詩|空くう

しずかに量りに置かれている空

大切なひとが亡くなって
想い出す時
切なさが増しはじめる時
少しずつ 量りの目盛りは上がってゆく

そのひとの存在感が
じぶんの中で どうしようもなく大きくなりすぎた時

空も どんどん重くなり
やがて 生前のそのひとの体重と同じになる

空即是色

ものを持ちたいと欲すること
目盛りは簡単に増すと思う ひとの性
どんどん増える カネ・モノ・名誉……
ところが目盛りは逆を指す
どんどん どんどん 下がってゆく

陰で 体をいたわらず
ひとを悲しませ ひとから奪っていたりもした
それを 忘れていたために

色即是空

仏教寺院に生まれ 五歳頃から
毎朝 本堂で 父に倣った
遊ぶように ほとけや親の前で 歌い
ひらがなで書き散らしていた 無垢 美
霊的質量保存の法則

ときに 詩情


(月刊詩誌『詩人会議』'22年10月号 収録)

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