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33人目 ATフィールドを展開してる彼

(このタイトルに気付いて本人がこの記事を読みませんように。)

32人目くん以外にもオンラインゲーム友達が欲しかった私は、ペアーズのゲームコミュニティに入り、検索対象を「近隣県まで・上下5歳差・身長171cm以上・太い以外・子ども無し・ログイン3日以内」にして、足跡をつけまくった。

私の足跡を見たであろう33人目の彼からいいねがきてマッチングした。

33人目の彼 スペック
2歳下、近隣県在住、IT関係の仕事、一人暮らし、ぽっちゃり、身長:私+20cm

数回メッセージのやり取りをし、すぐに一緒にゲームをやる流れになった。
Discordというオンラインゲームをする人がよく利用するボイスチャットアプリを教えてもらい、会話をしながら遊んだ。

最初の印象は、なんか怖いだった。
声が低くて冷たそう。ゲームが上手く淡々と敵を倒す。
しかし、私の状況を気にしてくれたり、死にそうになったら回復アイテムをくれるので心優しい照れ屋さんだと思った。

少しゲームをした後、彼から「Discordはたまに通知がこないのでLINE交換しませんか?ゲーム以外のこともお話したいです。」と届いた。
会ったことがない人とLINE交換をするのは避けていたが、たぶん大丈夫な人だと直感が働きLINEを交換した。

それから、仕事終わりに週3回、彼とゲームをするようになった。

これほど仲良くなるなんて自分でも驚く。
真面目にゲームをする日もあれば、ダラダラと雑談だけする日もある。

私は新型ウイルスの流行で引きこもりがちになり誰かとコミュニケーションを取りたくてうずうずしていた。
彼は仕事のストレスで癒しが欲しかった。
互いの利害関係が一致したのだ。

会話の9割は彼。
まぁ、彼がお喋り上手で私が聞くタイプだからだけど。
何かテーマがあって語り合う感じ。
折衝した時は口達者な彼が論破した。

しかし私が「眠いからそろそろ寝るわ」と言うと、
「えーもう寝るのー早くない?」と言って修学旅行の生徒のようになかなか眠らせてくれない。
そのくせして、どんな仕事?休みは?趣味は?家族構成は?といったよくある質問は全くしてこない。
私のパーソナルなことに興味は無いのに、繋がろうとする寂しがり屋さん。

そして、恋愛に関しては奥手っぽい。
でも童貞の雰囲気はしないし、ヘアスタイルや服装に気を遣ってるし、経験がないわけじゃなくてあえて女性を避けてる感じ。
なのにペアーズに登録している。

幼い頃から相手を分析して分類しちゃう癖がある私だが、全然彼の中身(本質)が見えてこなかった。

マッチングアプリで32人と会ってきて初めての人種。
謎すぎて逆に興味が惹かれる。

なぜか分からないけれど、また話したいと思ってしまう中毒性のある人。

根競べだと思い、彼から会おうと誘われるまで私から絶対誘わないと心に決めた。


ボイスチャットをするようになって2か月が経った頃、
やっと彼の口から「久しぶりに居酒屋でお酒飲みたいなー。バンビさんの県は時短営業やってる?」とめちゃめちゃ遠回しなお誘いが聞けた。

普通ならただの質問に思えるが、奥手男子の彼と2か月間話しているとこれは明らかに誘っていると理解できた。

まず、私の名前を呼ぶことがレア。
次に、一人で外食できないヘビーウーバーユーザーなのに居酒屋に行きたいと言った。
最後に、時短かどうかはお得意のインターネットで調べたら分かるのに質問してきた。

彼なりに勇気を出したんだね、と微笑ましい気持ちになり、
「まだ時短になってないよ。こっちに飲みにおいでよ?」と私から誘った体裁にした。
彼から「それだ!」と届いて、やっと初対面を迎えることになった。

もちろん彼がお店の段取りなどしてくれるはずないので、私が駅近の良さげな居酒屋をリサーチして予約をした。

会う当日まで、彼は緊張してお腹痛いなどとメッセージを送ってきた。
可愛いやつだなーと思った。

◆はじめまして

夕方18時に駅で待ち合わせだったが、その日美容室でカラーが早く終わった私はLINEで「もう最寄り駅に着いたから○分着の電車で行くね」と送った。
彼は自分の方が先に着いて心を落ち着かせようと思っていたようで、慌てた様子で返信が来た。
そこそこ乗降者数の多い駅なので、電車内で服装の特徴を送り合い、先に着いた私が改札前で彼を待った。

彼が到着する時刻になり、改札を通る人をじーと見つめた。
一人身長が飛びぬけて高くて服装の色も合っている。すぐに彼だと分かった。
私は彼に駆け寄り「やっほー」と声をかけた。
(やっほーじゃなかったかもしれないが、親しみを込めた挨拶だった気がする。)

彼の反応は、「お、おう・・」と照れた様子。
彼は予想より背が高かった。
私は背が高い人が大好物なので、顔がブチャイクでもアリなのだ。
(特に冬は太っていても着込んでいたらわからないのでアリ寄りになるから恐ろしい。)

歩いて5分で予約していた居酒屋に着いた。
私が店内に入ろうとしたら、彼は入口で立ち止まり無言でタバコを吸い始めた。

え?

