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ニューヨークの地味婚

今回のテーマ:ニューヨークの結婚式
by らうす・こんぶ


ニューヨークに住み始めて間もない頃、大学教授の知人から聞いた話が面白かった。

「先日、インド出身の学生がいきなり私のところにやってきて、『先生、しばらく授業に出られません。両親が僕の結婚相手を見つけたから帰ってきなさいというので、国に戻って結婚して妻を連れてきます』って言うのでびっくりしたんだけど、しばらくしたら、本当に奥さんを連れてニューヨークに戻ってきたよ」

むかしの日本だったらこういうことも珍しくなかっただろうが、今の日本ではこんなに従順に親の決めた相手と結婚する人はほとんどいないだろう。ニューヨークで最先端の学問や価値観やライフスタイルにどっぷりと浸かっている若者が、一見それとは相容れないような伝統的な価値観で生きていることが不思議にも眩しくも感じ、また「世界は広いな」と思った。

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ところで、ニューヨークらしい結婚スタイルと言ったら、CIty Hall Weddingと同性婚だろうか。

まず、ニューヨークのシティホール結婚式。これはニューヨーク市庁舎で執り行う結婚式のこと。日本の場合、婚約してから結婚式場の予約をして、招待客をリストアップして招待状や引き出物などの準備をして、半年とか1年後にようやく結婚に至る、というのが一般的だろうか。時間もお金もエネルギーもかかりそうだ。

ところが、ニューヨークで結婚するのはチョー簡単。オンラインで結婚許可証の申請を行い、返信されてきた結婚許可証をプリントアウトして市庁舎へ。受付でIDと印刷した結婚許可証を見せ、整理番号を受け取って待ち、呼ばれたら係員の指示に従って、ソーシャルセキュリティ・ナンバーや母親の結婚前の姓など、尋ねられたことに答えて、結婚許可証の費用35ドルを支払い、翌日から60日以内に結婚したら晴れて夫婦だ。

これではあまりに味気ないのでセレモニーも行いたいという場合は、市職員との対面での結婚式を行うこともできる。結婚許可証とIDを持参し、結婚の立会人に来てもらえば、人前結婚式的なセレモニーをしてもらえる。セレモニーの費用は25ドルなので、結婚許可証の費用と合わせても結婚費用は60ドル。セレモニーも10分程度で終わる。時間もお金もかからないニューヨーク式のスピード婚であり地味婚でもある。

私も市庁舎での結婚式に何度か出席したことがある。セレモニーを待つ人たちの中にはウエディングドレスの人もいれば、このあと仕事に直行しますというスーツ姿の人、普段着の人などさまざま。私の友人カップル(アメリカ人男性と日本人女性)もシャツにパンツというカジュアルな服装で、新妻は手にブーケ。ニューヨークっぽい自由さを感じるいでたちで結婚式に臨み、最後はホールの一角に設けられた、ニューヨーク市庁舎が描かれた写真撮影用の壁画の前で記念撮影を行なっていた。

ニューヨークの結婚式はセレブ婚のような盛大なものもあれば、宗教的な伝統に則った結婚式もあるが、一方でニューヨーク市庁舎で結婚式を行う人も少なくない。市庁舎での結婚式を見ていると、仕事の人間関係や様々なしがらみにとらわれないところや、結婚式や披露宴より新しい生活や旅行などの楽しみにお金を使おうという合理的なところがニューヨークらしい。

余談だが、ニューヨーク市庁舎の結婚式をプロデュースしている会社のサイトを見ていたら、こんなコピーを見つけて笑ってしまった。

”ニューヨーク州では、カップルが挙式の24時間前まで結婚許可証の申請を受け付けているため、休暇中に駆け落ちしたり結婚式を計画したりするのに理想的な州となっている。”

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同性婚については、ニューヨーク州では2011 年 6 月 24 日にアンドリュー M. クオモ知事が結婚平等法に署名し、同年7月24日に施行された。

この法律は、結婚許可証の申請は、当事者が同性であるか異性であるかに関わらず認められること、結婚に関する政府の取扱い、法的地位、効果、権利、利益、特権、保護、責任は結婚当事者が同性であるか異性であるかによって異なるものではないことなどを定めている。




らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote:

昼間でも聴ける深夜放送"KombuRadio"
「ことば」、「農業」、「これからの生き方」をテーマとしたカジュアルに考えを交換し合うためのプラットフォームです。



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