見出し画像

第8回 これだけ!行と列の基本変形を駆使して行列式を解こう(線形代数)

 前回は行列式の余因子展開を使った求め方について解説しました。

 今回は列基本変形を用いた行列式計算方法について学びましょう。

1.行列の基本変形をもう一度学ぼう

 かなり前の回の復習です。行列の行基本変形ではどんな変形の仕方がありましたか?

①2つの行を入れかえる
②1つの行にスカラー倍
③1つの行に別の行をスカラー倍して加算or減算

上の3つの動作があるのでしたね。覚えてないっす!という方は↓のリンクから行列の行基本変形の方法と活用方法を学びましょう。

行列の変形では列の変形はいけないこととされていましたが、行列式では列の変形も行うことができます。以下の法則を覚えましょう!

①行列式では、他の行の実数倍をある行に加えてもその行列式の値が変化することはない。
②行列式では、他の列の実数倍をある列に加えてもその行列式の値が変化することはない。
③2つの行同士を入れ替えると行列式の符号が反転する。
④2つの列同士を入れ替えると行列式の符号が反転する。

行や列をごにょごにょ計算しても行列式の値が変わらないのはすごく朗報です。生かさない手はないですね。ただし、行や列を入れ替えると行列式の符号が反転するのには注意しましょう。
具体的な使い方はこうです。次の行列式を計算してみましょう。

$$
\begin{vmatrix}
a&b&c\\
c&a&b\\
b&c&a
\end{vmatrix}
$$

まず2列目の成分を1列目に加えます。

$$
\begin{vmatrix}
a&b&c\\
c&a&b\\
b&c&a
\end{vmatrix}
\rightarrow
\begin{vmatrix}
a+b&b&c\\
c+a&a&b\\
b+c&c&a
\end{vmatrix}
$$

続いて3列目の成分も1列目に加えます。

$$
\begin{vmatrix}
a+b&b&c\\
c+a&a&b\\
b+c&c&a
\end{vmatrix}
\rightarrow
\begin{vmatrix}
a+b+c&b&c\\
a+b+c&a&b\\
a+b+c&c&a
\end{vmatrix}
$$

ここで2行目と3行目について1行目を引くと、

$$
\begin{vmatrix}
a+b+c&b&c\\
a+b+c&a&b\\
a+b+c&c&a
\end{vmatrix}
\rightarrow
\begin{vmatrix}
a+b+c&b&c\\
0&a-b&b-c\\
0&c-b&a-c
\end{vmatrix}
$$

これを余因子展開して計算することで、

$$
\begin{vmatrix}
a+b+c&b&c\\
0&a-b&b-c\\
0&c-b&a-c
\end{vmatrix}
=(a+b+c)
\begin{vmatrix}
a-b&b-c\\
c-b&a-c
\end{vmatrix}
=a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca
$$

と計算できるわけですね。この手法を使うことで4次以降の行列式も比較的簡単に求まるようになります。


2.何を目指して変形すればいい?

 とはいってもどういう形に変形していけばいいの?と思うかもしれません。具体的には対角行列or三角行列に変形しましょう。対角行列は言わずもがな↓のような行列ですね。

$$
\begin{bmatrix}
a_{11}&0&\cdots&0&0\\
0&a_{22}&\cdots&0&0\\
\vdots&\vdots&\ddots&\vdots&\vdots\\
0&0&\cdots&a_{n-1n-1}&0\\
0&0&\cdots&0&a_{nn}
\end{bmatrix}
$$