「一本吸ってからいい?」とか普通聞かない?
寒いから中に入りたいし、その煙私にかかってるんだけど?

きっと緊張で周りが見えてないのだ、とここは目を瞑ることにした。

彼の一服が終わって店内に入り、
「予約していた○○(もちろん偽名)です」と隣と間仕切りのある席へ案内してもらった。

彼は「緊張するー」と何度も言っていたので早く酔いたかったのだろう、ビールを注文。
私は最寄り駅まで車なのでソフトドリンク。
お品書きを見ながらお刺身やサラダなども注文した。

最初は当たり障りないことを話していたが、時間が経つにつれ彼の緊張は解け話す内容が濃くなった。

話のテーマは33人目さんのこれまでの人生について。
なぜひねくれた性格になったのか、それはいつからか、何が原因か。
彼はボイチャで何度も自身のことを「ATフィールド展開してるから」と言っていた。

ATフィールドとは
『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する架空のバリアの名称。
簡単に言うと、心の壁みたいなものらしい。

彼は”俺に近寄るな”という意思表示で言っているつもりだろうけど、私は”真の理解者になってほしい”という裏のメッセージが隠されていると思った。

他の女の子と違って私なら彼のATフィールドを壊せるかもしれない。
自惚れだけどそんな風に思えた。

そして、彼が抱える大きなトラウマの原因が学生時代まで遡ることをちらっと話し始めてくれた。

しかし、その重要なタイミングで突然私は吐き気を感じた。

血の気が無くなるこの感じやばい。貧血だ。

「話の途中でごめん、ちょっとお手洗いに行ってくる」

こういう居酒屋のトイレは男女共用で汚めなのがデフォルメ。
潔癖気味の私としてはキツイ。
吐きたいけど吐けない。

デート中に急に気分が悪くなるのは2人目の彼以来で、3年ぶりの出来事だった。

あーあ、また相手に気を遣わせてしまうのか。

でも私はなぜか、自分の身体のことを彼になら話せるかもしれないと思った。
私に心を開いてくれそうな彼なら、私の気持ちも分かってくれるかもしれない。

席に戻り、念のためにポーチに入れていた吐き気止め薬を飲み込んだ。

吐き気が少し収まってきたところで、「ごめん、急に気持ち悪くなって。全然33人目さんのせいじゃないからね。私・・・」と、体調のこと、それで相手に気を遣わせてしまうと悩んでいたこと、来月手術を受けることを話した。

お喋りな彼が口を挟まず、ただ私の話を聞いて相槌をうつ。
そして「無理しなくていいよ」と一言。

そのたった一言がとても嬉しかった。

彼の心を開くはずが、私の心が開いてしまった。

しかしながら私の体調はやはり芳しくなく、申し訳ないが帰らせてもらうことにした。
あまり食べていないしお酒も飲んでいないが半分払った。

駅まで歩いて、改札でお別れ。

思わぬハプニングがあったけれど、自分の体調のことを彼に言ってみて良かった。
肩の荷が降りたような不思議な気分だった。

◆それから

彼とは変わらずLINEもゲームも続いた。
ある時私が「手術が終わったら遊びに行きたい」とLINEし、お互い行ってみたいところを送り合ったりした。

そして入院手術をした日、ベッドから動けない私は誰かに甘えたくなり彼にLINEを送った。
彼からもLINEが届き安心して眠ることができた。

それから1か月後、リモートでの仕事が増えた彼からたまにLINEが届くようになった。
これまで私からLINEをすることが多かったので、彼の方から歩み寄ってくれるような気がして嬉しかった。

しかし彼のことを好きかどうか考えると、引っかかる部分が多くて好きまでいかなかった。

彼一人だけを考えるのはこれまでの経験上良くないと思い、ペアーズで新たなゲーム友達を複数人作った。
そして別のオンラインゲームをやり始めた。

◆リモートデート

ウイルス感染者が再び増加し都市圏に住む彼と会うことが困難になった。

そこで私はビデオ通話しながらデートをするリモートデートを計画した。
私が一人で観光地へ行ってスマホカメラで映しながら案内するだけなんだけど、現代のデート方法だ!と一人で勝手にワクワクした。

