あさぎ とち

作詩/作詞作曲 (tocchiトッチ)/詩誌『everclear』発行/『産経新聞』朝…

あさぎ とち

作詩/作詞作曲 (tocchiトッチ)/詩誌『everclear』発行/『産経新聞』朝の詩月間賞/『詩人会議』投稿欄年間優秀作品賞/『詩と思想』現代詩の新鋭/'19年9月~入院中('20年8月note復帰)/X https://twitter.com/tocchi2014

マガジン

  • 病床ノオト

    入院中に感じたこと

  • 長詩(~'19.3)

    主に'19年3月までに書いた詩をまとめたものです

  • エッセイ

    エッセイ、随筆など。その時の思いのままに。

  • 短詩('20.8~)

    再び詩が書けるようになってから書いた短詩をまとめたものです

  • 長詩('20.8~)

    再び詩が書けるようになってから書いた長詩をまとめたものです

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初詩集が出版されました。

    • 詩|黄昏の足跡

      みずうみのほとりに病院があって みずぎわに少女が立っていて 少女なのに 病院に入っていて ぼんやりと きらきらするみずうみを眺め そっと寄せて返す小波は 自分が自分がと 少女を責め立てることもなく まわりを取り囲むこともないので 波の声は大きな空と溶け合い 彼女は理由を聞かれることがないから いつまでも 長い髪がそよ風になびいて 瞳はターコイズブルーの水面を映す 沈黙のうちに 来た場所をさがし続けて ――もうすぐ散歩許可の三十分間が過ぎる ただ寄り添っただけのみず

      • 詩|桜

        私が生きようとしないから 桜が咲く 桜の樹が生きる 桜の枝が生き切る 花が咲く 花が散る そして 桜は消える 命は終わる わたしはよそ見をし、振り返る 香りが残る 余韻が残る 枝が残る 幹が残る 地面が残る 時間が残る 私の器官が残る 私はただ生きようとする 誓うように 咲くことはどうでもよくなって 花のように (詩誌『everclear』第9号 収録)

        • エッセイ|『詩と思想』現代詩の新鋭に選ばれました。

          この度、『詩と思想』現代詩の新鋭に選ばれました。大変有難うございました。エッセイ、柴田三吉さんの紹介文、新作詩「めばえ」が掲載されています。詳しくは4月号をご覧ください。 おそらく昨年発行した第一詩集『水は器に合わせ形を変えるでしょう いつか 思いもよらぬときに』が、選考基準に達したからであると思われます。 清岳こうさんは巻頭エッセイで、次のように述べています。 第一詩集では、病と向き合い七転八倒しながら詩を創り上げてきた現実とプロセスを、どうしてもキャリアの始めに置い

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        初詩集が出版されました。

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        • 病床ノオト
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          6本
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        記事

          エッセイ|日本詩人クラブ『詩界論叢 2023』を読んでみた。(1)

          昨年末にお誘いを受け、この1月に日本詩人クラブに入会させて頂きました。同時に、昨年12月に発行された『詩界論叢 2023 創刊号』が送られてきました。 5章に分けられており、 Ⅰ 詩人論・詩作品論…すでに亡くなられている詩人について。 Ⅱ 詩人論・詩作品論…現役詩人について。 Ⅲ 世界・文化・文芸 Ⅳ 人の世・社会・詩作 Ⅴ 詩に向き合うこと―詩の心 という内容です。 参加した執筆者119名。それぞれが詩論、詩人論、詩、エッセイなど、自由なテーマで思い思いに語って

          エッセイ|日本詩人クラブ『詩界論叢 2023』を読んでみた。(1)

          詩|だいちのかみ

          国常立大神の御神体に傷をつけることによって 作り出された芸術物 それに高値をつける人びと かれらは知らないのだ 国常立大神の御神体に傷をつけたということを だからこそ その価値と罪科を 本能で察知したということを

          詩|だいちのかみ

          詩|とうさん

          予兆は まったくなかった その日の夜も 食事前いつものように 若い連中とバカ話をしていた 関西出身 贔屓のベースボール・チームは勿論 日本一を決める試合が もうすぐ始まる 配膳ワゴンから自分の盆を取り 部屋に戻る それが とうさんの姿を見た最後 とうさん、とある五十代の女性患者は呼んだ 彼女は 年齢がずっと上の白髪のひとは 皆 とうさん、かあさん、と呼ぶ もちろん年下の◯◯くん、◯◯ちゃんもいる だから三十名たらずの この病棟は 彼女を中心に縄文時代の集落のようだ とう

          詩|とうさん

          詩|白鳥

          北へ渡る白鳥が  今年も確かなまなこで 湖に帰ってくる そのさすらいは 一点を向き  命を美しく保ち 心を光らす 冬に想像される美しさは 雪をかぶった山の頂 きびしく凍る水面 霜が溶け始めた朝の微光 白鳥の佇まい 飛び立つ後姿 ヒトの心は相変わらず さすらおうかどうしようか迷っている もうさすらっているのに (詩集『水は器に合わせ形を変えるでしょう いつか 思いもよらぬときに』 所収)

