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「変わる組織」はどこが違うのか? 2

R・ハイフェッツから考えてみよう

 ハイフェッツ、というとバイオリニストのヤッシャー・ハイフェッツを思い出す人が多いかもしれませんね。しかし、今回取り上げるハイフェッツはロナルド・ハイフェッツ(Ronald Heifetz)。ハーバード・ケネディ・スクールで長年リーダーシップを教えてきた大家です。

 いきなり余談で恐縮ですが、このR・ハイフェッツのお兄さんはダニエル・アラン・ハイフェッツという著名なバイオリニスト。もしやヤッシャーとの親戚関係があるかもしれないと生成AIに訊いてみましたが、Google BardもChatGPTもわからないと回答してきました。

 さて、R・ハイフェッツ。リーダーの最も難しい問題は、「技術的問題」(technical problem)ではなく、「適応課題」(adaptive challenge)だと喝破したことで有名な先生です[i]。ここでいう「技術的問題」というのは、お金や技術、専門知識や時間が十分にあれば解決する問題のことです。AGI(汎用人工知能)も量子コンピューターも、核融合発電も火星に住むことも、まだ実現していませんが、「技術的問題」となります。

 では、それとは違う「適応課題」とは何でしょう? それはリーダーの価値観や信念を変えないと解決しない課題のことです。たとえば、A社と一緒になれば会社が発展するとわかっていても(技術的問題)、プライドが許さないとしましょう。このプライドを捨てることが「適応課題」ということになります。これ、たしかに変えるの難しいですよね。このハイフェッツの分類、素晴らしい洞察だと思います。

R・ハイフェッツが考える2種類の「素子変革の阻害因子」

 ハイフェッツは心理学がバックグラウンドの人で、リーダー個人の問題として捉えていますが、これを組織や社会の問題と考えてもいいと思います。むしろ、リーダーの力が弱い日本の場合は、組織問題・社会問題として取り扱ったほうがいいかもしれません。

 たとえば過疎地問題です。これはスマートシティやコンパクトシティなどへの移住という形で「技術的問題」としては解決可能です。しかし、先祖代々住んできた土地への愛着、そこに住み続けることを大切にしている価値観を変えることは難しい。「適応課題」の解決がボトルネックになっているのです。
 年功序列の中で天才を育むことも、異文化のリーダーを受け入れることも、ジェンダーギャップ問題の解決も、すべて日本の社会と組織の「適応課題」です。デジタル庁がちゃんと機能しないのも、問題を「技術的問題」として扱っているから。本当のボトルネックは「適応課題」なのです。

 この問題への処方箋として、ハイフェッツはリーダーの価値観をいかに変えるかにフォーカスしています。もともと心理学専攻ですからね。
 それはそれで重要ですが、心理的な痛みを伴います。だってこれまで自分の成功を支えてきた信念を捨てるのですから。そういう処方を受けてほしい人もたくさんいますが、私自身はというと、あまりやりたくありません。むしろ別のアプローチ、もう少し痛みの少ないやり方があると私は考えているからです。私はそっちを選びます。

 それが何か? 次回は、その第三の切り口について考えていきます。その切り口からのほうが、痛みが少なく組織を変えることができることを解説したいと思います。

乞うご期待。



[i] 「最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル」(英治出版)ロナルド・A・ハイフェッツ (著), マーティ・リンスキー (著), アレクサンダー・グラショウ (著), 水上雅人 (翻訳)

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