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電子立国日本の崩壊 4

6) 打開するには…..
 
今まで述べてきたことを踏まえ、打開するにはどうすればいいのであろうか。
もう一度かつての栄光を取り戻したいと願うのは無理なのであろうか。
 結論の前に、原因や背景からではなく、成功している、もしくは現在でも存在が十分に認められていると思われる(激変を経て現在に至る過程において)例を挙げてみる。そこからさらに何かが見えるはずである。
 
 サーバーと呼ばれる中大型のコンピューターの世界では、IBMが君臨していた。分散型のシステムが出てくるまでは、ITの世界において長きにわたり他社の追随を許さなかった。自社で半導体を開発設計製造し、CPUからメモリー、OSやソフトウェアまで開発生産をし、周辺機器もほぼすべてを開発生産し、現在でも汎用的なCPUが使えるデーターセンター向けを除き、高度の処理が求められるサーバーの市場では高いシェアを誇る。最先端の半導体の開発や、高度なCPUの開発は今でも継続されている。
 
 インテルもまたPCの市場を支配していると言っていいだろう。(今ではデーターセンター向けもあるが....。)インテルは半導体メーカーでありながら、PC自体を開発していると言っても過言ではない。(マイクロソフトにOSを限定することでインテルにとって望ましいPC市場を拡大してきた。) すなわちインテルの新しい製品がPCの新しい製品を生み出してきたのである。初期のPCは、多くの半導体を必要としたが、インテルがCPU自体の性能を高めるとともに周辺を取り込み、メモリーなどを除き、PCの市場に君臨してきた。
 
 このように特定の市場や分野を左右できるようになると(その市場を抑えることができると)高い市場シェアを確保でき、利益も確保でき、それをさらに開発生産に繋げることができる。すなわち自ら開発した半導体を搭載した製品によって差別化ができると、その効果は絶大で市場をリードできるようになりビジネスや事業を前に前にと回していける。
 これが本来あるべき姿、王道であろう。言い換えれば、特定の市場や分野において、半導体の設計から最終製品の開発生産、ソフトウェアまで垂直に統合されたものが最も望ましいということになる。
 
 ここでAppleに触れてみたい。Appleは独自のすぐれたOSを開発するとともに、自社製品に搭載するCPUなどの開発設計も行っている。自社開発した半導体製品は、生産だけファンドリー(詳細は後述する)に委託している。ソフトウェアもOSばかりかアプリケーションも開発し製品に搭載している。これによって、統合されたシステムとして製品が提供されることを可能にし、ユーザー指向で競争力のある製品ができている。注目すべきは価格競争に陥りやすい一般消費者向けでありながら、ハードの製品をベースにソフトまで付加し差別化を図ることで、高い利益率を維持できている。これも垂直統合によってもたらされ、過去に経営が行き詰った時でさえ、安易に妥協せず自社開発を続け、他社に技術情報を売り渡すことなく、守ったことが今に繋がっていると言えるだろう。
 
 それでは、部分的に切り出されたもので成功していると考えられるものではどんなところがあるのか。まずファンドリーとしてTSMCが上げられる。このファンドリーとは、半導体の製造だけを請け負うことで、作るための回路設計や検証のためのテストなども、依頼する方が準備をするものである。(本来、回路設計をすることは、実現したい機能を知り尽くしているからできるのであり、どこまで性能を求めるのかを含め、テストなども一体となって開発するものである。) このビジネスモデルが当時台湾で選択されたのは、有力な電機電子メーカーが国内にないため半導体の回路設計ができるところがなく、垂直統合を求めても成り立たなかったためである。苦肉の策とも言え、方針が出された当時は失望されたものである。これが成功したのは、当時デジタル化が急速に進み始めており、コンピューター上で大規模な論理回路を設計することが容易になり、半導体生産を持たない米国の電機電子メーカーが、半導体の製造のみを、最先端のプロセスで作りたいという要望と合致したためである。
 