約束は14時だが、超夜型の彼はまだ寝てるだろうと15分前にモーニングコールをかけた。
反応無し。
くそっ。

車で穴場観光スポットの駐車場まで移動し、14時15分に今度はビデオ通話ボタンを押した。
彼は「寝てた…」と言って出てくれたがカメラはオフにされた。
「自分の顔が嫌いで捨てたい」と言われ、仕方ないので私だけカメラオンにして観光地を歩いた。
強風のため20分で案内を終わらせ車内へ戻った。

それから車内で2時間喋った。

話の内容はだんだん深く重くなり、私は「居酒屋で最後まで聞けなかった、あなたがATフィールドを展開する原因について教えてほしい」と言った。

彼は「…全然面白くないよ」と重い口を開いてくれた。

私は元カノに浮気されたとかそんな理由だと考えていたが、闇はもっともっと深かった。
(個人的なことなのでnoteに書けない。)

私は泣いてしまった。
私にはどうすることもできなくて。

彼は「この話を他人にそもそもしないけど、お酒を飲まないでしたのは初めて」と言った。

問題なのはその後の私の言動だった。

トラウマを真剣に話してくれた後、やめとけばいいのに何かフォローしなきゃと要らぬことを喋り続け、話はおかしい方向に進んでしまい、
彼に「俺は恋愛に向いてない」と言わせてしまった。

私の馬鹿。
誤解を招く言い方をしてしまう癖がある。

それをフォローする為に、
「今度33人目さんと会ったら好きになるかもしれない」と告白一歩手前みたいなことを言ってしまった。

彼は「バンビさんごめん。今日みたいに色々誘ってくれるけど、俺は恋愛する資格がない。」とかっこいい男代表みたいなセリフを言った。

私は好きかどうか分からない男に告白めいたことをなぜ今言ってしまったのかと後悔した。

にも拘わらず、すがる女代表のセリフ「私のどこがダメ?」と聞いてしまった。

彼は「バンビさんはどこも悪いところがない。」と、またもや良い男代表のセリフを言ってのけた。

それを聞いて、これ、私が20人目の仮氏候補にした彼の告白を断ったセリフと一緒だと気付いた。

すかさず私は「それ、私も告白を断る時に言ったことある。で本当はどこ?見た目?」と思ったことを脳を通さずそのまま口にした。

彼は「本当に何も悪いところがない。今俺が恋愛モードじゃない。ペアーズもやめた。」と言った。

あーあ。
なんで自ら最後の一撃を食らいにいったんだろう。
彼がトラウマを話そうと思ってくれる女性までなっていたのに。

◆翌日

いつもの調子で彼に全くどうでもいいLINEを送ってしまった。

今まではすぐに彼から返信がきたのに今日はこない。
そりゃそうか。

この晩、金縛りにあった。
人生で3度目の経験だった。

呪われたと思った。
怨霊が取り憑いたと思った。

すぐに彼に送ったLINEを削除し、ブロックした。
彼との関係を絶ったので恨まないでくださいと祈った。

ほとんど眠れなかった翌朝、ブロック削除を解除し、彼からブロックされているか確認したがされていなくてホッとした。

自分でもおかしいくらい彼に翻弄されていた。

考えすぎが良くないと思い、ゲーム友達を誘い3時間ほどオンラインゲームをした。
彼以外の人と遊んだら彼だけが特別じゃないと思った。

そして、一旦ペアーズを退会した。

◆それから・それから

IT分野で彼に教えてほしいことがあり一度LINEをした。
彼から返事が届いて、一生連絡が取れない相手ではないと思ったら気が楽になった。

ペアーズをやめてから約2か月後に再登録した。
私は再登録する度、これまで会ってきた人を検索してブロックする作業を行う。結構現役で残ってる男性がいて、私と同類の残り者かよと思いながらブロックボタンを押す。

33人目の彼を検索すると、ログイン24時間以内になっていた。
あの時「ペアーズやめた」と言ったのは嘘だった。

大ウソつき。
彼のLINEを即ブロックした。
これからの人生で関わっちゃいけない人だと思った。

◆振り返り

会話がおもしろくて、背が高くて、寂しがり屋で、かまってちゃんで、奥手で、用心深くて、後ろ向きの性格で、これまで会ったことのなかったタイプの33人目さん。
気を遣わず話せるので、彼のおかげで頭が整理されたり悩みが解決したりして感謝しているし、少し惹かれていたのも確かだった。

けれども、このままだと沼・毒・闇。
自分が病むことが目に見えていた。
(というか、病みかけた。)

金縛りの理由はご先祖様から「こいつはやめとけ」というメッセージだと思うことにした。


私は彼のATフィールドを壊せなかったし、彼も展開を解かなかった。

いつか彼が自ら展開を解き、家族や仲間達から「おめでとう」と言われる日がくることを願っている。

(※私はエヴァンゲリオンを観たことがない)

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