電話愛好家の人は電話が好きすぎて、電子メールを送った後は、すぐにその内容を直接伝達したくなっちゃう。『デタラメだもの』

仕事の場面における意思伝達の手段として電話は常に重宝されてきたわけだけれども、昨今の情報革命において電話というのはその実、少し鳴りを潜めているわけで。

要するにだ、電子メールだの電子メール的で且つスタンプなどを送り合えるコミュニケーションツールが台頭し、わざわざリアルタイムで会話するほどでもない意思伝達においては、非同期通信でコミュニケーションをするというのが常識となりつつある。

が、技術や文化というものにはだね、過渡期というものがあってだね、今現在昨今はまさに、その過渡期にいると言っても過言じゃあない。なぜかって言うとですね、仕事の場面においては、電話愛好家の方々と電子メール愛好家の方々が相まみえているという状況だからである。

そんな時代だからか、理解の範疇を軽く超越する出来事がよく起こる。

大半のケースではこんな感じ。まずは相手方から電子メールが飛んでくる。常日頃、電子メールの類は仕事にタイムラグが生じぬよう、ほとんどリアルタイムで拝見させていただいているため、即座に受信した電子メールに目を通す。

で、目を通している最中、文章の中盤くらいに差し掛かったところで電話が鳴る。ん? 誰からだ? と思い目をやると、今しがた電子メールを送ってくれはった張本人。なんだ? と思いながら電話に出ると。

「今、メールを送ったんで、また見ておいてください!」

スゲー矛盾を感じる。まずは御本人からすると「メールを送ったんで」ということで、過去形の出来事を現在に伝えようとしている。が、仕事のスピードが異常に早いということで半径200メートル以内の人たちに限り非常に有名なこの僕は、既に受け取った電子メールの半分近くは読み終え、なんなら電子メールの冒頭にあった指示に即し、行動を起こそうとしていたくらいである。

それにも関わらず「送ったんで」と、過去形の事実を突きつけられる。君は過去形。僕は現在進行系。この電話に何の意味があるのかと悩み、時にそのまま思考と瞑想のモードに入ってしまい、何ひとつ仕事が進まずに夕暮れを迎え、缶ビールだけを飲んで家に帰る、なんて日もあるくらいだ。

もうひとつ奇妙に感じることは、「また見ておいてください」というやつ。電話をかけてきたからには、やたらめったら急用な気がするじゃあないの。それをだ、「また見ておいてください」という風に未来のボクに託すやり口。現在進行系で指示を処理しようと動きはじめたボクに対し、未来口調で語るというそのやり口。

現在進行系のボクに対し、過去形と未来形の口調でサンドイッチにしやがって、何? 何? 弄ぼうとしてる? 翻弄しようとしてる? 鼻面を取って引き回そうとしてる?

これはまだ序の口。世の中には、いや、ビジネスのシーンにおいては、さらにツワモノが存在する。

電子メールが送られてきた。ふむふむ。なかなかの長文。これは読み応えがある。たくさんの指示も書かれているので、読み込むにはロジカルシンキングってやつが必要だ。まあ、しゃあない。熟読して仕事を完遂しますか。そう思い、懇切丁寧に読んでいる最中、電子メールの中盤から終盤あたりに差し掛かった時に電話が鳴る。ん? 今熟読しているこの電子メールを送ってくれた張本人さんじゃあないの。何? 何?

「今、メールを送ったんですけど」
「はぁ」
「見ていただけますか?」
「あっ、今見てますけど」
「それはよかった! じゃあご説明させていただきますね!」
「えっ……?」
「まずはメール本文の一行目の指示についてですが──」

スゲー矛盾を感じる。スゲー矛盾を感じる。スゲー奇妙だ。だって、電話で全ての説明を試みるつもりだったら、電子メールの送信、要らなくね? 電子メールをパチパチ入力している時間、無駄じゃね?
あと、電子メールの内容と全く同じことを伝達するんだったら、この電話、要らなくね?

