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東京大学2019年国語第4問 『ヌガー』是枝裕和

 題材となっている迷い子という体験は日常的ではないものの、第4問にしては、わかりやすい文章であり、だれが読んでも明快といえる問題文である。また、設問もおおむね傍線部の周辺部分を要約すればたりるものとなっている。それだけに、簡にして要を得た解答が求められるだろう。
 なお、筆者は『そして、父になる』や『万引き家族』など世界的に評価の高い映画作品の監督として知られる。

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(一)「その風景の、僕との無縁さが不安を一層加速させた」(傍線部ア)とはどういうことか、説明せよ。
 傍線部アの直前には、六歳か七歳の頃の筆者が電車内で迷子になったときのことについて、「じっとしていることに耐えられず、僕は途方に暮れてただ右往左往を繰り返した。その時の、僕の背負い込んだ不幸には何の関心も示さない乗客たちの姿が強く印象に残っている。それはぞっとするくらい冷たい風景だった」と書かれている。
 以上のことから、「電車内で迷子になり右往左往している幼い自分の不幸を見ても何の関心も示さない周囲の乗客の冷淡な反応で、さらに不安が募ったということ。」(65字)という解答例ができる。

(二)「その瞬間、僕の中から不安は消えていた」(傍線部イ)とあるが、それはなぜか、説明せよ。
 ヌガーを食べたときの様子は、第6段落に次のように書かれている。「僕はお礼も言わずに、そのヌガーをほおばった。しばらく噛んでいると甘さの奥にピーナッツの香ばしさが口いっぱいに広がった。美味しかった。ああ……今度このお菓子を母親に買ってもらおうと、その時思った」。
 そして、迷子にとっての親については、第7段落に「自分を無条件に受け入れ庇護してくれる存在」とある。
 以上のことから、「ヌガーの甘さを味わうことで、今度母親に買ってもらおうという気持ちが起き、自分を無条件に庇護する存在としての母親を思い起こしたから。」(65字)という解答例ができる。

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