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針供養の日

僕の右手の中指と人差し指の隙間から、大きな浅間山がみえた。

「大きな山だよな。それに少しごつごつしてて、なんだかムカムカしてくる」

「りゅうちゃん、ほら、よく見てごらんよ。浅間山はそんなにごつごつしてないよ。どちらかというと、丸っこいくらいだ。なんだかかわいくみえてくるだろ」

「ああ、本当だ。確かに丸っこい、お坊さんのあたまみたいなかたちだ。それなら僕がなでてやろう。ほら、よしよし、よしよし」

僕は遠目に見える浅間山のちょうど山頂あたりの位置で、両手をわしゃわしゃとやった。

「りゅうちゃん、それで今日は、いったいなんで俺なんかを呼んだんだい。今日はなんの日か、りゅうちゃんだって知ってるだろ」

まーちゃんはそういうが、果たして僕にはなんの日か皆目見当がつかなかった。まーちゃんの誕生日はこの前すっぽかしたばかりだし、まーちゃんのお父さんの誕生日も、お母さんの誕生日もすっぽかしたばかりだ。だけど、ただ知らないと返すのもつまらないとおもったので、僕はとっさに「はりくようの日だろ」と答えた。

「なんだいそれ」

「はりは毎日こき使われているだろ。だから1年にいっぺんくらいは、なにかやわらかいものに刺して休ませてあげようという日のことさ」

「なるほど。それはいい日だなあ。ところで、やわらかいものってどんなのだい?」

「おまえの腹だ!そりゃ!」

僕はまーちゃんのおなかに五寸釘を突き刺した。

ぐふうっと言ってまーちゃんは死んだ。

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