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認知症と安楽死~安楽死制度を議論するための手引き12(前編)

論点:認知症になる前に書いた安楽死の希望は、認知症後の患者さんにとっても有効か?

 さて、前回の記事では「認知症をもつ方の意志決定はどうすれば良いのか」を考えるため、まずは現在における「人生会議=Advance Care Planning」について見直してみたのでした。

 では今回は、さらに考察を深めて「認知症をもつ方に対して安楽死制度は適応とすべきかどうか」を考えてみましょう。

オランダでの強制安楽死事件

 認知症をもつ方に対する安楽死制度を考えるために、実際にオランダで起きた事件を取り上げましょう。
 これは2016年に、アルツハイマー型認知症を患ったある患者さんに対し、安楽死を行った医師が、検察に起訴されたという事件です。
 患者さんは74歳の女性で、2012年にアルツハイマー型認知症と診断され、その1か月後にはオランダ安楽死協会にて安楽死要請書に署名しています。 
 盛永審一郎著『認知症患者安楽死裁判(丸善出版)』によると、その認知症条項には
「私は夫と一緒に家に住むことが大好きです。それがもはやできなくなったとき、私に自発的安楽死を適用する法的権利を行使したいと思います。確かにいえることは、本当に私は認知症の高齢者のための施設に置かれたくないということです」
と記載されていたとのことです。
 そして、同書の記載からその後の経過を追うと、患者さんは次第に認知機能が低下していき、2016年には介護施設に入ることになりました。そこで主治医となった医師が、安楽死宣言書の存在を耳にし、さらに施設入所後「落ち着きがなく、混乱している」「患者が死にたいと少なくとも1日20回は口にする」といった状況をみて、安楽死の適用を考え始めたそうです。
 そのうえで、医師は家族に状況について説明し、他のスタッフや安楽死の専門施設の医師、精神科医などとも相談したうえで、「安楽死の要件を満たしている」と判断しました。
 2016年4月22日、主治医は家族が同席する中で、患者さんを眠らせるために彼女のコーヒーに睡眠薬を入れて眠らせ、安楽死の薬を投与しようとしたが、患者さんが起き上がろうとしたために家族に患者さんの体を押さえさせ、そのうえで薬の投与を行ったということです。ちなみに、睡眠薬の投与も、安楽死の実行についても「患者は既に病気についての認識や、意思決定能力が無い」との考えのもとで、本人への相談や事前告知は行われなかったそうです。

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