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「死にざま」を「捏造」された兵士たちは「名誉の戦死」をどう思ったのか?『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 』

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/堀江 貴文】

たった70数年前、我々の祖父や曽祖父の世代の多くは太平洋戦争に従軍していた。

そんな事をちょっと前にサバイバルゲームをしていてふと思った。

サバイバルゲームで使うのはBB弾だ。当たると確かに痛いがせいぜい近くから打たれると痣ができる程度だ。ゴーグルさえしておけば重篤な怪我をすることはない。安全なゲームだ。

あまり上手くない私はすぐに撃たれてしまうのだが、これが実弾だったらあっけなく戦場で亡くなっていただろう。

そんなリアルが私達の日常にあったなんて!

南方戦線はミッドウェー海戦に敗れてからと言うもの、アメリカ軍の物量作戦に圧倒され次々と島が制圧されていった。

激戦地のひとつがこの物語の舞台であるペリリュー島があるパラオ諸島だ。いまは戦争などまるでなかったのような地上の楽園なのだが、太平洋戦争中は島から植物がなくなるくらいボロボロに爆撃されている。

主人公は絵が上手いがヘッポコの歩兵だ。戦場ではゴミクズの様に扱われる立場である。

そんななか、アメリカ軍が攻めてきて仲間が次々と亡くなっていく。戦死ならまだマシだというくらい兵士は情けない死に方をする。逃げてる最中に転んで頭を打って死ぬなんてこともある。

主人公はそんな彼らの「死に様」を記録して親族に送る「功績係」を拝命する。絵が上手いが兵士としてはヘッポコだからである。

そして次々と「死に様」を「捏造」していくのである。負傷して怪我が悪化し病死する者も、感染症にかかり亡くなる者も、栄養失調で亡くなる者もみんな「勇敢に戦って名誉の戦死を遂げた」ことになってしまうのだ。

そんな自分の役割と葛藤しながらも、主人公は生きることに執着していく。

狂気の戦争が日常だった不幸な歴史のひとつの記録がこの作品なのである。


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