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【映画評】ブイ・タック・チュエン監督の映画「輝かしき灰」を観て

この12月ベトナムで映画「輝かしき灰」(原題:”Tro Tàn Rực Rỡ​​”)が公開された。本作はこの10月に行われた東京国際映画祭のコンペティション作品に選ばれ、すでに東京でも公開された。

ベトナムの最南端の省であるカマウの海辺の村が舞台。16歳のハウは隣人の結婚式でズオンと酒の勢いでセックスをし、子どもをみごもる。父親にせっかんを受けるもズオンと結ばれて、自分はバナナの餅を加工し、夫のズオンは漁師として働き、子どもを育てる。もう一人の女性ニャンはイケメン長身の男タムと結婚、夫はまじめに炭焼きを生業とし、一人娘をもうけるが、その娘は近くの川で溺死する。夫は嘆きのあまり、仕事が手につかなくなり、そしてニャンの家が火災で焼けてしまう...。

映画はまるでドキュメンタリー映画のように淡々と南部ベトナムの田舎の生活ぶりが描かれる。私もカマウやメコンデルタの民家を訪れたことがあるが、まさにこの映画で描かれているままだ。誇張もなにもない。映画の色調もローに補正され、湿った南部デルタの空気までも感じられるかのようだ。

原作はグエン・ゴック・トゥの二つの小説をもとにしている。チュエン監督の依頼に応えて、映画化を快諾したのみならず、脚本の監修も引き受けてくれたのだという。グエン・ゴック・トゥといえば小説「Cánh đồng bất tận​​」で2006年ベトナム文芸作家協会賞を受賞し、2010年には作品が映画化され、文芸作品としては珍しくベトナムでヒットした。

チュエン監督の「漂うがごとく」はスタイリッシュではあるものの芸術性が少し前に出すぎていて、私には少し苦手な映画だった。本作は芸術性よりもドキュメンタリーのようなリアリズムに好感がもてた。

ハウ役のジュリエット・バオ・ゴック・ドーリンは英国生まれの英越ハーフ。体当たりの演技で田舎の若い女性を好演した。彼女の今後も楽しみだ。

日本ベトナム友好協会機関紙「日本とベトナム」2023年2月号掲載

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