まだ、雄太郎くんに振られてしまう前の、私の初恋の味は『梅ソーダ』だった。

中学生。あの頃、テニス部の顧問はとても厳しくて、とにかく怒鳴られながら汗みどろになって駆け回っていた。
それでも部活を辞めなかったのは、単純にコーチの指導が私に合っていたのもある。
それと。

隣の男子テニス部のコートには雄太郎くんがいた。
男子テニス部の顧問は、女子の顧問と真逆でとにかく放任だったので、彼らは「俺のゴールデンスマッシュを受けてみやがれ！」などとふざけた試合をよくしていた。

女子顧問（女性版宗像コーチ）は、どうやらそれが許せないことがままあったようで、「おい男子チーム！こっちに来て、女子と試合しろ！」と、時々男女で試合をさせることがあった。

正直なところ、女子チームの方がめためたに強い。技術では完全に上回っていたのだが、女子に負けるわけにはいかん！というプライドがあるのだろう、男子もパワープレイで攻めてくる。
時々行われる、この男女対抗試合というのは、私を猛烈に熱くさせた。


ところで、女子テニス部というのは、中学生男子にとっては、なかなかに挑発的なユニフォームなのだと思う。
太ももまでの丈のミニスカートのようなテニスウエア、スコート。
そして、暑さゆえに、Tシャツの袖をたくしあげ、コート内を全力で走り回る無防備さ。汗を大量にかくと、薄手のTシャツはぼんやり透けてしまう。

ある日、男子と試合を終えて、滝のような汗を拭いつつ給水していたら、雄太郎くんがそっと近づいてきて言った。
「Tシャツの袖を下ろした方がいい、スマッシュするたびに、他の男子がすごく見ているんだ」

鼻からスポーツドリンクが吹き出た。

ちなみに、雄太郎くんは同じクラスで仲も良かったが、彼氏などでは無い。
そして、他の女子も同じTシャツに、袖をたくしあげている状態で、特別私だけがジロジロと見られる対象では無かった。
何より、雄太郎くんこそが、よく男同士で女子の話に花を咲かせ、ついたあだ名が「エロジッちゃん」（中学生あるあるあだ名）であったため、急に真面目な顔をして、耳元で
「他の男子が見ているから」と言い出したことに仰天した。

猛烈な恥ずかしさと、漂う独占欲の香り。
少女漫画をよく読む私のハートを鷲掴みにした瞬間だった。

そんなことがあってしばらく経った部活の帰り道。
雄太郎くんと一緒になった。
あの時は、まさみともうひとり男子がいた。

「なぁ、自販機でジュース買わねー？」
雄太郎くんが、自転車をゆっくり止めるとそう言った。
私はお金を持っていなくて、一瞬戸惑う。
すかさずまさみが言う。「いいね！そうしようよ！」
私の気持ちを知っていたまさみは、もう1人の男子に「奢ってくれ、私たちお金が無い！」と言い「持ってねーくせになんでそうしようとか言うんだよ！」と、楽しげなやりとりを始めた。

するとだ。
雄太郎くんは「俺、これが1番好きー」と、梅ソーダのボタンを押した。
こ、これは、私も奢って♪と可愛く言うところなんだろうか？
それとも黙って見ておいた方がいいのか？

プシュッと缶を開け、雄太郎くんが一気に飲んだ。
正解がわからないまま、それを見つめる。
「めっちゃうめぇ！飲んでみる？」
そういうと、彼は私にその缶を渡した。

か、か、か、間接キッスーーーーーーーーー！！！

自転車が、空を飛ぶんじゃ無いかと思った。

平静を装って受け取った梅ソーダは、爽やかな酸味を伴って、私の体をシュワシュワとさらに高揚させる。
いや、実際、その帰り道、みんなとバイバイした後の私は飛んでいたと思う。

一口飲んで彼に戻した缶は、その後何度か私たちの間を行き来し、最後「この缶捨てとくね！」と私が持って帰ることになったものだから、E.T.よろしく、カゴに入れた缶が、自転車ごと私を夜空に飛ばしていた。

そうして『梅ソーダ』の缶は、私の部屋の本棚に、長く宝物として鎮座し、母に「なんなのこれ？」と言われては「絶対捨てないでよ！」と、威嚇を繰り返したものだった。

これが私の、初恋カントリーロードでございます。
ちなみに、その後、彼に振られることとなる流れがこちらです。

耳をすませば、プリンセスプリンセスの『M』が聞こえる。

そんなわけで！（まさかのここまでが前フリ）
今回のスマイルスパイスはこーたさんと2人回！

ルーレットークであれこれ盛り上がった私たち。
1番食いついたのが、好きなジブリはなんですか？で『耳をすませば』みたいな初恋憧れるよね、くぅぅぅ！！ってところだったのですが。

思い起こせば、ございました！私のカントリーロードな初恋。
これは、こーたさんも食いついてくれるんじゃなかろうか？

楽器は持っていなかったし、相手は「エロジッちゃん」のあだ名をもっていたし、私はバロンに出会っていなかったけれど、でも空は飛んでたみたい。


ちなみにミュージックエスパーという異名をもつこーたさんですけど、それによって相手の記憶を呼び覚ますという能力があるのでは無いだろうかと思います。
その落ち着いた声のせいなのか？
記憶をしまう箱に刺激を与える信号が出ているのだろうか？
まだこーたさんについて深掘りできていない私。
実は長編小説も作詞もしているこーたさん。奥が深い。何かまだ引き出しを持っていそうな気がする。

それを引き出したいなどと、大それたことを思っていたわけでは無いのですけれど。
「もう一回ガチャ回していいです？ふふふ！」とはしゃぎ、３０分オーバーで楽しんだ挙句「編集！よろしくお願いしまっす！」と丸投げ。
見事なまでに違和感なくカットされている、しかも、丸ごと一部じゃなくてところどころ、うまい具合に切っている！

彼は、編集エスパー（エキスパートとも言う）でもあるということを、ここにお伝えしたい所存であります。

次はどんな記憶を呼び出してもらえるのか。
はたまた、彼の創作魂をメラメラ燃えさせることができるのか。
今後もなにやら目（耳も）が離せません。
いつか、妄想カントリーロード楽団じゃない初恋エピなども曲と合わせて聞いてみたいものです、ひひ！