ネコの沼 クロちゃんの話
ネコが家にやってくるようになりました。うちは集合住宅で、
洗濯物を干したりする小さな庭がついているのですが、部屋で仕事をしていると、
にゃにゃ
というか細い鳴き声がしました。ミラーカーテン越しに黒猫が見えます。
餌でも欲しがっているのか、と思いつつも、ごめんねいま忙しいんだ、と現代人の殺伐とした心で思ったのですが、ネコはしばらくそこにいて、
にゃにゃ
と時々なきます。
あーもうしょうがないな、
と私はキッチンへ走り、かつぶしの袋を持ってきてサッシを開け、コンクリのあがり框に撒きました。
ネコは私と餌を交互に見て、それからかつぶしを食べ始めました。毛並みは悪くないです。たまに見かけるので、多分地域ネコ。捨てられたのでしょう。黒いから多分みんなにクロちゃんと呼ばれているのではないかと想像しました。
翌朝も、起きると、
にゃにゃ、と聞こえたのですが、隣の部屋からでした。ガラガラとサッシが開く音がして、
「クロちゃん(やはりそうでした)、今日はどうしたの」とかなんとか隣人の声。
カラカラとキャットフードを皿に入れる音が聞こえました。
餌もらってるんなら大丈夫だ、と私は思いました。
ところが、翌日はまたうちの前で、
にゃにゃ、となきます。
私は先日と同じようにこらえきれずにキッチンからかつぶしを持ち出し、おわんの中に入れました。ネコは昨日と同じように、少し警戒したようなしないようなそぶりの後に、かつぶしをぺろぺろ食べ始めます。
けれど、これだけではお腹はいっぱいにならないらしく、しばらくするとまた、
にゃにゃ、と声が聞こえます。
ごめんね、うちにはキャットフードはないんだ。
そうつぶやきつつ、なんだか自分を薄情な人間のように感じました。
翌日、私はマツキヨのキャットフードコーナーで、
カルカンのドライフード(かつおと野菜味)を買いました。
缶詰は、毎日容器を洗う必要があります。衛生面を考えるとカリカリがいいのでしょうが、水を一緒に飲ませないといけません。
水用の皿も必要か、そんなことを考えつつ、家路をたどりました。
しかし、その日ネコはあらわれませんでした。
翌日も姿を見せません。
私みたいなケチではなく、もっといいパトロンを見つけたのでしょうか。
窓辺にカルカンを置いてまたやってくるのを待っています。
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