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最近のビールが面白い?そしてお酒のこれから

こんなこと書いている場合じゃないかもしれないけれど、最近のビール業界の動きが面白いと思ったので、調べつつお酒の未来どうなるのだろう、みたいなことについても少し考えてみました。

ここ1,2ヶ月で日本のビールが変わりつつありそうだと、他ジャンルながらお酒に関わる身として感じてきました。具体的な出来事としては、以下のとおり。

  • アサヒ 食彩(生ジョッキ缶の上位ライン)リリース

  • キリン 晴れ風発売

  • キリン スプリングバレーリニューアル

  • サッポロ エビス citrus blanc発売

  • サッポロ yebisu brewery tokyoオープン

自分の知っている範囲では、サントリーはあまりめぼしい動きがないように思うので、今回はこの三社について少しずつ見ていこうと思います。

アサヒ

まずは「アサヒ食彩」のリリース。正確には7月くらいからコンビニ限定で流通させていたみたいで、全業態で発売を開始したのが3月のようです。

アサヒ食彩は生ジョッキ缶のプレミアムラインで、名前のとおりちょっと良い感じのおうちごはんと食べるのを想定していそうです。ちなみに値段は、340mlで284円。

これを初めて知ったときには、生ジョッキ缶懐かしい!と素直に思いました笑 初めてリリースされたときにはコロナだったのもあって一時期とても話題になっていましたが、ここにきてようやく(?)別ラインが出てくるんだなあといった感じですね。

ちなみにリリースによると、生ジョッキ缶は韓国で人気らしいです。また「未来のレモンサワー」という商品名でレモンスライスが入ったフルオープンタイプのレモンサワーも6月にリリースされるみたいで、「フルオープン缶×シンプルデザイン×高単価」、といったラインで今年はせめてきているといった印象ですね。
フルオープン缶の今度、どうなんでしょうか。ちょっと気になります。

https://www.asahigroup-holdings.com/ir/event/pdf/kessan/2023_4q_presentation.pdf

キリン

晴れ風発売

なんと17年ぶりにスタンダードビールの新ブランド「キリンビール 晴れ風」が新発売されることになったらしいです。公式によると、

今回発売する「晴れ風」は、大きく2つの特長があります。1つ目は、現代のお客様の嗜好を捉えた、「ビールとしてのうまみや飲みごたえ」がありながら「飲みやすい」、新しいおいしさです。2つ目は、今この時代に発売するブランドだからこそ発想した、「晴れ風ACTION」です。「晴れ風ACTION」とは、昔からビールを楽しむシーンを彩り、お客様の笑顔をつくってくれた、お花見や花火といった「日本の風物詩」を守る活動に、本商品の売上の一部を寄付し、未来へとつないでいく取り組みです。

ぶっちゃけ思ったよりも、17年ぶりの割にインパクトが無い笑 ちなみに中味については

①麦芽100%
副原料を使用せず、麦のうまみを丁寧に引き出すことで、雑味のないきれいな味わいに仕上げました。
②日本産の希少ホップ「IBUKI」を使用
爽やかな柑橘香が特長の、日本産希少ホップ「IBUKI」を使用。添加タイミングにも工夫を凝らし、ホップの香りが奥ゆかしく、穏やかに香る設計としています。
③酸味の抑制
ビールの飲みづらさにつながる過度な酸味を抑えるため、仕込工程と発酵工程において工夫を凝らし、まろやかな味わい・スムースな口当たりを実現しました。

ということらしいが、これもイマイチ印象が薄い。もう少し詳しく調べてみると、足し算→引き算へのシフトということで、後に紹介するクラフトビールラインとは真逆の発想の商品のようです。

価格としてはネットだと340mlで180円くらいになっており、プレミアムラインではないですが、私個人のイメージとしてはキリンはクラフトビールに結構力をいれていそうだったので、まったく逆のポジションのビールをリリースすることが結構意外でした。

