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「愛ある賃貸住宅」を続けたくて

実際の物件管理の場面で大家であるあなたが汗をかいてやれる仕事はそう多くないだろう。
しかしあなたが建てたアパートやマンションの部屋で毎日眠り目覚め 食事を摂り 勉強したり 仕事にでかけたり 時に友と語らい 時に恋をして社会人として成長していく若者のことを自分の物件にふさわしいとあなたが選んだ若者の人格を慈しみ その暮らしを思いやることはできる。
いやそれはあなたにしかできない仕事だ。
この愛のないつまらない市場をなんとか愛ある市場に変革したい。
このような考え方に共感してくれる大家さんが一人でも増えてくれることを。
そして1人でも多くの住まい手が愛ある暮らしを実現してくれることを。
その結果、1つでも多くの建物が愛されることを。

島原万丈さんによるNYC, London, Paris & TOKYO 賃貸住宅生活実態調査「愛ある賃貸住宅を求めて」より


私は東京都荒川区の尾久という町で、おばあちゃんから継いだ築約40年のマンション「トダビューハイツ」大家をしています。

ちょっと前まで継ぐ気はなかったけれど、

・一人暮らししてみて荒川区とトダビューハイツの「顔の見える関係性」の良さ、それは一朝一夕では作れないということに気づいた

青木純さんに出会った

ことで、運営を自分でやってみようと思い至りました。

大家という仕事と私のクリエイター業の接点が思い浮かばずに過ごしてきましたが、青木さんとお話しし、上記・島原さんの「愛ある賃貸住宅を求めて」を読み、そんなイメージが飛びました。

愛ある賃貸住宅を育める大家は、町の個性を作れる可能性に溢れたクリエイティブな仕事だと思いました。

そして、私のおばあちゃんは思えばそんな「愛ある賃貸住宅」を作る大家に近いのではと思いました。

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家賃は手渡し、回転の無い賃貸住宅

というのも、うちの物件は数年前まで家賃は手渡しで、手渡しついでにお茶とお菓子を挟んで世間話をしていました。(振込みじゃなくて手渡しが良いという住人さんの声があったそう)

「窓越しにスカイツリーが見たい」という住人さんがいれば、すりガラスを透明ガラスに無償交換。(祖母曰く「もちろん住人さんが良い人だからやったのよ」とのこと)

住人さんの方はというと、新築当初から約40年以上住んでる方たちもいます。全部屋でも平均すると約10年近く住んでくれている、回転の少ない物件。

他人任せの物件は冷えていく

このようなありがたい状態で運営してきたのですが、祖母が高齢になり、色々と家庭事情も重なり、自主運営が厳しくなってきた時期がありました。そこで管理会社さんに全てをお任せすることに。そのタイミングで周りに新築マンションが続々と建ち、今までなら募集後すぐに満室になっていた空室が埋まらなくなってきました。さらに住人さんからはやんわりと、「戸田さんが管理していた時の方がよかった」と伝えられたことも。

「愛ある賃貸住宅」を続けたくて

空室率が上がり物件の空気が変わってきた様子を見て、私は他人任せをやめて大家業を継いでみようと決めました。「祖母がしてきた大家の仕事に、私のデザイナー業を加えてできることを試したい」と思ったし、大家と住人さんのコミュニケーションがある「トダビューハイツの風景を残したい」と思ったから。祖母が作ってきた「愛ある賃貸住宅」を続けていきたいと思いました。

今でも毎日「いってらっしゃい」「おかえりなさい」を言ってくれるトダビューハイツの住人さん、ご近所さんたちがいるあたたかさ。トダビューハイツを他人任せにしたら、エリアを形成する「人」の温度感が冷めて、大げさに考えれば治安悪化にだってなるかもしれない。程よくのんびり暮らせる空間を作れるように、ちょっと頑張ってみよう。

そう思い立ってから試行錯誤を続け、トダビューハイツは満室になり、住人さん同士のイベントを開催できる物件になってきた次第です。


最後に、感銘を受けた島原さん語録をもう一つ貼っておきます。

愛で飯が食えるのかとよく聞かれました。でも、愛がないと飯は食えない。
高い入居率や家賃が維持できるのは、他にない魅力をきちんとつくり、住人の愛着を育んでいるから。大家と住人や住人同士の関係性が築けていれば、トラブルやクレームは減り、住人が自発的に物件管理をしてくれるので、管理コストも下がる。
愛ある賃貸住宅は、賃貸住宅業の経営効率を改善し、かつ、大家業を誇りある仕事にする武器です。
引用元

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