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機動戦士ガンダム 全話レビュー第39話「ニュータイプ、シャリア・ブル」


あらすじ

 連邦軍の拠点となったソロモンでは、どこからともなく攻撃を受けるという奇妙な事態に遭遇していた。一方、ジオンではギレン総帥が「木星帰りの男」シャリア・ブルと謁見。彼をニュータイプ戦士としてシャアのもとへ送り込もうとしていた。フラナガン機関を設立してニュータイプの戦力導入を進めるキシリアを牽制するためである。シャアと合流したシャリア・ブルは、早々に専用モビルアーマー、ブラウ・ブロを始動させる。

脚本/山本優 演出/久野弘 絵コンテ/    作画監督/

コメント

 タイトルに「ニュータイプ」という言葉が冠されている通り、この回は、これまでちらほらと出てきたニュータイプとは一体どういう存在なのかを、それぞれの立場がどのように認識しているか、ということを示す形で伝えようとしている、と思われる。そのため、ほぼ会話劇の形で話が進み、タイトルにも登場するシャリア・ブルが戦闘に入るのは、後半も残り時間6分というところである。そして3分ほどでアムロにやられてしまう。
 そこで今回は、ざっと全体の流れを振り返ったあと、二つの会話劇から、本作が描くニュータイプとはなんなのだろう、というところを探ってみたいと思う。

「ラ‥‥ラ‥‥」という不思議な声とともに爆撃を受けるソロモンの戦艦。
かつてドズル中将がいた司令官室にはレビル将軍がいる。
攻撃を仕掛けていたのは、エルメスのララァだった。

 ジオン軍の拠点であった宇宙要塞ソロモンは陥落し、連邦軍のジオン進攻への足がかりとなる拠点へと変わっていた。そのソロモンで、奇妙な事件が起こる。ララ‥‥という声ににた音とともに、どこからともなく攻撃が仕掛けられ、連邦軍の戦艦やモビルスーツが次々に撃墜されたのだ。

 その攻撃を仕掛けていたのは、モビルアーマー・エルメスに搭乗したララァ・スンだった。上官であるシャアも、そのニュータイプとしての能力に驚嘆する。

 ソロモンに入港しようとしていたホワイトベースでは、ミライが「何かが呼んでいるような気がする」と、妙な気配を感じ取っていた。第一戦闘配置を命じられたホワイトベースからはガンダム、ガンキャノン、Gファイターが発進するが、セイラ、アムロも何かを感じる。特にアムロは、何かが呼んでいる、何かが見える、とその方向へ向かっていくが、ララァが戦線から退くと、その気配を見失った。

ソロモン入港を待つミライは、周辺に奇妙な呼び声を聞く。
ガンダムで出たアムロは何かが見える気がする、とその方向へ進んでいく。
幻想的な光景が彼を導くが‥‥
ギレン総帥に謁見する「木星帰りの男」シャリア・ブル。
彼はキシリアの元に送られ、
ニュータイプ専用モビルアーマー、ブラウ・ブロでシャアのザンジバルへ向かう。

 これに先立つ数時間前、ジオン公国、ザビ家の総帥、ギレン・ザビは木星帰りの男、シャリア・ブル大尉を謁見していた。シャリア・ブルにニュータイプ能力を見出し、キシリア麾下のニュータイプ部隊に編入させるためである。命令を受け、シャリア・ブルは月面のグラナダ基地でキシリアと合い、ニュータイプ専用モビルアーマー、ブラウ・ブロで発進してゆく。

 一方シャアのザンジバルでは、ニュータイプ専用モビルアーマーのエルメスを、ララァに合うよう調整が進められていた。ララァが疲れやすい要因をを潰すと、長距離からのビットのコントロールができなくなるとフラナガン博士は言うが、シャアはそれをやむを得ないこととして受け入れる。
 そこへ、ブラウ・ブロに乗ったシャリア・ブル大尉が、シムズ中尉とともに登場。シャアと意味深な会話を繰り広げる。そこで、シャアは連邦軍がすでにニュータイプを実戦に投入していることを告げる。シャリア・ブルはテストのためとして出撃するが、ララァはひとり出撃させたシャアの判断に疑問を感じるのだった。

ララァが疲れやすい原因を探り、調整を進めるフラナガン博士。
そこへシャリア・ブルがやってきて、シャアとララァはブリッジで面会する。
シャリア・ブルは単機出撃するが、それを許した
シャアにララァは疑問を投げかける。
ホワイトベースでは、ガンダムの操縦系がオーバーヒート
気味であると問題になっていた。
セイラはブライトを呼び出し、シャアとの関係を告白して涙を見せる。
兄からもらった金塊をみんなで分けるよう、ブライトに託した。

 ホワイトベースでは、ガンダムがオーバーヒート気味なのが問題になっていた。そんな中、セイラはブライトを自室に呼び、シャアとの関係を打ち明けて、受け取った金塊をみんなで分けてくださいと申し出る。ブライトはそんな彼女を受け入れ、その強さに感嘆するのだった。