 もう一社クアルコムという会社がある。業界に詳しい人ならご存じであると思うが、開発や販売しているのはスマホなどの無線通信部分であり、ほとんどすべてのスマホはクアルコムのCDMAと呼ばれる方式を実現する半導体を採用している。ここも生産はファンドリーを使っており、当初はIBMに、今ではTSMCやGlobal Foundryに委託しているようであるが、無線通信部分は技術的にデジタルの設計だけでなくアナログの設計が多々あり、ノウハウの蓄積が必要とされる。クアルコムがファンドリーで生産を委託しても、望む特性を引き出すには半導体のプロセスがわかる技術者も必要で、チューニングを行うレベルは論理回路をはるかに上回り、必要不可欠なのである。Appleも自社で無線部分の開発を手掛けたが、性能が追い付かずクアルコムの半導体を採用している。なぜクアルコムが、スマホの市場の無線部分を抑えることに成功したのであろうか。もちろん最先端の技術や多くの特許でわかるように、CDMAを実現できた技術力によるが、スマホを開発製造するところは、スマホが小型のコンピューターであるため、CPUの技術や関連する技術が求められるとともに、電話の機能のために無線通信の技術も求められる。スマホを作り出したAppleは、コンピューターには総合的に対応できても、高度な無線通信の技術の蓄積がなかったから開発が遅れてしまったのである。日本のスマホ業界は少し事情が異なり、元々携帯電話から始められたため、電話は作れてもコンピューターに近いスマホは対応できなかった。またCDMAに基づく無線通信処理の半導体が開発できたかというと、これもできなかった。その背景は今まで記載した通りである。
 
 最後に日本の半導体としてSonyを挙げてみたい。もともとSonyは最終製品を作るにあたって、そこに搭載される半導体を自社で開発製造してきた。CDやウオークマンなどの音響機器だけではなく、映像機器においても製品が必要とされる半導体の大部分を自社で開発製造し、他社と差別化をするとともに、それをまとめてシステムにして他社に販売することで、自社の優位性を保ちながら、顧客の幅を広げ市場を拡大し成長をした。しかしデジタル化への対応では、日本の他社と同じ様に適応できず、一時は存亡の危機にまで落ちいった。民生機器主体であったため、求められたコンピューター全般の技術力がなかったことが要因の一つである。そのSonyが今でも優位な市場を押さえているのがCMOSセンサーである。もともとビデオカメラの撮像素子としてCCDというものを開発し、技術の蓄積もあったため、CMOSセンサーへの移行もでき、蓄積されたノウハウで他社との差別化もできている。カメラの目となるもので、レンズなどを含めたモジュールとして事業展開しているが、採用するスマホなどにおいては、カメラのモジュールは他の回路や設計とは大きく違うため、分離した方が扱いやすく、この部分だけ切り出されても有効だということを示している。
 
 以上のことから何が導き出せるであろうか。
 
 日本の場合は、半導体メーカーが設計から製造までできたが、製品のことは詳細までわからず、次の開発方針や市場などを見通すのは無理があった。半導体は電機電子機器の部品ではあるが、完成製品と一体化しており優劣を決めるものであり、切り離して考えることができるのは、一部の製品に留まる。このことは、どのような製品を開発するのか、搭載する機能はどうするのか、差別化する機能は何であるか、を決めることが、そのまま半導体に求められることを示している。したがって、半導体とそれを使用した製品は一体として考えるべきである。
 
 ファンドリーを作る計画があると最初に述べたが、(1を参照)これが成功するには半導体を使用する電機電子メーカーが、製品の差別化のため半導体の回路設計を含めて行い、その製造を委託するということを実現しなければならない。今の日本のどこにこのことができる電機電子メーカーがあるのであろうか。できなければ現在ファンドリーに生産を委託しているところから奪い取って受注を目指すことになってしまう。このことは、すでに事業を確立しているTSMCなどと競合することになり、よほどの差別化ができなければ価格競争に陥ることになる。これでは悪夢を繰り返すだけではないだろうか。
 