三角行列とは以下のように対角成分の上半分もしくは下半分が0となる行列です。

$$
\begin{bmatrix}
a_{11}&a_{12}&\cdots&a_{1n-1}&a_{1n}\\
0&a_{22}&\cdots&a_{2n-1}&a_{2n}\\
\vdots&\vdots&\ddots&\vdots&\vdots\\
0&0&\cdots&a_{n-1n-1}&a_{n-1n}\\
0&0&\cdots&0&a_{nn}
\end{bmatrix}
or
\begin{bmatrix}
a_{11}&0&\cdots&0&0\\
a_{21}&a_{22}&\cdots&0&0\\
\vdots&\vdots&\ddots&\vdots&\vdots\\
a_{n-11}&a_{n-12}&\cdots&a_{n-1n-1}&0\\
a_{n1}&a_{n2}&\cdots&a_{nn-1}&a_{nn}
\end{bmatrix}
$$

三角行列を代表して書きますが、これら対角行列、三角行列の行列式は以下のように求まります。

$$
\begin{vmatrix}
a_{11}&a_{12}&\cdots&a_{1n-1}&a_{1n}\\
0&a_{22}&\cdots&a_{2n-1}&a_{2n}\\
\vdots&\vdots&\ddots&\vdots&\vdots\\
0&0&\cdots&a_{n-1n-1}&a_{n-1n}\\
0&0&\cdots&0&a_{nn}
\end{vmatrix}
=a_{11}a_{22}\cdots a_{nn}
$$

このようにめちゃくちゃ簡単に求まるので、とりあえずは対角成分の下半分が0になるように変形していきましょうねというわけです。


3.例題を解きましょう

次の行列式を計算してみましょう。

$$
\begin{vmatrix}
1&1&1&1\\
1&2&1&1\\
1&1&3&1\\
1&1&1&4
\end{vmatrix}
$$

2,3,4行目から1行目を引くと、

$$
\begin{vmatrix}
1&1&1&1\\
1-1&2-1&1-1&1-1\\
1-1&1-1&3-1&1-1\\
1-1&1-1&1-1&4-1
\end{vmatrix}
=
\begin{vmatrix}
1&1&1&1\\
0&1&0&0\\
0&0&2&0\\
0&0&0&3
\end{vmatrix}
=1・1・2・3=6
$$

次はこちらの行列式を解いてみましょう。前回、余因子展開で解いたやつですね。

$$
\begin{vmatrix}
2&2&1&3\\
0&0&3&0\\
1&4&2&5\\
0&2&4&4
\end{vmatrix}
$$

3行目から1行目の1/2倍を引いて、

$$
\begin{vmatrix}
2&2&1&3\\
0&0&3&0\\
0&3&\frac{3}{2}&\frac{7}{2}\\
0&2&4&4
\end{vmatrix}
$$

4行目から3行目の2/3倍を引いて、

$$
\begin{vmatrix}
2&2&1&3\\
0&0&3&0\\
0&3&\frac{3}{2}&\frac{7}{2}\\
0&0&3&\frac{5}{3}
\end{vmatrix}
$$

4行目から2行目を引いて、

$$
\begin{vmatrix}
2&2&1&3\\
0&0&3&0\\
0&3&\frac{3}{2}&\frac{7}{2}\\
0&0&0&\frac{5}{3}
\end{vmatrix}
$$

ここからは自力で解いてみましょう。どうすれば三角行列の形を作れるでしょうか?このページにヒントが隠されています。頑張って解いてみましょう。解けたら前回の記事の最後の方に答えが書いてありますので、答え合わせしてみましょう!前回はこちら↓

あってましたか?


まとめ

 今回は行列式の基本変形を使った求め方について解説しました。ところで、こんな必死こいて行列式求めてどうすんの?と思いませんか?(私はなにも疑問に思わずにのうのうと大学生活を過ごしていたわけですが…)そう思った方は鋭いです。素晴らしいです。次回はなんで行列式を解く必要があるのか、その活用法の一端にふれましょう。次回はこちら↓

このブログは理工系として必要最低限の会話ができる知識をお伝えしていますが、書籍と合わせて勉強することでより効率的にそしてさらに深く勉強が進むかと思います。まずこちらの書籍を手に取ってみて、並行して学んでみるのもいいかもしれません。


この記事が参加している募集

数学がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?