混同されやすいが、それよりも小柄で尾の形も若干広がっているのが特徴である。体長は30~40㎝程度で、メスはそれよりも大柄になることもある。


 長い尾羽は、基本的に個体の体格によってその長さが異なり、平均して80~100㎝程になる。ヘビ状の防衛器官を保護・隠蔽する目的もあるとされる(第3項を参照のこと)。これは基本的には常に体内に収納されており、極度の緊張状態にない場合は滅多に使用することもない。また一般的によくある誤解ではあるが、防衛器官に毒はない。


 ニワトリとの相違点としては、眼球運動が出来るので、首を前後左右に振る必要がないことが第一に挙げられる。飛ぶことはできないが、野生個体では数メートルほど地を蹴って跳躍する。雌雄の区別なくとさかを有し、メスのトサカは若干小さめで、オスのトサカは成長するにつれ、先端が白っぽくなると言われる。


 原産地の西アジアでの周辺環境は山岳や平野だが、サバンナや草原、森林、岩場など様々な場所に生息することができる。基本的には地表性の動物である。環境順応能力は非常に高く、オスは同種内の縄張り意識が強いわりに、他の動物とはそれなりに共存できるようである。


 バジリスクはほぼ肉食であるが、他の物が食べられないというわけではない。通常は、生息地の虫、小型の鳥類や小動物を好んで食べる。植物も食べないことはないが、消化・吸収率は低い。そのためのストレスからか、短期で大量に穀物を摂取して気管に詰まらせる例もあり、自然の食性ではないと考えられる。また、餌が十分にある環境であっても同種食いをすることで知られる。これはストレスによるもの、縄張り争い、または別個体から毒を得るなど、様々な可能性があり、多くは複合的な原因からそれを行うと考えられている。


 バジリスクは鳥類のような羽毛を生やしているように見えるが、これは鱗が変化したもの(羽毛鱗)である。体色は白、明るい茶色、黒の三色が基本であり、上半身の配色はバリエーションに富む。下半身は基本的に黒となる。これは防衛器官である尾が、地肌の黒色であることによる。全身が単色になる、または尾の色が黒ではない個体も稀に存在するが、こうした個体は往々にして身体が弱い傾向にあり (6)、また当然のことながら、色が目立つ単色個体は野生での死亡率が高くなる。喉から胸にかけての羽毛鱗は(体色がどうであれ)紫外線に当たると緑色に反射する。これは急所を守るためにある骨の板である「装甲版」から生え、装甲色羽毛鱗と呼ばれる (7)。


 バジリスクは高温・乾燥に強い。羽毛鱗の軸には乾燥によって収縮する溝があり、さらに皮膚には放射線状の深いしわがある。これが毛細血管現象を起こし、雨や霧だけではなく、空気中の微小な水分をも集めることができる。また、この溝を広げたり、あるいは水を貯めたまま閉じたりすることで、ある程度体温を保持することができるため、半変温動物という扱いを受けている。


 繁殖形態は卵生で、一度に2~5個の卵を産む。卵は60~80日程で孵化する (8)。メスは水辺の湿った場所に好んで巣を作り、水の溜まった穴に枯葉や小枝を敷いて、そこに卵を産む。卵は埋めてしまうため抱卵することはないが、メスは孵化するまでその周りを警備することで知られている (9)。繁殖期のメスはかなり気性が激しくなり、うかつに近寄ると攻撃されることもある。オスに至っては、生殖行為の最中につつき殺されてしまうことさえ珍しくない。


 バジリスクは現在、一種しか存在しない幻想動物である。中国の鴆(ちん)など、各地には毒鳥の伝説があるが、これらは存在が実証されていないことから、バジリスクの亜種であったのか確認する術がない。しかし、「キメラ的な外見の特徴を有さないこと」、「毒がある以外の特徴が従来の動物学(鳥類)に当てはめることができること」から、幻想動物としない考えが主流である。1990年に発見されたニューギニア島固有の毒鳥ピトフーイは、幻想動物学が確立した2006年に分類改定の提案がなされたが、以上の理由から最終的には改定案は却下された。


6)遺伝子疾患の一種と言われている。今日までバジリスクのアルビノ(白化現象)は発見されておらず、バジリスクにとってはこうした単色体が、これに相当するのではないかと考えられている。しかし、皮膚の色が通常の黒色から変化した個体は、今のところ報告されていない。


7)何のための色なのかはわかっていない。近年、多くのバジリスクがこの装甲版を持たないか、誕生時から発育しないまま成長する。自然環境が変わったことによる退化現象なのではないかと考えられる。


8)繁殖期が決まっているわけではなく、気温が20℃以上になり始めることが条件となる。地域によるが、春から初夏にかけてが多いようである。ヒキガエルが鶏卵を抱卵させるとバジリスクが孵化するという伝説は、両者が水域にやってくる時期を同じくする地域が多いところから来ている。


9)蛇類で巣を作り抱卵するのは、バジリスクと遺伝子的に近いキングコブラだけである。

読んでくださってありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたらうれしいです。