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カリブで神の化身と崇められたアフリカ王

むかしむかし、カリブ海の小さな島に奴隷としてアフリカから連れてこられた黒人の子孫がたくさん住んでいました。彼らはずっと不思議に思っていました、自分たちの人生はどうしてこんなにつらいことばかりなんだろうと。

1人の預言者がすっと現れて彼らに言います。

” 流浪の民となった黒人は、故郷であるアフリカに帰るとき、再び神の祝福を得るだろう。黒人の王が即位するときのアフリカを見よ。その人こそ救世主となるだろう ”

この予言は彼らの希望となります。

3年後、エチオピアで聡明な男が皇帝として即位します。名をラス・タファリ・マコンネンと言いました。

彼はクーデターで実権を握り、王の中の王、ユダ族の征服の獅子を名乗りました。

彼の国は少し前にイタリアと戦争をして勝っていました。有色人種である黒人が白人に勝った歴史を持っているのです。白人に抑圧されてきた歴史を持つ黒人たちはその勝報に、白人からの解放の象徴だとその当時大いに沸きました。

その記憶が世界中の黒人たちの中にありました。

出自は申し分ありません。

カリブの黒人たちはこのラス・タファリこそが救世主に違いないと信じました。神ヤハウェの化身であり、地上における三位一体の一部であると信じたのです。

そして彼らは遠いアフリカの地の皇帝に思いを馳せながらあることを始めます。

山に籠り、マリファナを栽培し、野菜と魚しか食べず、髪の毛を切ることと酒を飲むことを禁じました。

ところが彼らが神と崇める皇帝が直接治める彼の地は黒人を解放するどころか、自由はなく飢饉が起こるひどい国でした。彼の地の黒人は皇帝を恨みました。黒人の解放と連帯の象徴だった皇帝はひどい独裁者だったのです。

皇帝は困りました。いつ誰が自分を殺しに来るかわからないほどでした。

そんなとき、カリブの島で自分を神と崇める人たちがいることを知ります。

わらにもすがる思いで、皇帝は自分の力を誇示するために、失った権力を取り戻すために、彼らに謁見することにしました。

皇帝はカリブの島を訪れたその日、神の姿を一目見ようと、多くの人が山を下り空港に殺到しました。

讃美歌が聞こえる空港に下り立った皇帝は彼らを見て驚愕します。

皇帝が目にしたのは、浮浪者のような小汚い格好をして麻薬を吸いながら踊り狂う珍妙な人々の群れだったのです。

皇帝は数百人をエチオピアに連れていきましたが彼の権力は落ちるばかりで、数年後暗殺されてしまいました。


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ぼくは何人かからこの話を聞いた。小説にもでてきたらしい。口伝の昔話だから尾ひれはついているだろうし、脚色もあるだろうと思う。

けれど、based on true story なんだそうだ。

世界中に散らばった黒人の解放を連帯を訴える思想をパン・アフリカ主義といって、アフリカ諸国の独立とアフリカ連合を生み出す精神的母体となっているようだ。

ラスタファリアンのその後はどうなっているのか知らない。いまでもその黒人皇帝を神として崇めているのかどうかはよくわからない。諸説あるようだった。

次の神の化身が地に降りるのを、受肉するのを待っているのかもしれない。

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