          詩|ノーザン・ライト

          雪のない冬は いっそう寒く 雪につつまれると 身は暖かくなり マイナス10℃をこえ ダイヤモンドダストが光に舞いはじめると よけい心を温もらせる ふしぎな 北の空よ

          詩|ノーザン・ライト

          詩|上がり框

          (すき間が生まれぬように細心の注意を払う)ガラガラガラ。古い玄関の引き戸が開き、閉まる。茶の間から玄関までは見通せるが、少し離れている。これが子と母の距離。 昔。義母への恐怖が、家業の忙しさが、ベーチェット病という難病が、あるいは本人の無自覚が――。阻まれた母性があった。 年をとったので気をつけながら、ゆっくり車で走ってくる。ドゥルルル、ドゥルルル。やがて遅いエンジン音が止まる。ガラガラガラ。古い玄関の引き戸が開き、閉まる。 よっこらしょ。上がり框にバスケットを置き、母

          詩|上がり框

          エッセイ|宮澤賢治語彙辞典を買ってみた

           こんにちは。今回は宮沢賢治についてのお話です。先日詩集『水は器に合わせ形を変えるでしょう いつか 思いもよらぬときに』を上梓させて頂いたのですが、読者の方から宮沢賢治の世界観に似ていますね、と感想を頂きました。実は私はそれまで学校の国語の時間以外では宮沢賢治をほとんど読んでいませんでした。詩についての抒情性は八木重吉などを参考にしていました。しかし今回新潮社の日本詩人全集第20巻『宮沢賢治』を読んでみて、確かに八木と共通点があるように思いました。  宮沢賢治については、元々

          エッセイ|宮澤賢治語彙辞典を買ってみた

          エッセイ| 年末年始こぼれ話 漱石ぞな、もし

             今日は非常に他愛もない話なのですが、文学つながりで、してもいいかな、と思ったので書きます。   上に2つの画像をアップしました。1つは、夏目漱石の小説『坊っちゃん』。もう1つは年末年始の病院での献立表です。まず献立の話をしますと、病院にいるので、もちろんいつもは質素なメニューなのですが、季節の行事ごとに嬉しい食事を出してくれます。年末年始ともなると、ご覧のように毎日毎食が楽しみなメニューとなります。   今回の話。ご馳走は大みそかの年越しそばから始まりました。期待にそむ

          エッセイ| 年末年始こぼれ話 漱石ぞな、もし

          エッセイ|詩誌『冊』第68号の詩評に挑戦します。

          武田いずみさん「嵐の朝に」  朝顔の種と、息子さんのお友達を重ね合わせます。  <種子はどれくらいの期間をおくと/芽を出す力を失うのか/理科で習わなかった真実を庭に撒く>。この<真実を庭に撒く>という表現。思わず唸ってしまいました。朝顔は、やがて芽を出します。<何日目かに ふた葉/おはよう 待ってたよ>。  子どもの現在進行形を一字下げて描写し、重ねます。<あいつ 学校に来た ひさびさ/保健室だったけどね/昨夜の息子は嬉しそうだった>。子どもの友達も一段階、殻を破ったようです

          エッセイ|詩誌『冊』第68号の詩評に挑戦します。

          詩|三秒間の沈黙

          その人はしゃべり続けた 私は話すことができなかった その人が話し終えた後 三秒間の沈黙の声を聞いてしまったので 声ではない 身振りではない その人が聞こえ過ぎてしまった ありとあらゆる話をした そのあとで私が出そうとした声は その沈黙の音だった その人の声だった ゆえに私は何も話すことができなくなった その人も恐らく そのことを知っていたので なにも私に言わなかった ただ 両者は同じ愛と体を見つめていた (詩集『水は器に合わせ形を変えるでしょう いつか思いもよらぬ

          詩|三秒間の沈黙

          詩|笑顔

          あなたの それ で救われた人がいる あなたの それ で病が治った人がいる あなたの それ で寿命が延びた人がいる 一万の言葉を尽くされても よく分からなかったことが やっと理解されたこともある それは誰かに行き場所を与え 帰る場所を与えるもの 落ちている財布を見つけた人の脳裏に あなたの それ が一瞬よぎった だから無事に財布は持ち主のもとに返された 日々新しいものを創作するために 険しい顔をする男がいる 彼のもとに あなたの それ がもたらされた 彼は

          詩|ふゆのこおり

          ふゆのこおりは なにを うったえるために こおりとして このよに でてきているのだろう みぬく たましいのめ それは あたたかさであるはずなのに (詩誌『everclear』第19号 収録) 

          詩|ふゆのこおり