戯曲 三階①
【登場人物】
兄
弟
郵便ポスト
劇場係員
パントマイムの男
少女
客1/白衣1
客2/白衣2
客3/白衣3
客4/白衣4
【第一場】
ハッピーバースデーのオルゴール調のメロディーが流れる。
舞台の上手側奥に段があり、スロープで上り下りできるようになってい る。スロープの上が兄の部屋。勉強机と椅子。少年が机に突っ伏して眠っている。曲が終わると、パジャマ姿の弟が登場する。
弟 お兄ちゃん。
兄 むにゃむにゃ。
弟 お兄ちゃん起きてよ。
兄 うーん。なに……
弟 玄関が開かないんだ。
兄 あ? あー。うたた寝しちゃってた。なんだよ。
弟 玄関のドアが開かないの。
兄 開かない? どうして。
弟 雪で。
兄 は?
弟 雪だよ。いっぱい降ってるよ。
兄 まさか。
弟 ほんとだよ。
(兄、窓を開ける。)
兄 うわ。すげえ積もってる。
弟 雪で重たくてドアが開かないの。
兄 嘘だろ、もう5月だぞ。
(弟、くしゃみをする。兄、窓を閉める。)
兄 そんな格好でいたらまた風邪ひくぞ。布団に戻れよ。
弟 お兄ちゃん、ポストを見てきてよ。
兄 ポスト?
弟 手紙が来てるかどうか。
兄 こんな時間に郵便は来ないよ。
弟 今日、ポストに手紙入ってるか見てくるの忘れたんだもん。一昨日も昨日も来なかったから、きっと今日は届いてるはずなんだ。
兄 手紙は逃げないって。
弟 手紙が雪に埋まっちゃったらどうするの。
兄 まさかそんなに積もんないって。
弟 でも家から出られなくなっちゃったらどうするの。
兄 昼間になれば溶けるって。
弟 手紙が雪で濡れちゃうよ。お兄ちゃんがポスト見てきてくれたら寝るよ。ねえ。お願い。
兄 わかったわかった。屋根から降りて見てきてやるよ。
弟 ほんと?
兄 今日だけな。誕生日だから。
弟 えへへ。
兄 だから寝ておいで。
弟 うん。待ってるね。
兄 待ってないで、ちゃんと寝てろ。
弟 うん。(上手に去る)
(兄、長靴を履く。窓を再び開ける。大きくくしゃみ。戻って上着を身につける。窓から出て屋根に降りる。弟が窓から顔を出している。)
弟 お兄ちゃん。
兄 (部屋のほうを見上げて)こら。寝てろって言っただろ。
弟 ケーキみたいだね。雪。おいしそう。
兄 ああうん。生クリームみたいだな。
弟 ポストの中、ちゃんと見てきてね。
兄 わかってるよ。
弟 ポストと封筒が同じ色だったら見えないから、ちゃんと手で触って確かめてよ。
兄 わかったから、さっさと寝ろ。
弟 はーい。(去る)
(照明が兄にしぼられる。兄、弟のいたほうをしばらく見上げる。)
兄 ハッピーバースデー(雪をすくって舐める)。甘い。
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