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40代から変わる人生「記憶の道具」17

エビングハウスの誤解

 自作のiPhoneアプリ「キオクの達人」を使い始めてから、1年ほど経ちました。この間にどのくらい覚えたかというと、ざっと700件。このアプリを使っていなければ、そのほとんどが記憶にとどまっていなかったはずです。
 
 さて、その700件がアプリの中でどのように分布しているのか。ちょっと調べてみました。横軸に日をとり、縦軸にその日に復習する件数を取ると下図のようになりました。1から始まっているように見えますが、0が作図の関係で表示されていません。0日、つまり今日復習する項目は50個。昨日サボったので、それが繰り越されて今日は多いのです。普通は30~40個。翌日は30個弱。2日後は、さらに下がって17個ぐらいです。
 きれいな指数関数になっています。エビングハウスの忘却曲線と似ていますが、これ違うものです。エビングハウスの忘却曲線は、例えば100個覚えたものが日を追うごとにどれだけに減っていくかのを表しているのに対して、この図は、何度も繰り返し学習した結果、復習すべき件数ですからね。毎日、この程度の件数を見返すだけで700件の記憶を維持できるということです。

キオクの達人に登録された案件の分布

 このブログの2回目に、「長閑」「等閑」という漢字の読み方の話をしました。私は「長閑」の読み方は忘れないのですが、なぜか「等閑」は何度繰り返しても忘れるという話です。ちなみに、前者は「のどか」、後者は「なおざり」と読みます。
 エビングハウス先生は、このような個体差を排除するために、苦労して意味のないアルファベットの列 (ナンセンス音節) を2,300個も作って実験を繰り返したようです。ご苦労様なことです。歴史に残る画期的な発見をするには、そういう地道な努力が必要なんですね。
 それだけやってもすぐ忘れる音節と長く覚えているものが出てきたので、その個体差がでる理由は横に置いておいて、全体としてみると記憶している文字列の数が指数関数的に減少する美しい忘却曲線が得られた。それがエビングハウスの忘却曲線です。
 これ、裏を返すと個体差が出る理由については未解決なのです。彼の研究は、全体の変化についてであって、個別の忘却についてではないのですね。ここ、よく誤解されています。忘れやすいものは相当な頻度で繰り返しても忘れるし、なぜか覚えやすいものは、繰り返しも必要ないのです。この両者を同じように扱ってはいけない。

 こうやってデータが取れるアプリを使っていると、次第に自分の記憶のクセがわかってきます。たとえば私の場合、気になるニュースは 2、3日は何もしなくてもしっかり覚えています。でも、そのままにしていると1週間後には忘れ、1か月後には、そんなことあったの? 知らなかった、と報道があったことすら忘れてしまいます。
 このように、自分の記憶の中にあるかどうかという記憶のことを「メタ記憶」と言いますが、私の場合、たった1か月でメタ記憶も失うということがわかってきました。これ、怖いです。ゾッとします。いくらITが進んでも、「こういう情報が存在するはず」というメタ記憶がなければ検索することもできませんからね。サポートしてくれません。

 いや待てよ。AIが進んだらサポートしてくるかな? 多分してくれない。


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