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【創作大賞応募作品】水戸黄門拉麺漫遊記 2杯目 「信州·千と権蔵の蕎麦勝負」【漫画原作部門】

【信州(長野)の宿場町、夏】

光圀 「おー、どこもかしこも、蕎麦屋だね」

助三郎 
「信州と言えば、蕎麦。蕎麦と言えば信州といわれておりますゆえ」

八兵衛 
「さっそく一杯、食べましょうよ」「あれ?でも全部同じ看板だ」

すべての蕎麦屋が「信州そば 権蔵庵」となっている。

格之進 「あの、一軒だけは違うようですが、、、」

【千両庵前】

 「(店内から)おいおいおいおい!こんなもん喰わせやがって!」「なんで、蕎麦が汁のなかに漬かってるんだよ」

「そんな蕎麦があってもいいじゃないよ」

女が道に放り出されてきた。

光圀 「格さん、助さん」

格助 
「はっ!」

格之進 
「(男たちを取り押さえながら)おなごに手を挙げるとは何ごとじゃ」

男① 
「つゆに浸かっちまってる蕎麦なんて、喰えるか!」

ナレーション 
「この時代、蕎麦といえば、盛り蕎麦であった。いわゆるかけそばが現れたのは、このあとの時代のことである」

男② 
「そういう、お前らは何者だ?」

光圀 
「俺は水戸のちりめん問屋の隠居・三右衛門だよ。こっちは連れの助さん、格さん、八な」

男② 
「自己紹介しろとはいってねえ」「(立ち去りながら)おぼえてやがれ!」

【千両庵、店内】


お千 「ありがとうございます!」

光圀 
「どうしたんだい?」

お千 
「実は、このあたりのお蕎麦屋さんは、みんな権蔵って親分に買収されちまって」「やだっていったら、毎日このありさま」「周りの店もこうやって、みんな権蔵の暖簾に替えさせちまったんです」