 ではどうすればいいか。
 
 日本人の特質が優位に働くのは、アナログなどのノウハウの蓄積が必要とされ、長期間にわたって積み上げていく業界や分野、きめ細やかな対応が求められる分野である。すでに確立された分野や大量に生産され大きな投資を求められる分野ではなく(ここまで差がついてしまったのだから開き直って)、多品種少量生産を前提に考えるべきであろう。(半導体の生産でいえば数枚ごとに作れ、多種のプロセスやパッケージングに対応できるものが望ましい)
 
 難しく時間もかかるがイメージとしては、それぞれの量的規模は小さいが、アナログを含めたいくつもの最先端の半導体プロセスを(アナログ、デジタル、高周波、高信頼性、超低消費電力、幅広い動作保証範囲、多種のパッケージング対応などを総合的に、かつ複合的に統合可能な)持ち、それが使用される分野や業界に精通している技術志向の強い、また最終製品の会社と個別に強く結びついた、会社の実現である。求められる性能や機能は最先端のものでありながら、半導体の投資から見れば、規模への投資ではなく個々のプロセスに対する投資になり、装置や機器からみれば差別化や最適化のためになるものである。少し乱暴であるが言い方を変えれば、微細化だけで競争をするのではなく、製品から求められるものを実現するための半導体プロセスを開発し少量の生産を行うことができる仕組みである。(参考になるとすれば、ベルギーにあるアイメックを、よりアナログ等求められるプロセスに広く対応できるようにして、日本のすぐれた先端技術を持つ企業と連携し、実績を積み上げていくイメージであろうか。)
 
 
 分野としてはいろいろ考えられるが、まずはSecurity分野であろう。本人認証にはアナログ的要素が多々あり、高度な分析手法も求められる。今後はあらゆる分野で必要となるもので精度や強度と、使いやすさのバランスを求めていく必要があり、これは日本人の資質に適した分野と言えるであろう。
 住居も候補に挙げるべきだろう。省エネが言われているが、まだまだ不十分な上、箱を作ってから家電などを個別に設置しており、住居そのもので最適化を計るべきである。(地域で、ということもあるが、そこまでは難しいであろう。)ヒートポンプという比較的効率の高い方式が(温めるのも冷やすこともできる)、エアコン/冷蔵庫/乾燥機などに使われているが、うまく統合できればそれぞれを補完することもできる。これと太陽光などを組み合わせ、最適化を進めるべきだろう。ただ家電の5-10年程度の寿命では生活の基盤としては不十分で、50年とは言わないが30年程度は保証できる制御基盤とそれを支える半導体や部品が求められる。
 EV(電気自動車)もあるだろう。これは現状の取り組みの延長線でもあるが、車の開発と合わせて自動車メーカーとともに一体となって半導体やシステム、ソフトウエアを開発すべきである。蓄電池一つ取っても種類によって最適化は異なり、今後固体電池などが出てくればシステムを見直す必要もある。
 医療においても条件を満たすであろう。個々に求められる性能は高いものであり要求は厳しいが、ノウハウの蓄積も求められ、付加価値の高いものができれば、長期にわたり参入障壁を築けるだろう。分野も多方面にわたるが、医療の現場近くでニーズを探るべきである。
 宇宙関係においても今後は広がるだろう。環境の厳しさは他の比較ではなく、特殊な半導体や機器が求められ、技術の蓄積も必要であり、条件を満たすと考えられる。
 車の延長線として船舶の可能性はどうだろうか。天候や潮の流れに合わせてこまめに制御をしたり、風力や太陽光を補助的に使うなど、新たなことが求められてきており、エネルギーの制御から船舶のコントロールまで含めて統合されたシステムにおいては、船舶の大小にかかわらず求められるものがあるはずである。船舶が物流の中心であることは長期にわたって続くのは明確である。
 
 上記の例は思いつくまま記載しただけであまり根拠はないが、日本の暗闇が長期にわたり続くにせよ、新たな挑戦をするものが出現し、わずかでも将来に向けて希望の光が見えてくることを期待したい。
 
 
 
 
 最後まで読んでいただき光栄です。
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                           東郷五十六

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