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祈曲 kikyoku

あたりまえに 生きること
こんなにも難しい業(わざ)だから
原石をひとつ 胸に秘め
美しい息吹を 追いかける

生まれたときからの 暗闇が
いにしえからの 定めなら
私はひとりで 詩をかく
夏を吹き消す 風をかく

安穏を願う 言葉なら
ノアの方舟に 乗れるから
人がどれだけ 嗤おうと
君の衣は 香(か)を放つ

祇園精舎の 鐘が鳴り
終わりを恐れて 震えても
星の鼓動が 波打つかぎり
いまという空は 生きるから

今日も ふつうの虹が消え
見たことのない 雨が咲く
今日も うつろな星が絶え
新しい夜が 生まれくる

瞳の奥に 眠る姫
かける言葉はさまよって
ふれた手のひら あたたかく
私のいのちが 照らされる

あたりまえに 生きること
あたりまえに 笑うこと
あたりまえの日々が 実るなら
他の宝石は 捨てていい

聖者の威光に すがるなら
小路の砂利に 成りはてる
愚者のこころを 識る者は
永遠の祈りを 口ずさむ






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