助三郎 
「なんでまた、そんなことを?」

お千 
「権蔵は、儲けを独占したいんですよ」「お代官も絡んでるとか」

お千 
「でもね、私は自分だけの蕎麦を出したいんです」

権蔵が子分と共に店に入ってくる。

権蔵 「俺は、信州のそばを思ってやってるんだぞ」

お千 
「それにしちゃ、ずいぶん、手荒いマネするじゃないか」

権蔵 
「俺は、別に手荒いマネしろなんて、言ってねえよ」「おい、お前ら気をつけろよ!」

子分 
「(ニヤニヤしながら)へいっ」

お千 「権蔵親分のマズい蕎麦なんて、出したくありません」

権蔵 
「俺の蕎麦がマズいだと、、、」

権蔵 
「おい、だったら味勝負だ」「明日の祭で、祭客にどっちがうまいか投票させようじゃないか」「俺が負けたら、手を引いてやる」

お千 
「望むところだわ」

手下 「(立ち去りながら)吠えづらかくなよ!ははは」

お千 「ところでご隠居さんたち、蕎麦打てる?」

助三郎 
「いや、蕎麦は打ったことがないでござる」

お千 
「だよね、、、明日300人は祭りに来るから一人で打つの無理なんだよね~、どうしよ~」

光圀 
「今から作れねぇのかよ?」

お千 
「蕎麦は打ったらすぐに食べないと、乾いちゃうのよ」「権蔵の息がかかった職人が手伝ってくれるはずもないし」「どうしよ~」

【代官の屋敷】

権蔵と代官が代官の部屋で密談をしている。
権蔵 「、、、左様で。あとはお千の店のみでございます」

権蔵 
「信州そばを独占してしまえば、看板料で丸儲けができると知恵をくださったのは、お代官様ではございませぬか」「さすれば、代官様の懐にも、、、」

代官 
「ふふふ。明日が楽しみじゃな」

【宿場町、蕎麦屋が並ぶ通り】

光圀 「なあ、俺に、知恵があるんだ」「ちょっと台所貸してもらえねえか」

お千 
「別に構わないけど、、、」

光圀 
「かまどの炭も分けてもらうぜ」

お千 
「炭!?」

光圀、ニヤリと笑って、炭を甕の水に流し込んだ。

お千 「ちょっと!なにしてんのよ?」

拉麵を作る一行。

光圀 「このどんぶり、借りるぜ!」「へい、お待ち!」

お千の前に、光圀が拉麵を出した。

お千 「なに、これ?」

お千 
「蕎麦のような、、、うどんのような、、、」

お千 
「でも、麺は黄色っぽいし、縮れてるし、、、」

お千が恐る恐る拉麵を口に運ぶ。

お千 「この腰の強さ!」「この縮れ!」「この薬味!!」

お千 
「おいしーーーい!!」

光圀 
「これはな、拉麺っていうんだよ」

光圀 
「小麦粉と灰の上澄みで作った麺だ」

お千 
「炭の上澄み?!」「誰がそんな素っ頓狂なこと思いついたんだい?」

照れてもじもじする八兵衛を助三郎が、後ろから小突いた。

光圀 「この麺は、打った次の日も喰えるんだよ」

ナレーション 
「小麦粉はグルテンの働きにより、蕎麦粉よりも遥かに高い保湿性と柔軟性、弾力性があるのだ」

お千 
「明日は拉麵にしちゃいましょ!」

光圀 「助さん、格さん」

助三郎 
「はっ!明日朝までには必ず人数分を!」

【千両庵。祭り当日】

準備を進める一行。
格之進 「ところで、どんぶりはどこだ?」

お千 
「うちは、蕎麦屋なんだから蕎麦猪口しかないよ」「どんぶりは、あの1つだけ」

格之進 
「な、なんと!」

助三郎 「、、、終わった」

光圀 
「始めてもないこと終わらすなよ」「ま、やってみてから悩もうぜ」

【祭り会場】

蕎麦対決!ののぼりが見える。権蔵の「信州蕎麦 権蔵庵」の屋台にはすでに行列が出来ている。

【千両庵屋台】
おちょこ拉麵が屋台に並ぶ。しかし、興味を示す客は皆無。

八兵衛 「うまいよー。どうだい、お兄さんたち」

客 
「これっぱかしじゃ、腹、膨れねえよ~」

権蔵がやってきた。
権蔵 「蕎麦猪口に縮れたうどん?」

お千 
「これがうちの仕立てなんだよ!」

権蔵 
「せいぜい、頑張んだな!」高笑いしながら、去っていく権蔵。

お千 「やっぱり、どんぶりじゃないとだめか」

格之進 
「拉麵は、つゆに浸かってるもんだからな」

光圀 
「拉麵は、つゆに浸かっているもの、、、」

光圀 
「そうじゃ!」「水をもて!はやく!!」

格之進 
「はっ!」

お千 
「ご隠居さん、どうするんだい?」

光圀 
「こうするんじゃ!」
光圀は、ゆでた麺を水を張った桶に放り込むと洗い始めた。

助三郎 「ご老公、何を?!」

光圀 
「もり蕎麦ならぬ、もり拉麵じゃ!」

【屋台前】

