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ただの負けだったら良かったのに【10/12 対ヤクルト戦●】

ペナントレースを連覇したチームは強い。
タイガースは、今日はうまくいかなかった。
それだけで終われたら、どれだけ楽だったか。

原口があんなに怒っているの、はじめて見た。

初回に3点を失った。だがまだ攻撃の機会は残されている。直後の攻撃、ファーストステージでは当たりのなかった大山悠輔がツーベースヒットを放った。4番のチャンスメイクで反撃の機運は確かに高まっていた。続くバッターは5番の原口文仁。ピッチャー・小川泰弘の投げるボールに必死に食らいついていく。ストレートを何度もファウルにする。普段から粘り強い原口だけれど、この打席の集中力は凄まじかった。フルカウントで迎えた13球目。小川がフォークを投じた。相手が変化球で誘ってくるのを原口は待っていた。バットが途中で止まった。一塁審判の判定を待つ。結果は、「スイング」だった。

原口の表情が驚きから怒りに変わった。ヘルメットを取って声を荒らげている。あの原口が判定に不服な仕草を見せるなんて、よっぽどのことだ。穏やかで優しい原口が口を大きく開けて感情をあらわにしていた。

今シーズン、原口は大きな決断をした。捕手ではなく野手への専念。持ち味である打撃を今以上に活かすために、原口はキャッチャーへのこだわりを捨てた。今年は1軍で1度もマスクを被っていない。どれほどの覚悟があったのだろう。

2回表の原口の打席は、彼のこだわりが全部詰まっていた。バットの先を見つめて息を吐くいつものルーティンを終えたあとは、打撃のカウントや配球の傾向を見て打席で立つ位置を変える。バットを短く持って、ギリギリまでボールを引き付ける。すべては自分の打席でアウトにならないために。大山が長打でチャンスを作ってくれたこの回。後ろに繋いで佐藤輝明に回すことだけを考えていた。

同じファウルでも、打球が少しずつ前方向に飛ぶようになっていた。追い込まれながらも、少しずつ原口のペースに持ち込めていた。タイミングが合ってきた原口を崩すために、小川は変化球を投げた。それを待っていたかのように原口はバットを止め、一塁方向へ歩こうとした。
審判の判定は、スイングだった。
どうして。

そこからの試合展開は、ぼんやりとしか覚えていない。
原口の怒った表情が、脳裏からずっと離れてくれなかった。

改めて試合の録画を見直した。
点差をつけられた最終回の攻撃。原口に再び打席が回ってきた。真ん中近くに投じられたストレートをレフト方向へ弾き返した。この日初めてのヒットが出た。続く佐藤輝の打席。相手ピッチャーの投じた変化球がワンバウンドになった。原口はすかさず二塁に走った。点差があろうが関係ない。反撃の1点を取りに行くため、原口は次の塁を狙った。心の内はわからないけれど、彼の中であのスイングは過去の出来事になっているように見えた。

原口が踏ん切りを付けて次のプレー、次の試合に集中しようとしているのなら、僕も考えるのをやめる。悔しくてたまらないけれど、もうこの日の勝敗は変わらないから。

乗り越えてくれ。がんばれ。
僕はそう願うことしかできない。

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