日本と欧米のライブハウスの違い

※こちらの記事は全文無料です。応援してくださる方は是非ご購入やサポートの程宜しくお願い致します。ただ、設定金額が前回より金額が値上がり千円に変更となっておりますのでご注意ください。その理由についてこちらをご覧ください。

欧米には無い制度

カナダ出身で現在日本で音楽活動をしているミュージシャンに、カナダのライブハウス事情について聞いてみたことがあります。
その方曰く、そこまで詳しくはないがと前置きをしたうえで、

カナダでいうところのライブハウスは居酒屋とかバーみたいな場所で、そこに出るミュージシャンたちはそのお店での演奏が終わったら次の現場というように、なん箇所かお店をまわってお金を稼いでいきます。
ノルマはないですが、日本みたいに十分な機材はそろってないので自分たちで持ち込む事が多いです。
ノルマがある場所というと、どちらかというと500人規模とかある程度大きな会場で、プロモーターなりが運営を行うようなコンサートというイメージです。

とお話してくださいました。

また、現在の日本の音楽シーンについて書かれた 烏賀陽弘道 著(2017)『「Jポップ」は死んだ』扶桑社 にはこのようなことが書いてありました。

筆者が見聞したアメリカ、イギリス、フランス、ドイツといった欧米と、その影響下にある香港、フィリピンといった国の話でいえば、日本でいう「酒場」「レストラン」の片隅にステージがあって、そこでバンドが演奏している。そんな形態が数の上では大半である。
(中略)
 もちろん日本のライブハウスのように、大きなステージと照明・音響施設を持ち、客は音楽を聞くために集まる店もある。が、それはどちらかというと名前がすでに広く知られたプロ・ミュージシャンが出演者の中心であったり、観光客向けの店であったりする。「小型コンサートホール」といえばいいだろうか。
 ミュージシャン側から見ると、日本の旧来型「ライブハウス」が欧米のクラブやバーと決定的に違うのは、出演者からお金を取ることである。

烏賀陽弘道 著(2017)『「Jポップ」は死んだ』扶桑社 p27-28


さらに、まさにライブハウスについて書かれた、宮入恭平 著(2008)『ライブハウス文化論』青弓社 にも欧米(アメリカ)と日本の対比が書かれており、

※[]は筆者注釈

ライブハウス[日本]とミュージック・クラブ[アメリカ]の違いは、呼称だけではなくシステムそのものにもみられる。ライブハウスとミュージック・クラブのシステムで、もっとも顕著な違いはノルマの有無だ。ライブハウスではあまりにも当たり前になっているが、ミュージック・クラブでのミュージシャンへのノルマ課金は稀なことだ。

宮入恭平 著(2008)『ライブハウス文化論』青弓社 p169-p170

上記で紹介した三名はいずれも欧米の音楽シーンを現地で体験してきた方たちであり、その内容が殆ど一致していることからしても、少なくとも欧米ではチケットノルマが一般的ではないことに信ぴょう性があります。

ではチケットノルマ以外に日本と欧米では音楽シーンにどのような違いがあるのでしょうか?

上記で紹介した書籍の内容や、独自に調べた情報を基に書いていきたいと思います。

また記事を書き進めるにあたり宮入恭平さんの表記に倣い、日本式ライブハウスを“ライブハウス”、欧米式ライブハウスを“ミュージック・クラブ”と区別することにします。

・サービスの違い


まずはこちらの写真をご覧ください。

こちらは僕がかつてやっていたバンドのライブ映像のキャプチャ画像ですが、フロントの三人の楽器(ギターやベース)以外のほぼすべてがライブハウスに据え付けられている設備であり、本格的な照明があり音響機器などが充実していることがお分かりいただけると思います。

日本では当たり前な音楽シーンなので、充実しているといわれてもいまいちピンと来ないかもしれませんが、ここで世界の音楽の中心といわれるニューヨークのミュージック・クラブを画像検索した結果をご覧ください。

▽Google画像検索で「music live bar new york」と検索した結果▽
https://www.google.co.jp/search?q=music+live+bar+new+york&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwiY9IayxcPcAhWXeisKHSEaASsQ_AUICygC&biw=1366&bih=586

一方、同様に日本のライブハウスを画像検索した結果をご覧ください。


▽Google画像検索で「ライブハウス ステージ」と検索した結果▽
https://www.google.co.jp/search?q=%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9+%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B8&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwin6YTWysPcAhWaMd4KHSf5CJAQ_AUICigB&biw=1366&bih=586


両方の結果を見比べてみると、ぱっと目に入る写真のきらびやかさが異なることが一目瞭然だと思います。

ミュージック・クラブの画像検索結果の中にも本格的な設備がある画像が何枚かありますが、そのような写真の会場はキャパシティが5、600人以上、中には数千人収容の会場だったりと規模が異なります。
ライブハウスの何倍も人が収容できるような大きな会場に匹敵する本格的な機材一式が、キャパシティが200~300人程度の会場にも標準設置されているのがライブハウスの一つの特徴です。

また、ライブハウスはスタンディングが主流ですが、ミュージック・クラブは基本的にテーブル席が用意されており、軽食だけでなく本格的な食事を提供しているお店も少なくありません。

