見出し画像

形容詞:にぼい/すごい煮干ラーメン凪

自分よりグルメな人は世の中にごまんといる自覚がある。
しかし私もnoteに自分の飯を晒すくらいにはグルメであり、このグルメな血は間違いなく父譲りのものである。

大巨漢である父の底知れぬ食い意地を、小さい頃から間近で見てきた。外食はもちろんのこと、自分が作るものもちゃんとこだわる。(ただし、洗い物はしない)

腹が減れば不機嫌になるし、満腹になればたちまちご機嫌になる。この周りを巻き込む迷惑な性質が、娘にもしっかりと受け継がれたことを父はきっと知らない。
体質なのか、最近は空腹になると低血糖症状が出てしまうため、常に煮干しやナッツなどを持ち歩いている。不機嫌どころの話ではなくなっていることも、父は知らない。

母はというと、父娘とのバランスを考えてなのか、飯に対して執着がない。「不味くなけりゃいいね」といった具合で、飯よりも仕事や趣味に熱を注いでいた。
そのため日々の飯プランは父が決めることが多かったが、ゲテモノ好きな父とは、小さい頃はなかなか食の好みが合わなかった。

そんな中、ラーメンは父も私も大好きだった。小学生の頃は休みの日になると、たまにラーメン屋に連れて行ってもらえた。
私は「とんこつ」が大好きだった。とんこつだけが家にある調味料では作れなそうで、スペシャルな感じがしたからだ。たまに醤油も食べたが、塩と味噌には目もくれなかった。ラーメンと認識していなかった気さえする。

強烈な反抗期の到来とともに、父と飯を食べる機会はラーメンに限らず、パタリとなくなった。そしてあんなに好んで食べたラーメンもいつ頃からか食べなくなっていった。

中学・高校の頃は、お小遣いやバイトで稼いだお金で、友人や一人でラーメンを食べていた記憶がある。
社会人になり仕事に熱を入れだした頃、手軽に生命維持できる月餅とスニッカーズを365日食べる生活が始まり、ラーメンと疎遠になった。私には、仕事に命をかける母の血もしっかり混ざっていたようだった。


2023年、私は6年ぶりくらいにラーメンを食べた。きっかけをくれたのは、ラーメンがそれなりに好きな夫だった。
ラーメンを食べたがらない私のせいで、夫はラーメン欲を発散できずにいた。どうしても食べたい時には一人で行ってもらう始末だった。そんな状況にバツの悪さを覚え、ついにラーメン屋の暖簾をくぐったのだ。

久々のラーメンは美味かった。
私は再びラーメンの魅力にハマりつつある。
今、界隈では煮干しがブームのようだ。昔からあったのかもしれないが、とんこつにしか目がなかった小学生の私が煮干しラーメンなど知る由もない。

煮干しラーメンはいくつか食べたが、ベースが醤油だったり塩だったり、どのお店も個性があって美味しい。うま味がクセになる。

中でも最近行った「すごい煮干しラーメン凪」は店名の通り、本当にすごい煮干しだった。煮干し初心者にはあまりににぼすぎた。

すごい煮干しラーメン凪

先に食券を買って並ぶ式。安すぎる。

凪のラーメンは20種類の厳選した煮干しを使っている。そんなにも素材にこだわっているのに、なんて安いんだ。この値段で、この旨さが味わえるなら、何度でも行こうという気になる。

本店は新宿だが、いつも行くのは多摩センター店。新宿は行列必死の人気店につき、まだいけていない。どうか、本店に行かずして凪を語るななどと言わないでほしい。

多摩センター店は待ちがいたとしても5〜6人。回転も早いので、運が良ければ5分くらいで席につける。ちなみに待っている間も煮干しの匂いが漏れ出ており、先頭に近づくに連れてにぼさ濃度が増していく。

食券を渡すときに一緒に伝える式。
待ってる間に熟読。

すごい煮干しラーメン味玉(180g)+海苔トッピング

合わせ味の油少なめ

これがすごい煮干しラーメンだ。見えている煮干しは1匹なのに、この丼からは見えない煮干したちの存在がひしひしと感じられる。私達はいつだって目に見えないなにかに悲しみ、喜びを感じて生きている。

海苔のデカさたるや。いったん麺のモチモチ食べ応えのある不思議な存在感。スープがしっかり絡む中太麺。そして、ガツンと煮干しがくる、濃くて旨いスープ。
勝手に煮干しラーメンは上品という印象を抱いていたが、全く異なっていた。にんにくのようにがつん!と煮干しが襲いかかってくるのである。かなりパンチが効いているラーメンだ。

すごい煮干しつけ麺(200g)+卵トッピング

油すくなめ

凪には何度か足を運んでおり、ちゃっかりつけ麺も食べている。ラーメンとはまた違った魅力がある。なによりボリューミー。
つけ汁は煮干しラーメンのスープよりも濃い。言わずもがな、つけ麺もしっかりにぼかった。

にぼいの多用は、言いたいだけ感が増すデメリットがある。しかし言いたい気持ちがおさまらない。構わず多用し続ける。にぼい、にぼい、にぼすぎる。

素敵な格言に、何の汁かわからん汁を垂らしてごめんなさい

ごちそうさま

煮干しおるで。芸が細かい。

案内に沿って、食べ終わった丼を上にあげた。上矢印に紛れて1匹だけ煮干しがいるのがとても可愛い。これで4匹煮干しがいたら「ちょっとくどいな」などとケチをつけていたかもしれない。

壁面ににぼいと書かれた店内で、煮干しラーメンを食べ、にぼいと感じずにはいられない状況に陥る。普段秘めていたであろう「にぼい」という感情が、自然と引き出される。「にぼい」という形容詞を使ったのは、凪のラーメンが初めてだ。正真正銘「にぼいお店」だと思う。


こんなにもにぼいラーメンがあることを父は知ってるだろうか。今度会ったときにでも聞いてみよう。20代後半にしてようやく、ゲテモノ好きの父の舌に追いついた私は、もっと父とグルメな話をしたいのだ。
逆にグルメな話でしかコミュニケーションを取ることができない。なんだか小っ恥ずかしいのだ。父娘の関係性というのは常、複雑なのである。

この記事が参加している募集

おいしいお店

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?