どういった顧客を想定していて、商品開発にあたってどのようにヒアリングをしたりフィードバックを受けたのかはわかりませんが、クラフトビールブームでの味わいの多様化から、揺れ戻しがきているのかしら、と気になるところです。

スプリングバレー リニューアル

そしてもう一つ目を引いたのが、キリンのクラフトビールラインであるスプリングバレーのリニューアルです。

ざっくりいうと、まだ多くの顧客がクラフトビールを飲んだことすらないから入口として飲んでもらえるように、ということみたいです。

2021年とかの段階ではキリンも、クラフトビールめっちゃ伸びてる!というのを出していましたが、昨年度の決算では前年度比△0.1%と伸びがわるく、対して一番搾りが△5.4%と好調。
スプリングバレーはまだ一定の需要があるだろう「クラフトビールの入口」として置きつつも、どちらかというとキリンブランドの強化に軸足を移すのかなという印象があります。

https://pdf.irpocket.com/C2503/KNIO/lotA/KYU4.pdf

コンビニに行ってもスプリングバレーはだいたい3種類ちゃんと置いてあるところが多く、動きの割に棚の占有率が高いのがすごいなと思います。棚がしっかり作れているからこそ、面取り作戦で初回の顧客との接点を増やすというのは納得ではあるし、キリンにしかできなさそうですね。

サッポロ

yebisu brewery tokyoオープン

キタキタ!これが一番おもしろいと思っています笑

まさかのサッポロだけ小規模醸造所をオープンするという奇行に走っているわけですが笑、この予兆はすでに一年前からありまして、エビスが「CREATIVE BREW」という新ブランドを立ち上げていたのです。

最初はエビスのルーツを意識したもので、第二弾がオレンジ使用、第三弾がレモングラス使用と、クラフトビール的な流れを意識したような、今までのエビスとは全く違う商品が印象的です。

私は第三弾の「citrus blanc」から知って飲んでみたのですが、これが結構完成度が高く、素直に驚きました。

ちなみに認知のきっかけはCM。フィルム風の映像でロウファイな感じは一つの(ちょっと前の)流行りではあるけれど、あまりビールのCMでは見たことなかったし、それにあのエビスがレモングラスいれて造っただと…!?とびっくりしたのを覚えています笑

そして何より面白かったのが、造り手のサインが入っているということ笑 私が知る限りプレモルのマスターズドリームとかでもいれてないような気がするので、衝撃でした笑 ちなみにこの有友さんはこのあともめっちゃ登場しますし、Xではハッシュタグ(#有友亮太)も存在します笑

そんな流れでまさかのまさか、恵比寿に小規模醸造所のyebisu brewery tokyoが4月に開業。全然知りませんでした。恵比寿でビール醸造を行うのは36年ぶりだそうで、以前のエビスミュージアムみたいなところには行ったことがありますが、そこを17億かけて改装して130KLの製造設備…。

というか、設備がドイツ製の銅製の仕込釜!!すごいな!金かかってそう!
銅製の釜って昔の設備のイメージだったけど、今でもあるんですね。畑が違うので全くわからないのですが、醸造的にはどうなんでしょう。とても気になります。

そして何よりおもしろいのがこの商品のネーミングとキャッチコピー笑!!「エビス∞」は百歩譲るとして、「Foggy ale 2024」と「煙々」のネーミングセンス。良い悪いよりも、大手っぽくなくてビビります笑 ビールは不確かなもの、ビールは瞑想…笑

キリンのスプリングバレーはその点めっちゃわかりやすい。香!豊潤!白!明々白々です。

「伝わりづらいかな、これ?」みたいな懸念をいとも簡単に突破してしまう、しかもものすごい方向に笑 ちなみに同ページにはデカデカと有友さんが載っています。

インタビュー記事もある

決算資料にも「顧客接点を拡大し、熱狂的なファンづくりを推進」とのっているし、サッポロだけが明確にオフラインでのタッチポイントを重視しています。そしてメッセージもしっかりつくっている。

https://www.sapporoholdings.jp/ir/library/description/items/2023__12_setsumei.pdf

