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湯宿温泉 男二人旅①【猿ヶ京温泉のボロい中華屋】

 「Kさん、あの中華屋どうしいているでしょうね。ええ、冬湯宿ゆじゅくから猿ヶ京町民センターに行く途中みちで、左手にあったあのボロい店ですよ。Kさん、あれは好きな中華屋でしたよ--」



私 「Kさん、ここ強烈ですよ。入りますか?危険な香りがしますね」
K 「これは勝負ですね。しかしキツいビジュアルで」
  「口コミの評価の高い店に入って、それが旨くてもロマンがない」
私 「御意にござります」

 どうも人と戯れるのは苦手だ。私の旅は必ず一人、2人旅は久々。
だがKさんとは以前からいつか旅をしようと約束をしていたのだった。好きな温泉地も、宿も、嗜好、いや嗜癖か、ほぼほぼニアな私たちは、余計な気を遣わず旅を愉しめると踏んだのだ。

 観光も色気もなく、ひなびた温泉街の安い宿に泊まり、簡素な内湯に浸かる。豪華な食事など求めないため素泊り。場末の居酒屋、あるいは割烹着の親父が切り盛りする中華屋で腹を満たせればそれでよい。
 
 宿泊地の選定には時間は要しなかった。阿吽の呼吸で我々はみなかみ町の「湯宿ゆじゅく温泉」に泊まることにした。

 群馬の温泉を知り尽くすKさん、手前味噌だが私もかつては北は青森から南は九州まで、いで湯を求め南船北馬していた時期がある。だが私たちはまるで潮に巻かれるように、再びこの街へと吸い込まれていく。

 二人が「最も好きな温泉地」と推す湯宿温泉。ここには石畳に数件の旅館と共同浴場、やっているのかいないのか分からない呉服屋を残したシャッター街しかない。

湯宿温泉のメインストリート

 互いに過干渉されるのが苦手な自由人。集合の場所も時間も不明瞭なまま当日を迎える。昼過ぎに目的地に近づくと、どちらともなく短文のメッセージを交わし、湯宿温泉の5キロ先「猿ヶ京温泉」で待ち合わせをした。ここには以前からKさんが気にかけている店があったのだ。

K 「『杯一』っていうとんでもなくボロい中華屋があるんです。前に入店しようとしたら断られたんです。営業中の貼紙出てたのに・・・」
私 「エキセントリックですね」
K 「店主が腕で×印して、食えなかったんです」

 13時を少し回った頃、猿ヶ京温泉街の公共駐車場で半年ぶりに再会した私たちは、挨拶も早々に「杯一」へと歩き始めた。

猿ヶ京温泉にある「杯一」・・・

 ボロ宿好きでもあればボロい中華屋・B級グルメも好む私たち。

私 「googleの口コミとか、食べログの評価が低ければ低いほど入りたくなります。宿も同じです」
K 「私もです。辛辣なコメントとかあると余計に」
私 「星が一つとか、最高ではないですか。Kさんが教えてくれた満州飯店(老神温泉)のチャーハンも、上州軒(沢渡温泉)のタンメンも秀逸だけど、誰もレビューなんか付けないですしね。あんなに旨いのに」
K 「スマホ世代の客を見たことがない」

 百戦錬磨のKさんも流石に躊躇したという「杯一」。
店内に入ると想像以上でも以下でもない光景、4席あるテーブルのうち一つは店主の居間となっていた。店内荷物が山積し、稼働できるのは2席のみだ。

 出迎えた親父さんは客席から時代劇を見ていて、私たちに気付くと徐に割烹着に袖を通した。日替り定食やチャーハンなどのメニューもあるようだが、今日は米がないのでラーメンかチャーシュー麺にしてくれと。

 Kさんはラーメンを頼むときは餃子を付けないと気が済まない性分だという。ラーメン(600円)2つと餃子1枚(350円)をオーダーし、暫くすると女将さんが現れた。絵に描いたような老夫婦が切り盛りするボロい店、背筋を舐められたようにゾクゾクする。


私 「今のところ100点です」
K 「薪ストーブで寸胴焚いてますね。テレビは大岡越前ですね、こんなの地上波でやっているのでしょうか」
私 「ファンキーな店。ギョーザが来ましたよ。銀皿だ」

 私は小食のためラーメンを単品で頼み、先にKさんが手を付けるのを見ていた。味にはうるさい方だ。

K 「ヨシタカさん、これめちゃめちゃ旨いですよ」
私 「そんなアホな」
K 「おひとつどーぞ」
私 「こんな店が旨いわけ・・・」

杯一の餃子 信じたくないが旨い

私 「あらっ、やるじゃないの。本当に旨いですねこれ」
K 「餃子は薄皮じゃないとダメなんです。好みの味です」
私 「羽根つきになってますね。また当てましたね。ラーメン来ましたぞ」

 ズルズルッ

私 「なにこれ、かなり変わっています。旨いですよ、これ鶏ガラだけじゃないです」
K 「豚とのダブルスープかもしれません。あー、チャーシューも旨い」
私 「麺はやわやわですけど、この麵をよく乗りこなしてますね」
K 「謎味です。でも旨い。これが1,000円だったらキツいですが、」

ラーメン600円 醤油ベースの中華そばとはちょっと違う謎味

私 「やられちゃいましたね」
K 「今度猿ヶ京素泊りにして夜ここもありですね。酒もありました」
私 「いや、よく見つけてきますねこんな店」

K 「CMなしで2話連続で大岡越前やっていました」
私 「一年中同じのを流しているんでしょうね。変な店だけどうまいなぁ」
K 「さあ、宿に行きましょうか」

                               つづく
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