見出し画像

「この辺りはフランス語由来の言葉を話すんだ」が意味するもの

ここカリブ諸国の東側は第2次百年戦争 (1689-1815)時にイギリスとフランスが領有を争った歴史がある。現在もマルティニークというフランス海外県がセントビンセント本島から北へ100㎞ほど行った、セントルシアの北側にある。

 セントルシアは、その戦争の激戦地だったからか、その逸話が多く残っていて、彼らの話すパトワもフランス語由来が多く、地名もフランス語が多い。

それに比べると、セントビンセントはフランス語由来の地名こそ残っているものの、パトワはなく、フランス語由来のものはない(英語の資料だと、West Indies と Vincy を話すということになっている。おそらく強い訛りのことだと思う)。

そういう理解だったのだけど、地元の人とちょっとしたドライブをしていたとき、「セントビンセントから公式で出てる観光パンフレットですら、スペルが間違ってることがあるんだよねぇ」とボソッと言ったことからちょっとおもしろい話が聞けた。

彼によると、観光パンフレットを作っているのはセントビンセント人に間違いはないけれど、歴史や自分の出身地区以外のことに理解がない人が多すぎるのだそうだ。たいした調査もせず作ってしまうだという。

ー 例えば、このあたりはフランス語由来の言葉を話す地区なんだ。歴史的にね。昔フランス統治時代はこのあたりが拠点だったから。だから土地の綴りも英語じゃなくてフランス語由来なんだけど、彼ら(パンフレットをつくる人たち)は気にしない。地元の人の話を聞くけれど、信用しない。間違ってると思ってるんだ。ここらの人たちは学がないから勘違いしてるんだろうって。英語的に不自然なスペルだから。

このわずかな会話はなかなか思うところがあった。

ぼくも以前、トレイルを探して地方をさまよって地元の人に話を聞いていたときに「その地名のスペルは?」と聞いたら、その場にいた3人が3人とも「え…ちょっと待って…いや、わかんないな…」となってしまったから。

それが識字率的なものなのか、読めるけど書けない的なよくある話なのかはわからない。けれど、仮に、そのやり取りが何度か続くと信用しにくいなとは思ってしまうだろう。

そして、琵琶湖よりも小さい国土の土地で、隣り近所のコミュニティのことを知らないなんてあり得るのかと疑問に思うだろうけれど、これもコミュニティというか集落。その言葉が良く似合う。その集落間の交通の便の悪さに起因するんだろうと思う。

だいたい同じ集落内で結婚すると言っていたし、ある集落の地主家系の人たちは同じ血縁関係内で結婚すると言っていた。たぶん、自分たちの財産である肥沃な土地を守るためだろうと思う。近親交配にならないようには配慮してるんだろうと思うけれど。

車が入ってきたところで、アップダウンの激しい悪路は変わらず存在し続けるわけで、集落間の交流は昔より増えてはいるものの活発とは言えないんだろうと思う。(あるいは活発になってまだ間もない)

故に、集落ごとの強い訛りが根強く残ってて「あの地域の人の言ってることはマジで何言ってるかわからん」と地元の人でもなるのだと思う。

つまり、「このあたりはフランス語由来の言葉を話す地区」ってそれだけ集落間の交流が活発ではなかったという裏返しだと思う。

十分に交流がされていれば、とっくにフランス語由来の言葉は消えているか、影響力が強ければ、周りの集落にも広がっているはずだから。

交通の便が良くなるって、田舎から人が出て行き易くなるとかいろいろ言われる。けれど、重要なのはAとBがつながり、AB間の人の行き来によって、AとBのモノや価値観、互いにとって新しいものも行き来することだ。

人といっしょに新しい価値観が入ってくることがインパクトとして大きいとぼくは思っている。

ここの集落や地形を見ていると、人見知りな人が有意に多いのは交通の便が悪い地理的要因が大きいんだろうと思う。車があっても地方へ行くのは苦労するんだから、車が入ってきてなかったであろう100年前はほんとに大変だったろうなと思う。

サポートはいつでもだれでも大歓迎です! もっと勉強して、得た知識をどんどんシェアしたいと思います。