八兵衛 「量もたっぷり、もり拉麵だよー。お兄さん、どうだい?」

客 
「それじゃあ、ひとつおくれ」

光圀 
「はいよ!」
物珍しさにつられて、何人かの客がお千の屋台に並び始めた。

【しばらく後】

権蔵と代官が屋台にやってくる。
代官 「この勝負、わしが少し盛り上げてやろう」

お千 
「?」

代官 
「ここまでの札を数えよ」

黄門一行 
「!」

家来 
「権蔵庵、78票」「千両庵、3票!!」

代官 
「ははは。これは大変じゃな!」

助三郎 
「ど、どういうことだ、、、」

格之進 
「もり拉麵を食べた者も20人はいたはずだが、、、」

光圀 
「、、、分らん、、、拉麵は信州の民に合わないのか?」

先ほど拉麵を食べていた客に光圀が駆け寄る。

光圀 「うまくなかったか?」

客 
「つゆの味が薄くてよ」「喰った気しねえや」

光圀 
「なんと?!」

お千 
「そっか、つけ汁だから濃くないとダメなんだよ」

光圀 
「おい八兵衛、すぐにつゆに醤油を足してくれ」

八兵衛 
「へいっ!」瓶に入った醤油をたす。

【屋台前】

お千 「明国伝来、水戸の名産、拉麵が信州にやって来たよ~」
再び、客に拉麵を配り始める。

客たち 「なんじゃこりゃー!」「酢っぺぇ!!」

黄門一行 
「!?」
光圀 
「すっぱいだと?!」

お千が、八兵衛の入れた醤油の徳利を見る
お千 「八ちゃん、これお酢よ!」

八兵衛 
「なんだって?!」

助三郎 
「おのれー、八兵衛、そこに直れ!!」

光圀 
「つゆの材料は、残っておるか?」

格之進 
「いえ、すべて使っております」

光圀 
「ぐ、、、」

【夕刻、お千の屋台前】

代官 「勝負の時じゃな」

光圀 
「うむ」

【舞台前】

代官 「札を数えよ」

家来 
「権蔵庵、89枚」「千両庵、、、211枚!」

黄門一行 狐につままれたような顔をしている。

客① 「あのすっぱい汁にあの麺が絶妙に絡んで」
客② 
「今日みたいな蒸し暑い夏の日にはぴったりだよ」
客③ 
「もちもち、つるつる、ああ、また食べたい」

光圀 「、、、うまいぜ、これ!」
光圀たちも、味見して、顔を見合わせる。

助三郎 (たしかにうまいが、、、)
助三郎が冷ややかな目で、八兵衛を見る。とぼける八兵衛。

権蔵 「不正に決まっております、お代官様!」

代官 
「えええい、この者どもを捕らえよ!!」

光圀 
「助さん、格さん、やっておしまいなさい」

乱闘。

格之進 「えええい、控えおうろう!」
三人が舞台に駆け上がり、印籠を懐から出す。

助三郎 「先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ!」

格之進 
「一同のもの、頭が高い!!控えおうろう!」

一同 
「ははぁぁぁぁぁ」

お千 
「(水戸光圀様!?」

光圀 
「お主たち、この拉麺を食してからもう一度不正かどうか申してみよ」

八兵衛が二人に拉麺を出す。

代官 
「これは!!」

権蔵 
「うまい!」

光圀 
「不正か?」

代官 
「いや、これはもう」

光國 
「だろ?」

代官 
「かくなる上は、切腹を」

光圀 
「やめろやめろ!!」

光圀 
「おい、権蔵!せこい考えは捨てて、日本一の蕎麦をここで育ててみたらどうだい」「代官は、それを盛り立ててやんな」

権蔵代官 
「ははっ!」

光圀 
「お千!お前は、もり拉麵、、、ちょっと言いにくいな、、、つけ麺と名付けよう」「つけ麺屋を信州そばに負けない、新しい名物にしてくれねぇか?」

お千 
「よろこんで!」

【街道】

信州を去る黄門一行。

助三郎 「御老公、代官の不届きは、、、」

光國 
「放っておこうぜ」

格之進 
「八兵衛はご活躍だったな」

八兵衛 
「いやー、それほどでも」

助三郎 
「調子に乗るでない!」

光圀 
「さすがに、今回は手打ちを考えたがな」「八兵衛のお陰だ。ありがとよ!」

八兵衛 
「滅相もないっす」「助さん、聞いてた?」

助三郎 
「なにっ?!」

光國 かーかかかかかかかっ!

光國の高笑いが、日本晴れの信州に響き渡っていた。

ナレーション 「なお、知られた歴史によれば、つけ麺の起源は、東池袋大勝軒創業者である故・山岸一雄氏である。そして、その山岸一雄氏の出生地こそがここ信州(長野県)なのである」

ナレーション 
「これにて、一杯落着!!」どん!

おかわり↓


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