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中年期とき子の祈り

ゲーテ著『若きウェルテルの悩み』を読了した。
つるちゃんが読んでいて、かなり笑ったので読みたくなったのだ。

並行してアニエス・マルタン・リュガン著『縫いながら、紡ぎながら』を読んだ。
狙っていたわけじゃない。
時代も内容も違うのだけれど、共通項目として、既婚女性と、その女性に激しく惹かれる男性が出てくる。

『若きウェルテルの悩み』は、最初のうちは吹き出しながら読んでいた。
人様の狂おしいほどの恋心に吹き出すとは、失礼すぎる話である。
だって、本当に手紙魔すぎるし、ウェルテルの情緒についてついツッコミたくなってしまうのだ。

手紙の内容は、ほぼ全て許嫁のいる(後半既婚者)ロッテへの恋心だ。
ロッテがどんなに素晴らしいか、己がどれだけロッテを愛しているか。
さらに、ロッテの許嫁のアルベルトがめちゃくちゃいい奴で、2人の結婚は手紙越しにも良縁とわかるものだから、彼の苦悩は止まらない。
散々長い手紙を書いているのに、ようやく仕事っぽい話しの内容を書く段で「つまらない話を長々とすまない」って書いてるところにも声が出た。

どの程度の手紙魔かっていったら、それは、つるちゃんのnoteでグラフになっているので、しみじみ眺めて欲しい。いくらなんでも筆豆が過ぎる。
時代が進んで毎日この長さのLINEが来たら、そっとブロックをするか、ギリギリブロックを踏みとどまっても、「がんばって」か「落ち着け」のスタンプでしか返信できない。
ウィルヘルムって、ウェルテルが作り出した幻の文通相手じゃないだろうか、もはやそうあって欲しいと願ってしまう。
最終的にロッテを想いすぎるあまりウェルテルは自殺してしまう。
どう考えてもしんど過ぎるだろう手紙をもらうウィルヘルム。

そもそも、私にはここまでのレベルの狂おしいほどの恋愛感情がない。
これは致命的だった。
ウェルテルの言っていることの半分が理解の範疇を超えていて、彼が熱くなればなるほど、私は眠りに誘われてしまう。3ページ読んではうたた寝。どこまで読んだかわからなくなり、1ページ戻っては眠りに誘われる。
図書館で2週間期限のウェルテル、さらに2週間延長しての格闘である。
途中何度も「助けてつるちゃん!」とつるるnoteを読み返した。

一方『縫いながら…』の方は、平凡な主婦イリスが、フランスでクチュリエ(縫製からデザインまで統括する仕立て師)を目指すという本筋に沿って、それに理解を示さない夫ピエール、彼女の才能をいち早く見抜いた女帝マルト、その女帝の会社を運営している色男ガブリエルの愛憎劇である。
こちらはといえば、このやろピエール!だとか、イリスもっと自信持てよ!だとか、マルト何者なん…とか、ガブリエルの色男ぶり凄まじいな!とか、割と感情が揺さぶられるので、読み進めるスピードは全く衰えない。

後半、狂おしいほど求め合う男女というのも理解できる範囲であるし、まぁ『許されざる恋』の要素ってデカイよねーなどと知ったふうな顔でフムフムしていた。

そう、図らずも『許されざる恋』ものを同時に借りてきてしまったのである。

こうなっては仕方あるまい。
いち平凡な主婦である私が、例えば、こんなにも激しく求められてしまったことを想像してみることにした。
『熱く、射るような視線』であったり『痛ましい涙にむせんだ瞳』に見つめられる私…。

どうしよう、面倒くさいというイメージしか湧かない。想像力が貧相過ぎる。

仕方がないから、相手を鈴木亮平ということにしてみた。
いけないわ!!私には夫が!!

やっと気持ちがノったので、よしよしと思って読み進めるのだが、両方共通して言えるのは、やたらに2人きりになる頻度が高い生活をしすぎている。
我が家に鈴木亮平が普通に出入りしているか、職場の上司が鈴木亮平、かつ他に社員がいないことを想定しなければならない。
そんな近距離過ぎる彼からの、毎日の熱視線である。
いや待て。この想像だと、流石に夫かわいそうじゃない?
ってなった。
これで夫が内野聖陽だったりするならば、私も「2人のどちらかを選ぶなんてできない!」って苦悩しちゃうと思うのだけど。

逆にしてみるとだ。
夫の身近に、熱く射るような、涙にむせんだ瞳で見つめる綾瀬はるかが現れてしまったら。「ひどいわ!私といるものがありながら!」って私は彼を責められようか?
私も木村佳乃ぐらいの貫禄と美貌がないと、あまりにもかわいそうすぎる。

よって、鈴木亮平説はボツにした。
ファンタジーが過ぎる。

で、もう一度、一般的市民として想像力を働かせてみたのだが、結局、面倒くさい…という感情しか湧かなくなってしまった。
正直なところ、恋愛感情に振り回されて、今ある平穏な生活を乱されるのはまっぴらごめんなのだから仕方ない。
ついでに言うと、例えば私の心にぽっかり穴が空いたとして、それを埋めるのが恋愛感情である想像が全くつかない。現時点でなのだけれど。

もし、これが、私が20代前半、モテモテであったと想定しよう。
申し分のない彼氏がいるのにも関わらず、熱い視線が私を射る。
時に涙目になり、私の手をとりキスをしながら「君のいる場所へおかえり」などと言う。

どうしよう…彼氏がいる女性に対して、そんなにむき出しに愛を伝える人、全然タイプじゃないわ…
もっと、厳かにひっそり想いを秘めて欲しい。
「そんな…!私のことが好きだなんて全然気づかなかった…!」
そう言わせてくれ。
むしろ、そのぐらいの気遣いができる異性じゃないと、仮にその後お付き合いする流れになったとして
「お前、あの頃の私に対する情熱どこやった!?」
っていう未来しか想像できないんだが。

結局、私はこの二冊に身悶えするような感情が一切湧かなかったのだ。
恋愛ものにとことん向いていないことがよくわかってしまった。
では、若い頃、恋愛に関する本や映画に興味がなかったかと聞かれたらそんなことは全然ない。
これはもう、年齢的なものと、今の環境がとても大きいのだろう。

ちなみに、ウェルテルが発表された1774年、ウェルテルを真似た自殺者が多発。
『精神的インフルエンザの病原体』といわれたとあるんだが、パワーワードが過ぎる。
私、絶対そのインフルエンザうつらないんだろうな…。
しかしロミジュリはさらにその200年も前からその悲恋を語り継がれているわけだから、今の世と違って、愛が貫けないのなら死の一択というのも、さほど珍しくない話なのかもしれない。

いや、今だってそういった理由で事件は起こっているのかもしれないし、人間なんて、時代が違っても本質は変わっていないのだろうから、たまたま私が今現在平穏なだけなのだろう。ありがたや平穏。

今後も、熱視線の鈴木亮平が私の前に現れないことを祈るばかりである。(何様目線なの)



『甦れ!手紙魔ウェルテル』はつるちゃんの新刊『羽ばたく本棚』にも収録予定とのことです♪






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