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第13回 これだけ!行列の対角化(線形代数)

 前回は固有値と固有ベクトルの考え方について解説しました。

 今回は行列の対角化について解説します。これを学ぶことでいよいよ連成振動を解析的に解くことができるようになります。もうひと踏ん張り頑張りましょう。

1.対角行列はどうやってだすん?

 固有ベクトルと固有値の定義の式が原点です。

$$
AX=\lambda X
$$

行列$${A}$$がn次の場合、上式を満たす固有値$${\lambda_{1}\dots\lambda_{n}}$$と固有ベクトル$${u_{1}\dots u_{n}}$$が存在するわけですが、それらをまとめて表現すると次のようになります。

$$
AU=U\Lambda\\
U=(u_{1}  u_{2} \dots u_{n})\quad
\Lambda=
\begin{bmatrix}
\lambda_{1}&\cdots&\cdots&0\\
\vdots&\lambda_{2}&&\vdots\\
\vdots&&\ddots&\vdots\\
0&\cdots&\cdots&\lambda_{n}
\end{bmatrix}
$$

この$${\Lambda}$$こそが行列$${A}$$を対角化した行列です。固有値が対角成分となっているのが特徴です。また行列$${U}$$は規格化された(長さが1である)固有ベクトルを成分に持ちます。
 ここで両辺に行列$${U^T}$$をかけます。

$$
U^TAU=U^TU\Lambda
$$

この式は次の式と同値です。

$$
U^TAU=I\Lambda
$$

この回でちらっと出てきたやつですね。↓

直行行列とその転置を掛けるということは各基底同士の内積を計算していることと等しいため、対角成分が1となり、それ以外の成分は0となるのでした。
 その結果対角化した行列は次のように計算できるわけです。

$$
U^TAU=\Lambda
$$

 これが行列の対角化の全貌です。つまり「行列$${A}$$を対角化せよ!」と言われたら、
 まずは固有ベクトルを求めます行列$${U}$$を求めるためですね。この時、n個の固有ベクトルがすべて線形独立である必要があります。この条件が成り立たない場合、直行行列$${U}$$を作ることができず($${U^TU=I}$$が成り立たない)行列を対角化させることはできません。
固有ベクトルが計算できたら行列$${U}$$を作成して$${\bold{U^TAU=\Lambda}}$$を計算します。これだけです。
 なお注意してほしいのは、n次の行列$${A}$$の「固有値がn個にならない=対角化できない」ではないということです。固有値がn個でなくても線形独立な固有ベクトルがn個になる場合もあります。固有値の個数ではなく、線形独立な固有ベクトルの数で対角化可能か判断するようにしましょう。


2.例題を解こう

 次の行列$${A}$$について以下の問いに答えてください。 

$$
A=
\begin{pmatrix}
2&-1&0\\
-1&2&-1\\
0&-1&2
\end{pmatrix}
$$

(1)この行列が対角化可能か確かめなさい。
(2)対角化が可能であれば対角化しなさい。

(1)固有方程式から固有ベクトルが存在するための条件は、

$$
|A-\lambda I|=0
$$

よって、

$$
\begin{vmatrix}
2-\lambda&-1&0\\
-1&2-\lambda&-1\\
0&-1&2-\lambda
\end{vmatrix}
=0
$$

サラスの公式より、

$$
(2-\lambda)(\lambda^2-4\lambda+2)=0
$$

上式から固有値は下のように求まる。

$$
\lambda=2+\sqrt{2},\quad2,\quad2-\sqrt{2}
$$

これら固有値を固有方程式に代入して解くことで、規格化された固有ベクトルが導かれる。

$$
u_{1}=\frac{1}{2}
\begin{pmatrix}
1\\-\sqrt{2}\\1
\end{pmatrix}\quad
u_{2}=\frac{1}{\sqrt{2}}
\begin{pmatrix}
1\\0\\-1
\end{pmatrix}\quad
u_{1}=\frac{1}{2}
\begin{pmatrix}
1\\\sqrt{2}\\1
\end{pmatrix}
$$

これらの固有ベクトルは線形独立であり、行列$${A}$$の次数と同じ個数が存在するため、行列$${A}$$は対角化可能である。

(2)(1)より、直行行列$${U}$$は以下のようになる。

$$
U=\frac{1}{2}
\begin{pmatrix}
1&\sqrt{2}&1\\
-\sqrt{2}&0&\sqrt{2}\\
1&-\sqrt{2}&1
\end{pmatrix}
$$

この行列を下式に当てはめることで、

$$
U^TAU=\Lambda
$$

対角化された行列$${\Lambda}$$は次のように求まります。

$$
\Lambda=
\begin{pmatrix}
2+\sqrt{2}&0&0\\
0&2&0\\
0&0&2-\sqrt{2}
\end{pmatrix}
$$

 ちなみにこの行列$${A}$$は3次連成振動の運動方程式を$${\"{X}=-\omega^2AX}$$の形に解いた時の$${A}$$です。次回再登場しますので対角化は自力でできるようにしておきましょう。


まとめ

 今回は行列の対角化の方法について解説しました。次回はいよいよ線形代数の実践編です。線形代数が工学においてどう使われるのか、その一例を解説します。次回は↓

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