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はんぺん/hanpen


我々夫婦は互いに友人が少なく、共通の友人などはほぼいない。器用じゃないのと、数より質だと思う節がある故の少なさだと理解している。
そんな中、数少ない夫の友人Zと3人でご飯を食べるという一大イベントが先日開催された。

我々は大相撲が好きなのだが、ひょんなことから3人で大相撲観戦に行こうと話が持ち上がり、観戦前の顔合わせを行うことになったのだ。顔合わせなんて、入社前に派遣先と行って以来だ。

ひとまずチケット入手の役を買って出たはいいものの、発売開始の10:00と同時にチケットサイトはパンク状態に陥り、大苦戦を強いられる。

サイトを更新するたび、【売り切れ】【残りわずか】表示が切り替わる大混乱ぶり。売り切れなの?まだあるの?という状況が続く。

【残りわずか】になった瞬間、すかさず購入ボタンを押すも、「混雑しているためしばらく経ってからお試しください」のようなページに切り替わる。それを確認したら再び更新ボタンを何度も押し続ける。めげてる暇などない。

ようやく購入が押せた!とクレカの情報入力まで漕ぎ着けても、「決済」押下後に先ほどの混雑ページに切り替わり、またも仕切り直し。そしてまたサイトに戻ると【売り切れ】の表示になる。

相撲はいまこんなに人気なのね、と嬉しく思いながらも、夫とZの期待という重荷を背負い、スマホと格闘を続ける。

20分もの大乱闘の末、運良く3人分のチケットを購入することができた。その間夫は、テレビか何かを見ながら、何度か横目で私の姿をちらっと一瞥した程度だったことを、しばらく忘れないだろう。

Zの為人は夫から聞いていたので、大方想像がついていた。写真も何度かみたことがあるので予習ばっちり。

言わずもがな私のことも夫経由でZに伝わっていたのだが、こちらの予想を大幅に裏切るものであった。Zから「奥さんはどんな人か」と問われた夫は「はんぺんみたいな人だ」と説明したというのである。

私はこの話を聞くまで、夫から面と向かって「はんぺん」などと言われたことが一度もなかった。つまりこれは陰口か何かか。だとしたら随分と劣悪卑劣な行為である。

食べ物としてのはんぺんは好きだ。
真っ白でのっぺりした可愛らしい見た目。
案外食べ応えがあるけどやっぱりしゅわっと溶けて無くなるあの不思議な食感。
チーズや明太子などとも相性抜群、ちょっとしたご褒美副菜が簡単にできちゃうちょっとイケてる食材である。

しかし人間をはんぺんとして考えた時、一気に印象が覆る。
白くてのっぺり・・・なんか奇妙?
うっすら漂うこの世のものではなさそう感。
何より、日本人特有の「のっぺり」という絶対的な特徴が想像の八割を占めることとなるだろう。

これまで数多く失言をぶちかましてきた夫だが、根は決して悪い奴ではないことを私は知っている。そう信じて数年間一緒にやってきた。一旦冷静になろう。

考えを深めるうちに、夫は夫なりに平和な結末を作ってくれようとしたのではと思い直した。
はんぺんという、非人間である例えをしてくれたことで、どんな人間がきても大抵は「ああこんな感じね」で終わることができる。

「変に芸能人の◯◯さんに似てるねとか言われても嫌でしょ」と夫に言われる。確かに、似てるか似てないかの狭間で実在する人物を例に曖昧に例えられるより、はんぺんは遥かにましだ。

つまり、「はんぺん」という低いハードルを設けてくれたことで、私は出会ったことのないZに会いやすくなったのである。
(こう書いてるうちに、自分のことをはんぺん以上だと思っている傲慢さが透けてみえて、もう少しフラットに生きたいものだと自省・・・)

夫は誤解されやすいけど、間違いなくいいやつだ。

(恐らくはんぺんを思い浮かべながら、)居酒屋に5分遅れでやってきたZ。
こちらをちらっと見て少し考えてから、
「事前にはんぺんと聞いてまして‥‥うーん確かに。」
などと言われ、はんぺん以下でも以上でもなく、はんぺんそのものらしいことが多数決により確定した。

その日を以て、私は「はんぺんに似ているもの」から「はんぺん」になった。認定されてしまっては、もうなす術などない。

少し経った頃にZから発せられた「芸能人の◯◯に似てますね」という、序盤のはんぺん肯定発言を拭うような発言が、さらに私がはんぺんであることを助長させた気がした。曖昧な社交辞令は本心をさらに際立たせるということを知らない人は案外多いのだ。

豆知識:はんぺんも熱を出すらしい

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