それにこういう場所があると、もちろん顧客接点を増やす機会にもなるし体験価値を増加することにもつながるけれど、何よりテストマーケティングの場になるのも大きそうです。ここで反応がよかった商品はCREATIVE BREWで大きく生産、というようにオーガニックなモノの流れが見えてきますね。

またビール自体の話でいえば、僕が飲んだcitrus blancもそうなのですが、既存のビアスタイルにあまりこだわっていなさそうな点も非常に興味深いです。

ここでも対比になるのですが、スプリングバレーの場合はエール、IPA、白ビール、というように明確にジャンルわけできるかつそう発信しているのに対し、citrus blanc / foggy ale / 煙々ではあまりスタイルを明確に打ち出していないです。もちろん順に、白ビール系、hazy IPA、ラオホと分けることはできるものの、まったく前面に出てきていません(何ならラオホについては全くない)。

クラフトビールという市場の中で、大手らしく価格的にも物流的にも入口になるものとして売り込んでいるスプリングバレーに対して、商品のコンセプト先行のエビス、なのはとてもおもしろいです。

私は少し前まで、日本酒のなかで様々な副原料をつかって造るクラフトサケの世界にいたので、どちらかというとエビス側の気持ちに共鳴するところが大きいです。日本酒の既存のスタイルからは大きく外れたことをやっていたので、だからこそ自分たちでメッセージとコンセプトを明確にして、醸造技術と原料をフラットにみて商品に取り入れて美味しいものを造ることを重視していた経緯があるからです。(もちろん既存のスタイルには、それが続いているなりの素晴らしさがあります。)

また別の観点でも考えたいことがあります。

モノを買う動機はここ10年くらいで大きく変わっているのではないか、といわれているし、僕もそう思うのですが、そういった点からも今回のエビスの取り組みは面白いと思っています。

とりあえずビール、というような簡単に交換可能なモノを求める消費活動においては、重要なのは価格と質と機能です。当たり前ですが、消費財としてはより安くて、より質が良く、より機能が良ければよいわけですね。ブランドとしてのメッセージよりも、モノ自体に焦点があたります。

個々人の偏向の違いはあれど、基本的にはビールが飲みたくてビールを買うのであって、アサヒが飲みたいからアサヒを買う、というのは稀です。

しかしこういった購買行動を支えているのは、強力な共通前提です。週に一度は会社の人と飲み会に行く、そしてまずはビールを飲む、あるいは毎日晩酌をするのが当たり前でビールは常に必要なものとしてストックしている。そしてこれを多くの人が共有している。こういったものの中にあるからこそ、ビールは必要とされていたし、その中で価格や質の面で複数社が競争していました。(その流れの中で発泡酒がうまれてくるわけですが、発泡酒という枠があったからこそ日本でクラフトビールカルチャーが生まれた側面もあり、皮肉なものです。)

しかし酒離れと叫ばれて笑、久しいもので、お酒に限らないですが、特に若年層を中心にこうした共通の消費行動はだんだん一般的でなくなってきています。

ここからも月並みな指摘ですが、現在の消費行動として(良いか悪いかはともかく)注目されるべきは推し活等の行為であり、これはモノの価値をあまり前提にしていません。例えばアパレルであったとしてもインフルエンサーのオリジナルブランドのものなど、モノに付与された情報の価値が高まっています。モノはもはやそれ自体でなく、コンテンツに付随するものになってしまった、というのでしょうか。

お酒でいえば、ホストクラブでのお酒のあり方はとても興味深い例だと思います。以前であれば法外に高いシャンパンでも、ドンペリなりそれなりのものを使っていたのに対し、最近は写真をいれたりしたオリジナルボトルで中味は安物を使う、というのも多いようです。美味しい酒を求めているわけではないから当たり前ですが、しかしそのボトルに何万もの価値がつくのか、というのはお酒に関わる身としては考えさせられることです。

