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ソルト

 何も変わらぬ日常。
 口入屋がたまの休みかと思えばオンボロ絡繰人形に叩き起される。
 仕方無しに勧められるがまま、新しく出来た曽根崎の廓へと遊びに行く。
 夢屋。
 なんでも枕元で頼んだ寝物語をしてくれ、良い夢が見れるとか。

「それやったら旦さんはどないな咄を御所望でありんす?」
「せやな、上様になって大奥に四海の美女を侍らせるのはどうや?あと戦で敵をばったばったと倒して山のようなお宝に囲まれて…」
「まあ、欲張りなお方どすな」

 夢を見ていた。

 俺は与力で判天連の妖術士や破戒僧と戦い、汚職を行う官吏達を懲らしめた。私塾を開き、遂には飢民の為に乱を起こした。
 だが塾生の平山助次郎の裏切りに合い、人相書を全国にばら蒔かれてしまう。幕府の役人に追われ続ける日々に嫌気が差し…

 大坂の町を包む夜霧。
 曽根崎新地を出ると北浜を堂島川沿に歩く。
 痛快な夢を見た為か上機嫌で千鳥足でいると前から来た侍とぶつかりそうになる。
「無礼者!町奴風情が気を付けぬか!」
「へへ…どうもすんまへん…お?あんた何処と無く平山助次郎に似てなさる」
「何?」
「いや、わての夢で見た話なんだすがね、洗心洞塾を裏切られたお武家様に似て…」
「夢だと?貴様、何故其れを…何者だ」
 侍は鯉口を切る。
「いやいや、堪忍してえな、わての夢の話でおま」
「確かにわしの名は平山助次郎。大塩の乱の功で御譜代に取り立てられた平山助次郎よ」
 平山は刀を抜くと上段に構える。
「ま、待ってえな!夢の話で殺されるなんてそんな阿呆な」
 腰が抜けて尻餅をつく。
 せめてもの抵抗か?それとも本能がそうさせたのか?左腕が自然と平山の方を指差す。
「命乞いか?残念だが、死ねい!」
刀が振り下ろされたその刹那、

 火砲包包包包無!

 耳を擘かんばかりの轟音と火線が走ったかと思うと平山の上半身は肉片を撒き散らし吹き飛んでいた。
「何やっ!?何が起こった!?」

 青い煙が上がる己の左腕を見ると夢で見た大筒が一門。

「何やこれは!?」

【続く】

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