 そこへ、敵がやってくる。出撃したアムロは、今までの敵とは違うと感じ、仲間らに警告する。それは、シャリア・ブルだった。四方八方からの攻撃をことごとくかわしたアムロの能力にシャリア・ブルは感嘆するが、アムロは「本体」を感じ取り、彼を撃墜するのだった。

出撃したシャリア・ブルはガンダムと遭遇。
すぐさま、その能力を発揮するが、
ガンダムはブラウ・ブロの攻撃をことごとくかわすのだった。
ガンダムのパイロットもニュータイプだと確信するシャリア・ブル。
ブラウ・ブロのオールレンジ攻撃で両脚を吹き飛ばされるガンキャノン。
しかしアムロは本体の位置を察知し、シャリア・ブルを仕留めるのだった。

・・・というのが、今回のストーリーである。ニュータイプ能力を発揮するララァ、シャリア・ブル、アムロの三人と、その能力を利用しようとしている三人の思惑が、絡み合っている。

ニュータイプとは何か?


 では、まずニュータイプ能力を発揮した三人の描写から、ニュータイプの能力とは?というところを見てみよう。

(1)目視できない遠距離から、敵を捕捉する能力
(2)本機とは別のところにある攻撃用兵器を、遠隔操作する能力
(3)敵の攻撃を先読みして、それを避ける能力

(1)と(2)はジオン側のララァとシャリア・ブルが、(1)と(3)はアムロがその能力を発揮していた。

 しかし、それだけではないことが、ギレンとシャリア・ブルとの会話から、伝わってくる。
 木星帰りの男、シャリア・ブルがギレン総帥に謁見したときの会話を、見てみよう。

シャリア:お話のニュータイプの件ですが、私は多少人より勘がいいという程度で。
ギレン:君のことは君以上に私は知っているぞ。木星のエネルギー船団を務めた君の才能のデータは揃っている。フラナガン機関に検討させた。その机の上にある。
シャリア:ブル:シャリア・ブルに関するニュータイプの発生形態。私に、その才能があると?
ギレン:そう、君は自分でも気づかぬ才能を持っている。もっとも、ニュータイプのことはまだ未知の部分が多いのだが。それを役立ててほしい。今度の大戦では、もう人が死にすぎた。
シャリア:ブル:キシリア殿のもとへゆけと。
ギレン:ほう、言わぬ先からよくわかったな。キシリアの元で、君の即戦力を利用したモビルアーマーの用意が進められている。
シャリア:ブル:お言葉とあらば。
ギレン:空母ドロスが用意してある。私が、なぜ君をキシリアの元へやるかわかるか?
シャリア:ブル:私には閣下の深いお考えはわかりません。しかし、わかるように努力するつもりであります。
ギレン:それでいい、シャリア・ブル。人の心をのぞきすぎるのは、己の身を滅ぼすことになる。ただ、私が君をキシリアの元にやることの意味は考えてくれ。

 シャリア・ブルは自身の能力を「人より勘がいい程度」と言っているが、ギレンはそれを、人の考えていることが読める、と認識しており、彼を試している。シャリア・ブルは、ギレンが、なぜキシリアの元へやるかわかるか?と問うたとき、「わかりません」と答えているが、実は、ギレンが言う前に「キシリア殿の元へ行けと?」と答えたときに、すでにその理由も含めて、ギレンの意思を読み取っていたのではないかと思う。
 それは、ギレンが「今度の大戦では、もう人が死にすぎた」という言葉から、シャリア・ブルが、ギレンは早期決戦を望んでいること、そのとき壁として立ちはだかるのが、おそらくキシリアであろうと読んだのではないだろうか。つまり、そこから「キシリア殿の元へ行けと?」という言葉が出る、ということは、ギレンにとって妨げとなるキシリアを潰せ、という意思を感じ取ったということである。

 これは、ニュータイプ的というよりも、私には、なんというか、時代劇に出てくる侍とその手下の忍者との会話、みたいな感じにも受け取れた。シャリア・ブルは今風にいうと、忖度の能力がずば抜けているのである。これは、懐刀として実に使い勝手のよい人間ということになりはしないだろうか。

 そんなわけでキシリアに出迎えられるシャリア・ブルだが、彼女はというと、ララァより適性があるなら、シャリア・ブルをエルメスに乗せようと考えていることがわかる。どうもキシリアは、シャアがララァをうまく手懐けているのが気に入らない様子である。

 この、ギレンとキシリアとの関係性を念頭に置いて、シャアとシャリア・ブルとのやりとりを見てみよう。

 ララァについてシャアから尋ねられたシャリア・ブルは、ララァからは何かを感じます、という。そう、力のようなものを、と答える。

シャア:で、大尉は私から何を感じるのかね。
シャリア・ブル:や、私は大佐のような方は好きです。お心を大きくお持ちいただけると、ジオンのために素晴らしいことだと思われますが。
シャア:よい忠告として受け取っておこう。私はまた、友人が増えたようだ。
シャリア・ブル:もし、我々がニュータイプなら、ニュータイプ全体の平和のために案ずるのです。
シャア:人類全体のために、ととっていいのだな。ララァ、わかるか。大尉のおっしゃること。
シャリア・ブル:ララァ少尉はよい力をお持ちのようだ。

