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カリブ、それぞれのレイシズム

Fuck you! small dick chink!! (ばーか、短小中国人!)※Chinkは中国人の蔑称

ある日、見知らぬ女性からSNSでそんなメッセージが届いた。

身に覚えがなさすぎて、ぽかーんとしてしまった。そりゃ黒人のそれに比べれば、ぼくらアジア人はね…とも思った。

そもそもぼく、この国で誰ともそんな関係になってないんだけどな。し…心外だ。

そもそもほんとに知らないアカウントからDMが来ているから、どんなイタズラだよ、中国人に親でも殺されたのかと思った。

でも、よくメッセージを見てみると、前にもメッセージをくれていた。

たまにSNSのDMでやりとりしてた子で、アカウントを新しくしたから登録してね、っていうのをぼくがスルーしていたっぽい。

もともと返事を返したり返さなかったり、1週間後に返したりって怠惰さを発揮していた中でのことだったわけだけど、プロフィール画像が見おぼえない(前と違う、名前も違う)から、これは危ないやつだ、美人局だとぼくのファイアーウォールが作動したんだろうと思う。

どういうつもりなんだろうな。冗談飛ばし合うほど親しくなったつもりはないんだけど、これはジョークとして受けて、うるさいよ、ニガー!とか言っちゃっていいやつなのかな。まぁダメだろうな。一発レッドな気がする。ビッチは…ジョークを飛ばし合う関係ならたぶんOK。けど、ぼくとその子の関係ではまだNG。というか、その子のキャラ設定すらよくわかってないしね、ぼく。

日系アメリカンのジョー・イデがLAの黒人社会を舞台に描いた探偵小説「IQ」の中で、黒人同士がニガーと言い合うのはそれがどういうニュアンスかわかるから構わない。けど、お前ら(白人)が言うと、ほんとに軽蔑してるかもしれないからダメだ、みたいなことを書いていてなるほどなと思ったけど、そういうことなんだろうなと思う。

(次世代のシャーロックホームズと評されることもある、この小説はめちゃくちゃおもしろいのでオススメです。)

でも、ここセントビンセントは黒人社会だし、レイシズムに敏感なわけはないんじゃないかなぁと思っていたとき、ちょっとおもしろい話をファンから聞いた。

ファンはICDF(International cooperation and development fund 台湾版JICA)から糖尿病改善プロジェクトのマネージャーとして派遣されている。

そのプロジェクトの一環でセントビンセントの医師や看護師、栄養士などを台湾で研修してもらうプログラムがある。

それに参加した看護師が最近セントビンセントに戻ってきたのだけど、それがかなりストレスフルだったのだという。

アメリカ経由で台湾に入り何週間か研修を受けて帰ってくるという単純な話のはずなんだけど、その看護師(以下、A)の場合は出発直前になってアメリカに入れない(過去にオーバーステイしていた)ことがわかり、その人だけロンドン経由の台湾入り、帰りもロンドン経由という特殊なルートになったらしい。

費用がその人だけ過分にかかって本営はかなりムッとしたらしい。

そして、先日の帰国時、何人かまとめて研修を受けて、まとめて帰国なわけだけど、当然、そのAだけ便が違う。みんなはアメリカ経由だけどAはロンドン経由だから。

チェックイン時間も異なり、Aは1人でチェックインとなったわけだけど、荷物の20㎏の上限オーバー。行きはスーツケース2つで来たけど帰りは3つになって、その増えた分まるまるオーバーということらしい。

Aはオーバー分のお金払う余裕はない。だいたいそれくらいのオーバー分なら数万円レベルだろうと思う。大金だ。オーバー分にお金がかかるのは世間一般の常識といっても良いと思う。Aもアメリカに渡航歴があるのだから知っているはずだ。ICDFもチケット分はだすがそのお金は出さない。

それを、Aは荷物1つ増えたくらいでお金がかかるのはおかしいとカウンターで喚いたらしい。カウンターの人も困っただろう。丁寧に何度も説明したんだろうと思う。結局、増えたスーツケースは空港に置いてきたようだが、その後でファンにWhatsAppで事の顛末をメッセージしたというわけだ。

