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魔人伝ババア

ぼくの町には魔人伝ババアが住んでいる。

年々ボケが進んでいるのか、今では夜な夜なヘルメットの代わりにキャベツを被って町を徘徊しているのだ。言うまでもなく、あくまで『徘徊』のため頭を守る必要はそれほどはない。

みなさんは魔人伝と聞いて、さも恐ろしい老害であると思われたかもしれないが、実際は魔人と称されるほどには魔人じみていない。
ただ魔人伝ババアは子供が大好きだ。もっと言うなら男の子が大好きで、ぼくたち小学生の男子にいつも絡んでくる。魔人伝ババアは毎回ぼくたちに「おちんちんはちゃんとしまったかえ?」と聞いてくるのだが、それに対してぼくたちは「しまったよ!」と元気よく答える。
すると魔人伝ババアは満足そうな顔をして立ち去る。これでワンセットだ。こんな短い会話の中で、ぼくらとババアは心の中で握手をするのだ。

なぜそのババアの前頭に魔人伝が付くのか、聡明な方ならば既に察しているかもしれない。

事あるごとにぼくたちにチンチンの所在を尋ねてくるので、友達があのババアは全盛期きっと獣のようにセックスをしていたと勝手に決めつけFuck like a beast(獣のようにファック)が収録されているW・A・S・Pのアルバム「魔人伝」の名を拝借したのだ。

そして今日もまた、ぼくたちは学校が終わった後、いつものように魔人伝ババアが出没するゾーン付近にやってきた。

すると友達のかっつんが叫んだ。

「お前ら恥ずかしくないのか!」

突然のかっつんの絶叫に、一体どうしたんだとぼくたちは尋ねた。

「いつもいつもあのババアの思惑どおり、おれたちはちゃんとチンチンをしまってる!そしてあのババアが満足するだけだ!いつまでもあいつの思うつぼで、本当にいいってのかよ!」

全員がこいつ何言ってんだろうなあって思っていたハズなのだけど、その日のかっつんは妙に殺気立っていて誰も反論ができなかった。

「もういい!おれは一人でもやってやるからな!」

そう言うとかっつんは道ばたでパンツを下ろし始めた。チンチンが丸出しになったかっつんは「おれはこのままあのババアの前を横切る!」と宣言した。

「うおおお!」

かっつんが魔人伝ババアに向かって大股で歩いていく。かっつんが急にビビってパンツを履くことがないように、ぼくたちはかっつんのパンツとズボンをマンホールの中に捨てておいた。

フルチンのかっつんに気がついたババアは、目を丸くしながらかっつんにタックルをした。
そのまま全身を持ち上げて、かっつんの体をマンホールの中に放り投げた。

垂直落下していくかっつんの声が、いつまでも響いていた。

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