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ゴリラを捨てに

ゴリラを山に捨てにいくことになった。

以前ガボンへ旅行に行ったとき、おれの母ちゃんはZOZOTOWNで買ったというでかいカバンを持参していった。母ちゃんはZOZOTOWNのカバンはでかくていいぞと言った。おれがそうだねと返すと、母ちゃんはこれならゴリラだって入ると豪語した。

おれはさすがにゴリラは入らないだろうと言ったのだけど、母ちゃんは群れから逸れたゴリラを一頭捕まえると、すかさずZOZOTOWNのカバンの中に詰めた。ゴリラはミチミチといって詰まった。正確には詰まったのはケツの部分だけで、残りの部分は普通に剥き出しだった。

母ちゃんはこのゴリラを飼うと言いだした。
どうせ帰国の際に検問でバレると高をくくっていたおれは、飄々と検問を突破した母ちゃんに戦慄した。そのときの母ちゃんの横顔は、以前警察官の前で「お腹イタイイタイ!便秘薬飲もう」とバレバレの演技をしながらコカインの錠剤を飲み逮捕された先輩によく似ていた。

警備員は一度だけ「それゴリラっぽくないですか?」と指摘してきたのだけど、母ちゃんは「旦那です」と一蹴した。それに対し警備員は「ああ!」と言った。殺してやろうかと思った。

母ちゃんの横顔と警備員の無能さ、そしておれを見つめるゴリラの表情やZOZOTOWNのカバンの耐久性など様々な要素がおれを苦しめ、一時期おれは鬱病をわずらった。

家に帰ってきた母ちゃんは、最初はゴリラを可愛がっていたのだけど、ゴリラが父ちゃんを絞め殺したあたりから次第にゴリラに対する愛情を失くしていった。

挙げ句の果てにゴリラは捨てることになったのだけど、山に捨てるか、海に沈めるかという2択を母ちゃんは迫られた。おれがガボンに還すという選択肢はないのかと尋ねると、母ちゃんはそんなものはないと言い放った。

結局海に沈めるのは可哀想だということで、ゴリラの廃棄先は山に決定された。捨てに行く係はおれだと言われた。反論したい気持ちもあったけど、おれもそこそこいい歳で定職にも就いておらず、養われている恩もあってかまともな反抗はできなかった。

そんなわけでおれは、現在ゴリラを乗せたリヤカーを引いて山に向かう真っ最中だった。

ゴリラがふてぶてしい顔でおれを見つめる。
なんだおまえは。おれに何か言いたい事でもあるのか。
そう思って俺がうしろを向くと、ゴリラは何も思ってませんよとでも言いたげに斜め上を見ながら鼻くそをほじり口笛を吹くのだった。口笛なんて吹きやがってこいつめ。ぶん殴ってやろうか。

リヤカーに乗せて家を出たばかりの頃は、おれも少しくらいはこいつに同情したりもした。だけど150キロのゴリラを運んでるうちにそんな良心は跡形もなく消し飛んだ。木っ端微塵だった。150キロだぞ150キロ。
思い返せば家を出るとき母ちゃんは「でもそれ比較的軽い方のゴリラだから」と言っていた。確かにおれが今運んでいるニシゴリラはヒガシゴリラよりも若干軽いらしい。だがそれがどうした。西も東も関係あるか。ゴリラはゴリラだし150キロは150キロだ。

しかしこいつも小憎らしい顔をしてやがる。群れから逸れる程度のゴリラだから、ゴリラ界でもそれなりのはぐれ者だったにちがいない。ゴリラはウホウホとおれを呼んだ。

どうしたとおれが振り向くと、奴は鼻くそをとばしてきた。この野郎め。もしもおれが筋骨隆々だったら、とっくの昔にブチ殺してその辺の犬にでも食わせている。肉体改造に消極的だった過去のおれに感謝しろこのゴリラめ。

おれは気を取り直して、再度リヤカーを引いた。

すると後ろでゴリラがまたウホウホとおれを呼ぶ。こいつめ、やっぱりおれにかまってほしいんだな。何だかんだいっても所詮ゴリラはゴリラだ。かわいいやつめ。

なんだとおれが振り向くと、奴はまた鼻くそをとばしてきた。さっきよりちょっとでかいやつをだ。


ソッッッ!!!!!!!こいつめッッッ!!!!ブッ殺してやる!!!!!!!!

ゴリラはキャッ!キャッ!と手を叩いてよろこぶ。
キャッ!キャッ!ってなんだ。おまえゴリラだろ。ウホウホって言え。

おれは将来、必ずゴリラ粉砕機を発明すると胸に誓った。

ドカン!ドカン!

ゴリラがリヤカーの上でドラミングをはじめた。まだ住宅地を抜けていなかったので、何事だと近隣住民たちが駆け寄る。

やめてくれ!これ以上おれを困らせて、おまえは楽しいのか!!

バキバキバキッ!!!

ゴリラはウホウホと叫びながらリヤカーを粉々に粉砕する。

おれとゴリラの周りに野次馬がわんさかと群れだした。

すると追い討ちをかけるように突然雨が降りはじめた。野次馬のほとんどは帰ったが数人のババアはその場に残った。

ゴリラはウホウホと叫びながら野次馬のババアを順番に叩き潰していく。ゴリラのドラミングはまだやまない。

誰か!!!ゴリラ粉砕機を持ってきてくれ!!!

一通りのババアを潰し終えたゴリラは、満足そうな表情を浮かべおれのところへ帰ってきた。

もう満足したのかとおれが尋ねると、ゴリラは何も言わずに鼻くそをとばした。

雨で服はビショビショだった。するとゴリラは、おれの着ていた服を剥ぎ取り遥か彼方へぶんなげた。
その後おれはパンツも剥ぎ取られ、それはゴリラがおいしそうに食べた。


ゴリラがおれにウホウホと握手を求める。
もしかしたら、おれに何か友情のようなものを感じてくれているのかもしれなかった。
おれは土砂降りのなか、全裸でゴリラと握手をした。そしたら握力の差で、おれの右手は粉砕した。

大人しく海に沈めておけばよかったと、おれは心から思った。

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