A以外は啞然としているんだけど、Aはいまいち何が起こっているのかよくわかっていないようで、

あたしがあそこじゃマイノリティだから、黒人だからそういう扱いを受けたんだと思う。ほんとうに信じられない!それにあの人たち(空港職員)そんなに英語話せないんだと思う。全然通じてないんだもん。ほんといやになる。あたしだけ1人きりの出国だし。それに、あたしは仕事で台湾に来てるのに、なんで航空券はビジネスクラスじゃないの?きっと黒人だからこんな扱いを受けているのよ

と怒り心頭だったらしい。

ぼくは感動した。まず、英語が通じないのはセントビンセントの訛りが強すぎてスタンダードイングリッシュとはかけ離れているからで、空港職員はスタンダードイングリッシュでわかりやすい表現を使ってくれているはずだから、問題があったのはAで通じなかったのはAの言葉だったんだろうし、1人出国はAがUSでオーバーステイしたからだし、そもそも学生じゃないんだから1人でも問題ないはずだし、ぺーぺーの研修生にビジネスクラスなんて聞いたことない。

なんて言うんだろう。

自分に都合が悪いことがあればとりあえずレイシズムだと言っておけばよいという価値観で生きているのか、それだけ黒人差別というのが根深くて一歩外に出ると頻繁に出くわすほど根深いものなのか、ぼくは黒人じゃないからわからないけれど、ファンのAについての話を聞く限り、前者だろうし、そうやって常に誰かのせい、社会のせいにして生きるのって楽で良いなと思ってしまった。

ぼくは自問自答を繰り返し、「あぁ、ミスったなぁ、あのとき気づくべきだった…」「なんであのとき思いつかなかったんだ」とか原因を自分の選択・判断にもとめて自分を責めるタイプだから、皮肉でもなんでもなくて羨ましいなと思った。

補足しておくと、セントビンセントの人がみんなAのようではないし、黒人もみんなAのようではない、もちろん。あくまでAの話。n=1の話。間違いなきよう。

その上で、ちょっと言わせてもらうと「仕事できてるのにビジネスクラスじゃないの?」は、理不尽な扱いを受けたんだから、お詫びになにかしなさいよっていう交渉術のひとつじゃないかと思う。転んでもただは起きないというか、少しでも何か引き出すための処世術のようなものなんだと思う。

実際、相手に少しでも悪気というか申し訳ない気持ちがあれば、この戦略はワークするし。いわゆるドア・イン・ザ・フェイス(最初に大きな要求をして、少しずつ譲歩して本命を手に入れる)。この場合、ビジネスクラスは本命の要求ではなくて、たぶん、空港に置いてきた20㎏の荷物。

Aがそこまで切れ者ではないと思うけど、なにかしらの埋め合わせを求めているし期待してると思う。このケースでは誰の共感も得なかったから一切ワークしなかったわけだけだが。

さて、長々と書いてきたけれど、レイシズムって言葉による嘲笑と、不利な/理不尽な扱いがあると思うんだけど、後者の理不尽な扱いって見分けがつかないというか、判断は難しいのかもしれない。

ぼくは日本人で男で、これまでの人生の大半を日本で過ごして来たから、今回の例でいうと、2つの荷物まではOK、3つ目は別料金ってい言われてもそんなもんかな、あの人は4つも5つもあるけど、それは別料金払ってるんだろうなとなんの疑いもなく思うんだけれど、理不尽な扱いを受けてきた人たちからすると、不意に自分にむけられた「3つ目は別料金です」というそれは、「なんであたしだけ?」から「レイシズムだ」に繋がりやすいのかもしれない。

冒頭であげた例でも、普段から蔑称は彼らの身近にあって、消し去るのは不可能だから、うまく付き合っていこうという選択をしてきたなかで、黒人同士ニガーと呼び合ったりするのかもしれない。

その流れで、黄色い肌の平たい顔族のぼくにも、ある種親しみを込めてsmall dick chinkなんて言ったのかもしれない。

いや、これは絶対違うな。

お前、ぜったい許さないからな!

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