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第12回 これだけ!固有ベクトルの考え方(線形代数)

 前回は固有値と固有ベクトルの求め方を解説しました。

 今回は固有ベクトルと固有値の考え方、つまりこれらの概念がどう大事なのかを解説します。前回の内容が理解できることが前提なので、前回の内容をしっかり復習しましょう。

1.固有ベクトルで表現できること

 線形空間におけるn次行列$${A}$$による線形変換を考えます。この時、行列$${A}$$の固有ベクトルがn個があるとしましょう。そしてこの固有ベクトルはたがいに直行(線形独立)でしたね。つまり、線形空間における任意のベクトル$${\overrightarrow{v}}$$はこの固有ベクトルの重ね合わせで次のように表せるわけです。

$$
\overrightarrow{v}=c_{1}\overrightarrow{u_{1}}+c_{2}\overrightarrow{u_{2}}
+\dots+c_{n}\overrightarrow{u_{n}}
$$

 例えば2次行列$${A}$$の固有ベクトルが以下だったとしましょう。

$$
\overrightarrow{u_{1}}=
\begin{pmatrix}
2\\1
\end{pmatrix}\quad
\overrightarrow{u_{2}}=
\begin{pmatrix}
1\\-2
\end{pmatrix}
$$

このとき2次のベクトルは例えば次のように表せますね。

$$
\begin{pmatrix}
5\\0
\end{pmatrix}
=2
\begin{pmatrix}
2\\1
\end{pmatrix}
+1
\begin{pmatrix}
1\\-2
\end{pmatrix}
=2\overrightarrow{u_{1}}+1\overrightarrow{u_{2}}
$$

だからなんだ、と思われそうですが、問題はここからです。
 先ほどの以下の式に戻って、

$$
\overrightarrow{v}=c_{1}\overrightarrow{u_{1}}+c_{2}\overrightarrow{u_{2}}
+\dots+c_{n}\overrightarrow{u_{n}}
$$

この$${\overrightarrow{v}}$$の行列$${A}$$による線形変換を考えます。固有ベクトルと固有値の定義から、

$$
A\overrightarrow{v}=A(c_{1}\overrightarrow{u_{1}}+
c_{2}\overrightarrow{u_{2}}+\dots+c_{n}\overrightarrow{u_{n}})
$$

$$
=c_{1}A\overrightarrow{u_{1}}+
c_{2}A\overrightarrow{u_{2}}+\dots+c_{n}A\overrightarrow{u_{n}}
$$

$$
=c_{1}\lambda_{1}\overrightarrow{u_{1}}+
c_{2}\lambda_{2}\overrightarrow{u_{2}}+\dots+
c_{n}\lambda_{n}\overrightarrow{u_{n}}
$$

という感じで、線形変換をした後のベクトルも固有値を用いることで固有ベクトルの重ね合わせで表せてしまうわけですね。行列を頑張って計算するより楽でいいですね。試しに以下の行列$${A}$$の固有値と固有ベクトルを求めて、いろんなベクトルをかけて遊んでみましょう。

$$
A=
\begin{pmatrix}
5&2\\
2&2
\end{pmatrix}
$$


2.連成振動に応用できる

下の講座の復習をしましょう。

連成振動の運動方程式はどのような形で表せたでしょうか?

$$
\"{X}=-AX\\
A=
\begin{bmatrix}
\frac{(k_{1}+k_{3})}{m}&-\frac{k_{3}}{m}\\
-\frac{k_{3}}{m}&\frac{(k_{2}+k_{3})}{m}
\end{bmatrix}\quad
X=
\begin{bmatrix}
x_{1}\\
x_{2}
\end{bmatrix}
$$

2質点系ではこのような形で表せましたね。そしてこのままの形では解けないので何とかして解きたい!という話をしていました。さて、ここで$${x_{1}、x_{2}}$$を次のように行列$${A}$$の固有ベクトルで表してみましょう。

$$
\begin{bmatrix}
x_{1}\\
x_{2}
\end{bmatrix}
=q_{1}\overrightarrow{u_{1}}+q_{2}\overrightarrow{u_{2}}
$$

(これは$${UQ=X}$$の変換と同値ですね。)これを先ほどの式に代入すると、

$$
\"{q_{1}}\overrightarrow{u_{1}}+\"{q_{2}}\overrightarrow{u_{2}}
=-q_{1}\lambda_{1}\overrightarrow{u_{1}}
-q_{2}\lambda_{2}\overrightarrow{u_{2}}
$$

固有ベクトルは時間変化しないので左辺のような書き方ができるわけですね。また次のように変形したときに、

$$
(\"{q_{1}}+q_{1}\lambda_{1})\overrightarrow{u_{1}}
+(\"{q_{2}}+q_{2}\lambda_{2})\overrightarrow{u_{2}}
=0
$$

固有ベクトルは線形独立なので、上式が成り立つためには、

$$
\"{q_{1}}+q_{1}\lambda_{1}=0\\
\"{q_{2}}+q_{2}\lambda_{2}=0
$$

が成り立てばいいわけです。この微分方程式であれば簡単に解けますね(微笑)。
 このように時間変化せず線形独立な固有ベクトルを導入することで、複雑な微分方程式を解きやすい形に変換することができるわけです。その解き方を一般化したもの(次数が増えても対応できるようにしたもの)が「行列の対角化」と言えます。


まとめ

 今回は固有ベクトルと固有値の考え方を解説しました。ちなみにこの固有ベクトルや固有値の活用は連成振動に適用できるわけですが、その適用範囲はバネマス系にとどまりません。例えば電子回路におけるLC回路の挙動や弦の運動などにも適応が可能です。制御工学、構造力学、航空工学などさまざまな学問で大活躍するので、ぜひ使いこなせるようになりましょう!

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次回は行列の対角化の方法についてです。次回はこちら↓


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