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唸るスイングと切り裂くアーチ【10/8ファーム日本選手権●】

イースタンリーグ優勝チームとウエスタンリーグ優勝チームが対戦し、日本一チームを決めるファーム日本選手権。ここ10年近くは宮崎県のひなたサンマリンスタジアム宮崎で行われていたので、関東に住む僕にとってはテレビ中継で見るものでしかなかった。
しかし、突然決まった福岡県への転勤。しかも移り住んだ年にタイガースは2軍優勝。なんだか急に身近に感じられるようになった。CSファーストステージに思いを馳せつつ、宮崎まで行ってみることにした。


横浜で行われているCSにメンバーを多く派遣している影響で控え選手は少ないが、将来楽しみな選手がスタメンに顔を並べている。5番・指名打者で出場した前川右京もそのひとりだ。
和歌山県の強豪校、智辯学園高から昨年のドラフト4位でプロ入り。卓越なバットコントロールと豪快な打球が持ち味の外野手だ。体も大きく、早いうちから2軍の実戦で経験を積んでいたが、試合中の外野守備で体を故障。復帰してすぐの試合でまた故障してしまうという不運もあり、2軍試合の出場数もわずかだった。リーグ戦終盤に実戦復帰してからは実力をいかんなく発揮している。

チーム事情もあって出場できる選手が少ないというのはあるが、高卒1年目の新人がこの舞台に出場できるケースはそう多くない。4番・井上広大と5番・前川右京。いずれ大山悠輔や佐藤輝明とも共演する日も来るはずだ。

6回の攻撃、前川にこの日3度目の打席がまわってきた。ピッチャーはイーグルス先発の松井友飛(まつい ともたか)。試合前は雲が空を覆っていたが、中盤以降は西日が客席に差し込んでいる。時折強い日差しが目に入ってきて、グラウンドが見えづらい。
バットとボールが当たる軽やかな音がグラウンドから聞こえた。前川がバットを大きく放り投げた。西日が差している方向に打球が伸びている。ベースに向かって走る前川の足の動きが緩やかになったのを見て、打球がスタンドインしたのだとわかった。ゆっくりとベースを1周する前川。ケガで実戦から離れている期間を利用して鍛えた体が、いちだんと大きく見えた。

福岡に帰るバスの中で試合中に撮った写真を見返してみる。前川のホームランシーンも、そこそこ上手く撮れた。動きの止まった写真でも当時の驚きと興奮が蘇ってくる。連写で収めた前川のスイング写真を1枚1枚眺めていると、ある既視感に気づいた。前川のプレーは初めて見たはずなのに、初めてじゃないような。
分かった、ドメさんだ。福留孝介のスイングに似ているんだ。
バットを振り切って前傾姿勢気味になっているところが似ている。驚いた。

前川右京
福留孝介

※福留の写真は阪神タイガース公式HPより

個性の塊とはいえ、何百人といるプロ野球選手だからひとりやふたりくらいスイングのちょっとした瞬間が似ている人がいたって不思議ではないと。けれども、一昨年までタイガースでプレーしていたスーパープレイヤーと、今年からタイガースの一員になった若手選手のスイングが似ている。単なる偶然なんだけど、そこに運命を感じるかどうかはその人次第だ。
少なくとも、僕は彼のスイングに不思議な運命を感じた。

同じ日に横浜で1軍の試合があったこともあって、阪神ファンの観客はまばらだった。けれども、この日宮崎に足を運んだ人は、ひょっとしたらものすごいものを見てしまったのかもしれない。

次は1軍の球場で。甲子園球場で。
夜空を「切り裂くアーチ」をかける日が来ること、待っているよ。

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