騎士なのに姫?恋もバトルも陰謀も全部詰め込んだ、人間ドラマ溢れる物語『マロニエ王国と七人の騎士』
【レビュアー/bookish】
長く漫画や小説などの物語の世界に入っていると、否が応でも自分の好みがどこにあるのかということが見えてきてしまいます。
私の好みは、世界観がしっかり作られていてその中の登場人物が生き生きと動いていること。
これにドンピシャだったのが、岩本ナオ先生の『マロニエ王国の七人の騎士』(小学館)です。
恋もするし、人知を超えた力で敵とも戦い、その裏には国を巻き込む陰謀が広がっているーーという世界を十二分に楽しめます。
舞台は8つの国からなる大陸の真ん中にあるマロニエ王国。この王国の将軍、バリバラには7人の息子がおり、それぞれが持つ「個性」にちなんで「眠くない」「博愛」「暑がりや」「寒がりや」「獣使い」「剣自慢」「ハラペコ 」という名前が付けられています。
初めて読んだときはてっきり愛称かと思ったのですがこれが作中の彼らの本名のよう。それぞれの名前のもとになった個性と折り合いをつけながら騎士を目指しています。
読み返してみて、よりわかる面白さ
物語はこの7人の息子たちが、国の命令で周辺国に赴くところから始まります。
岩本先生は過去の作品から、人と人の出会いとつながりを丁寧に描かれてきた作家なので「きっと行った先で問題が発生し、人と人との対話でそれらが解決していくのだろうな」と思って読んでいると、いきなり魔法を駆使するファンタジー・バトルが始まる怒涛の展開に。
実は初めて読んだとき、「なぜ、近隣外交に力を入れるために周辺国に送られた7人の息子が、帰国を邪魔されたり戦いに巻き込まれたりするのか」がわかりませんでした。
しかし、まとめて5回ぐらい読み直すと、実はその裏にマロニエ王国内部の勢力争い、さらには7人の騎士の両親の秘密まで関わってくることがわかってきます(最初から描かれているのですが私が気が付かなかっただけです)。
「人と人の出会いによる個人の成長」「ファンタジーバトル」に「国の陰謀」まで加わり、独特なファンタジー世界を舞台にした物語の中に奥行きが生まれます。
かっこよさとはなにか?
物語の冒頭で7人の息子は母親のバリバラから大義を問われ「いつかかっこよくお姫様を助けること!!」と勢いよく答えます。
読者はこのセリフで「ああ7人が『お姫様』をかっこよく助ける物語なんだな」と思うのですが、実はそうではありません。
既刊の単行本5巻までにおいて周辺国に赴いた7人のうち2人は、必ずしも「誰かをかっこよく助けた」わけではない。
むしろ独特な個性を持つ彼らは、ある場面では「守られるお姫様」となり、一緒に旅に出た人たちに助けられながらピンチを切り抜けます。
しかし一方では誰かの助けにもなっているのです。
登場するキャラクターらは誰もが、必ずしも一方通行の助ける/助けられるの関係ではありません。助けられながらも自分のできる範囲で誰かを助けようとする7人の姿は、確かにかっこいいものです。
変わらない、人と人の気持ちのつなげ方の丁寧さ
剣と魔法のバトルも、汚い大人の陰謀もありつつ、『マロニエ王国』の基本は誰かと誰かの気持ちが通じていくまでの過程を丁寧に描くところにあります。
誤解やすれ違いはありつつも、岩本先生の柔らかいタッチと暖かい視点は過去作からきちんと引き継がれています。
心が荒んできたときに訪れたい世界が、ここには広がっています。