▽ニューヨークのミュージック・クラブを紹介しているサイト▽
https://ny.eater.com/maps/best-live-music-restaurants-bars-nyc

一方、ライブハウスに用意されている食べ物は、コンビニで100円程度で売っているおつまみやスナック菓子であることが多いです。
そして調べている中で、なんとライブハウスの店長自らがライブハウスのフードについて書いているnote記事がありました。

佐藤"boone"学 著 note記事「ライブハウスとフード」
https://note.mu/boone4649/n/n3ce8c6a8f0f8

この記事に関する感想はここでは省きますが、現場で働く方からすると臭いやスペースなど、様々な事情でライブハウスの本格的なフード提供は難しいようです。

・お店自体の違い

続いて、ライブハウスとミュージック・クラブの違いはステージとお店自体にもあります。
ライブハウスには客席より5、60センチほど高いステージと柵が用意されていることが殆どですが、ミュージック・クラブは写真を見る限り地面に直置きか、十数センチ程度の台の上がステージとなっています。

さらに、ライブハウスはビルのテナントであることが多く、騒音問題にならぬようしっかりとした防音設備が施されていますが、ミュージック・クラブはテナントではなく独立した店舗経営であることが大抵で、必ずしも防音設備が施されていることはなく、場所によっては元倉庫を居抜きとしている場合もあります。

▽オレゴン州ポートランドにあるDuff's Garageというミュージック・クラブ▽

https://www.portlandmercury.com/locations/87528/duffs-garage

https://www.youtube.com/watch?v=bRUKZhY_9dI

また、後述するBar9というお店も見る限り防音設備はなさそうですし、宮入恭平 著(2008)『ライブハウス文化論』青弓社によれば、

日本のライブハウスからは想像できないかもしれないが、演奏の音が外にまで聴こえるように、窓やドアを開け放している店がほとんどだ。
そのおかげで、観客は事前に「品定め」ができるというわけだ。

宮入恭平 著(2008)『ライブハウス文化論』青弓社 p180

とあり、寧ろ店内のバンドの演奏を店の集客に利用しているようです。

・利用客の目的の違い


また、お客さんの楽しみ方にも違いがあります。
ライブハウスの聴衆者はお酒などを飲みながら、ステージ以外をよそ見することは無礼といわんばかりに、真面目にステージに立つバンドの演奏を聴いてくれています。
先ほど冒頭で紹介した私のライブ出演時のキャプチャ画像を見てもそのことがお分かりになると思いますが、客席の方々は立ちながらよそ見をしている様子は一切ありません。


他方、ミュージック・クラブに来ているお客さんは必ずしも音楽を見聞きしているとは限りません。
音楽を聴きながら食事をしていたり、ダーツ、ビリヤード、その他ゲームをしていたりと、ミュージック・クラブという空間を楽しんでいるように見受けられます。

▽ミュージック・クラブでは演奏を見ずに二階で食事を楽しむ人たちの様子がうかがえます▽
https://www.youtube.com/watch?v=JR9Cv7vpOGU


▽NewYorkにあるBar9というお店の様子▽

https://www.youtube.com/watch?v=S3OQkLUE5wo

https://www.timeout.com/newyork/bars/bar-nine


・文化の違い


また日本にはない欧米の文化としてチップがあります。
欧米では職種や環境によっては労働賃金が著しく低くチップが重要な収入源となっている場合が少なくないそうです。

▽2016/03/21 BUZZ FEED記事「チップ制度を終わりにしたい」動き出した米レストラン関係者たち▽


▽諸外国における最低賃金制度の運用に関する調査
―イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ―
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)▽


JILPTのレポートによればチップを分配しない経営者が後を絶たないそうで、もしその習慣がミュージック・クラブにおいても例外でないとすれば、結果としてミュージック・クラブの人件費が抑えられていることになります。

近々アメリカでバイト経験のある方とお会いする機会があるので、チップや労働環境の話を聞いてみたいと思います。


では最後に、ライブハウスとミュージック・クラブの違いを総括します。

ライブハウス[日本]
・照明や音響機材が充実している
・キャパシティは200~300人程度が多い
・基本的にスタンディング
・バンド鑑賞が主目的
・大抵チケットノルマがある
・スタッフの収入源は労働賃金のみ

ミュージック・クラブ[欧米]
・簡素なステージ設備
・キャパシティーは100人程度
・基本的にテーブル席
・必ずしもバンド鑑賞が目的ではない
・出演者には大抵ギャラが支払われる
・スタッフの収入源は労働賃金とチップ


こちらでまとめたライブハウスとミュージック・クラブの違いを基に、今後はライブハウスでチケットノルマが続いている理由などを考察していきたいと思います。

参考図書
烏賀陽弘道 著(2017)『「Jポップ」は死んだ』扶桑社
宮入恭平 著(2008)『ライブハウス文化論』青弓社

ここから先は

0字

¥ 1,000

頂戴したお金は、ミュージシャンがより良い音楽活動ができるようなロールモデルとなる為に必要な活動資金など、有効活用させていただきます。