とにかく私が考えているのは、ビールとして買われるビール、クラフトビールとして買われるクラフトビール、日本酒と買われる日本酒、まあ挙げたらキリがないですが、こういった消費は緩やかに下降していくだろうということ。その代わりにファン的な消費がこれからもまだ上昇するだろう、ということです。

推し活ほど極端な例でなくとも、おそらくブランドの消費者の囲い込みはどちらが望むにかかわらず進行していくと思います。積極的に企業・ブランド・インフルエンサーが仕掛ける場合もあるでしょうし、消費者としても気づいたら情報のフィルターバブルの中にいた、ということも多くあるでしょう。

その中でアサヒやキリンは、ビールとしてのビール、クラフトビールとしてのクラフトビール(なんという同語反復笑)のように映るのに対して、サッポロのエビスは別の方角を向いていそうだな、と感じたのです。ようやっと話が戻ってきました。

だから基本的にはエビスが面白いことやりはじめたなとしか思わないのですが、それでも大手がこれだけ醸造責任者の顔を出すのは特別に面白いですね笑 企業系のyoutubeとかも、やっぱりイマイチ人気でないのは人の顔が見えないからというのも大きいと思うのですが、できないなりの理由もあると思っていて、一番シンプルなのが辞めたらどうするの問題ですよね笑

個人的にはこれ以上積極的に顔が出ることは無いだろうとは思っているのですが、その点でも注目してみたいですし笑、何よりどれくらいファンを獲得できるのか、どのように顧客とのコミュニケーションを成立させていくのかはとても気になるポイントですね。

最後に。背景とこれから

流石に触れないわけにもいかないので、知ってるよ!って人も多いと思いつつ、これらの背景にあるのは明らかにビールの酒税一本化です。端的にビールの酒税が今よりも安くなるから価格を下げやすく、需要が大きくなっているのだろうと思います。

一本化の背景としては、ほぼ同じような商品であるにもかかわらず酒税の差があることによって、開発力を持つ企業だけが得するのを止めよう、みたいなことのようです。なるほど。

しかし私がこれに関連して気になるのが、大手ではなく小規模な醸造所です。小規模な醸造所ではビール免許ではなく発泡酒免許で造っているところが多いと思います。自身と業種は違うためこういった事情を正確に把握しているわけではないのですが、ビール免許は最低製造数量のハードルも高く、小さい事業者にとっては発泡酒免許から始める事例が多いと思います。

まずそういった事業者にとっては令和8年度以降は増税になるわけですし、何よりこういった大手間の動きによって左右されてしまうのは、小規模事業者の宿命とはいえ難しい問題だと思います。そういった事業者によってクラフトビールが日本でも盛り上がった背景もあるのに。

これからのこと(面倒になってきたので少しだけ)

タバコの次は酒だ!とよく言われるように、私もお酒全体はこれから少しずつ厳しい局面を迎えていくと思います。しかしその中で、今回ビールのコモディティとしての安さ競争ではなく、大手が付加価値ベースでそれぞれ違う方向を向き出したのは日本のお酒にとって何かしらの意味があるのかもしれません。

またタバコと性格が違うのは、やはり民間の力が大きいことだと思います。特にビールについては日本的伝統企業である各社がいるわけですから、そこまで速く規制の強化が訪れるとは思いません。ただ増税や条例等でのブレーキ要因がなくとも、消費者心理としてお酒離れが進むのは間違いないでしょう。

私はまだ事業が始まってすらない状態ですが、大手とは全く違う戦い方を取る一方で、人とお酒の距離が大局的にどう変わっていくのかは注視する必要があると思いますし、何よりごく個人的に興味があります笑。

というわけでざっくり気になったことをまとめてみました。次はそろそろ自分のやることについても発信していきます笑

おわり

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