 だが、とシャアはいう。ガンダムのパイロットがニュータイプらしい。つまり連邦はすでにニュータイプを実戦に投入しているということだ。
 そしてシャリア・ブルはテストのためにブラウ・ブロで出撃。あっという間にアムロに撃墜されてしまうことになる。

 では、ここでスーパー忖度マンのシャリア・ブルは、シャアから何を感じたのだろうか。
 彼はまず「大佐のような方は好きです」と言っている。これは、人として好きというよりも、彼が感じ取った意思に賛同を示してる、と取るのが筋であろう。それが次の言葉「お心を大きくお持ちいただけると、ジオンのために素晴らしいことだと思われますが」につながる。
 前回のセイラとのやり取りで、シャアの心の内にはザビ家に対する復讐を成し遂げ、人類の真の平和をもたらしたい、という思いを持っているのではないかと感じられた。しかし、ニュータイプの発生が、それを妨げるのではないかという懸念を抱いているようにも受け取れた。シャリア・ブルの応答は、これに準じたものではなかろうか。つまり、ザビ家を倒すことには賛同する。しかし、ニュータイプという存在を、自分も含めて広い心で受け止めるのが、ジオンのためではないか、と言いたかったのではないか。

 もし、我々がニュータイプなら、ニュータイプ全体の平和のために案ずるのです。

 この、シャリア・ブルの言葉からは、ニュータイプ同士で、今後争いが起こりかねないことを案じていることが窺える。結局のところ、シャアは、彼がギレン、そしてキシリアの意をもって彼のもとに遣わされたことを疑っており、シャリア・ブルはそれをオブラートに包みながら牽制している、ということではないだろうか。これが、私の解釈である。そして、シャアはこのように人の心を読むニュータイプとしての彼を、自分のそばに置きたくはなかった。

 なぜ大尉だけおやりになるんです?

 と、ララァが、シャアがブラウ・ブロ1機で出撃させたことに異議をとなえ、理由をきいても「そうでしょうか」と納得しなかったのは、ララァもまた、そのシャアの本心を読んでいた、ということもできるのではないだろうか。

この一言! ニュータイプは万能ではない。戦争が生み出した、人類の悲しい変種かもしれんのだ

 この回のシャアの、シャリア・ブルに対する言葉や態度は、正直なところ難解で明快さに欠けている。彼がシャリア・ブルに対して何を感じ取ったのか、よくわからない。だが、はっきりしているのは、 連邦軍にもニュータイプの戦士がいること、そして、その戦士の力は明らかに、シャアを圧倒しているということである。ララァを温存し、シャリア・ブルだけを出撃させたのは、ガンダムのパイロット、アムロにぶつけてシャリア・ブルがどれだけ使えるかを試すためであったかもしれず、ギレンとキシリアの間で立ち回りをさせられ、自身とララァの存在を脅かすことになるかもしれない彼を、アムロを使って始末させた、ということもできる。

 シャリア・ブルがガンダムに撃墜されたと知ったララァは、今エルメスで出れば、ガンダムを倒せます、とシャアに申し出るが、シャアはそれを制して、こう言う。

 彼はギレン様とキシリア様の間で器用に立ち回れぬ自分を知っていた不幸な男だ。いさぎよく死なせてやれただけでも、彼にとって‥‥

 そして、この言葉が出るのである。

ニュータイプは万能ではない。戦争が生み出した、人類の悲しい変種かもしれんのだ。

 それはシャリア・ブルのことであり、またララァ・スンのことでもあるだろう。しかし端的に言えば、シャアはその「悲しい変種」を、まだ見ぬガンダムのパイロットに見出しているのではないか。
 そして、シャアにとって、自分の道具にならないニュータイプは、敵でしかないのだ。

今回の戦場と戦闘記録

<今回の戦場> 
宇宙要塞ソロモンの周辺空域
<戦闘記録>
■地球連邦軍:謎の遠隔攻撃を受け、宇宙要塞ソロモン周辺の艦艇が次々に撃沈される。ソロモンへの入港待ちだったホワイトベースからモビルスーツ隊が出撃。アムロはオールレンジ攻撃を仕掛けてくるジオンのニュータイプ専用機を撃墜する。
■ジオン公国軍:いよいよララァがニュータイプ専用モビルアーマー、エルメスで出撃し、多数の戦果を上げる。しかし調子を崩したため調整が必要になる。その間、ギレンからキシリア配下に送り込まれたニュータイプ戦士、シャリア・ブルがやってくる。彼は単機で出撃するが、ガンダムに撃墜され、戦死。


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