#Twitter300字ss 　お題「洗う」

　流水に筆を置く。す、と薄緑がシンクに落ちて、見る見る間に広がっていく。
　今日も完成しなかった。
　コンテストに出す絵画ではない。たかが文化祭のための水彩画だ。学校に生えた樹木を主役にした風景画だ。きっと美術部の展示には校内の暇人や、物好きな近所の老人しか来ない。プレッシャーを感じることはない。
　なのに、思うように進まない。
　洗い終わった筆を置き、筆洗をシンクにひっくり返した。葉と幹の色が混ざりきらずに文様を作っている。
　自分が描いている絵よりも、こんな偶然の柄のほうが綺麗にすら見えてくる。
「いや、これでいいのかも」
　絵具が流れきる前に、真っさらの白紙をシンクに押し付けた。
　偶然の力に頼るのも、きっと悪くない。

（300字）