さらに思う。ボクといたしましては既に、受け取った電子メールの中盤から終盤あたりまで読み進め、脳内で仕事の段取りを組み始め、Aという用件はロンドンに、Bという用件はニューヨークへと手配をかけ終えているくらいのスピード感。嗚呼、ごめんなさい。登場する地名に嘘偽りがございましたが、気にせず読み進めてくださいませ。

にも関わらずだ、電子メールの冒頭からツラツラと説明をなされる。これはあまりにも横暴。あまりにも無邪気。あまりにもセルフィッシュ。自己中心的思考極まりない愚行だと思いやしませんか。

あなたが電子メールをパチパチ入力していた時間と、それと寸分違わぬ内容を伝達する電話の時間。それにボクが電子メールの内容に即しノリに乗って仕事の手配を進めていた手を中断せんといけんという非効率さ。きっと誰も得をしていない。ウィンウィンの対極、ルーズルーズだ。

そんなこんなで僕は、そんな電話愛好家たちの暴挙を恐れ、電話におけるコミュニケーションを遮断してしまった。どうだい俺の筋肉。すごいだろ。見てごらんよ。と、眼前にご自身のマッスルを突きつけられるようなその威圧感。電話、こわい。電話、こわい。

何なら気分良く電子メールを読み進めているにも関わらず、メールの末尾に『お伝えしたい内容は以上でございます。また後ほどご説明のお電話をいたしますので』なんて書かれているのを目にした日にゃ、恐怖のあまり震えおののき、その場で早退を決意する始末。

ただ、真の電話愛好家というのは、自身のマッスルから目を背け逃げ去るような卑怯者を許してはくれない。

先日、お出かけ先から事務所に戻ってみると、1枚の付箋。『氷室(仮名)さまから電話あり』なるほど。理解した。ただ、今はまだお出かけ先から帰ったばかり。平生、打ち合わせの帰り道では、その日の打ち合わせの内容を既に脳内で組み立て、帰りの道中で手配の一部を進めたりと、深い思考をしながら歩いたりするもんで、たいていの場合、3度ほど車にはねられそうになる。

そうなってくると、事務所に着くやいなや、思考の先に見出した段取り、というものに着手したくもなるのが人間。なので、氷室(仮名)さん、しばしお待ちを。

ということで、少しばかり離席しトイレへ。スッキリしてからでないと効率的に仕事ができやんからね。で、用を足し仕事を再開しようと席に戻ってくると、そこには新たな付箋が1枚。『氷室(仮名)さまから再度、電話あり』なるほど。氷室(仮名)さんというのは、せっかちなお人なのだな。きっと歩行者信号で信号待ちしている最中、青信号に変わる前の赤信号の最後の咆哮を聞き終えぬまま、食い気味に一歩足を前に出してしまうタイプだろうな。

そんなことを考えていると、同僚から声がかかり、「ちょっと、急ぎでこのデザイン、見てもらってもいいですか?」なるほど。すぐに見て差し上げようじゃあないの。同僚は打ち合わせブースへと僕を呼ぶ。僕は打ち合わせブースへと吸い込まれる。数分間、同僚のデザインを眺め、世間に二つとない貴重な意見を差し上げる。同僚はそれに反発し、気づけば殴り合いの喧嘩を始める。右頬が大いに腫れた。グスン。

大いに腫れ熱を帯びた右頬を押さえながら自席に戻ると、またしても新たな付箋。『氷室(仮名)さまから再度、電話あり。折り返しのお電話をお願いできますでしょうか』なるほど。

ここまで来ると、氷室(仮名)さんがイラついていることだけでなく、氷室(仮名)さんからの電話を何度も取り次ぎ、3枚もの付箋を書き貼ってくれたスタッフさんの怒りも滲み出している。電話に出ないお前が全て悪い。諸悪の根源だ。左頬を殴ってやろうか。そんな狂気すらも見受けられる。

さすがにここまで言われて後回しにするのも不親切だ。仕方なく電話を取り出し、ダイヤルを回す。氷室(仮名)さんが出た。あっ、何度もお電話いただいたみたいで。お受けできず失礼いたしました。どのようなご用件でしょうか?

「折り返しありがとうございます。先ほど1通メールを送っております。特に急ぎの用件ではございませんので、またご確認くださいませ。ではっ」

僕は電話を地面に投げつけた。木っ端微塵に破壊した。身元引受人不明のこのストレスをどう発散してやらんことか。ふと指に目をやる。すると、投げつけた電話の破片が跳ね返り、人差し指の先端をかすめ、血が滲んでいるではないか。

ぐぬぬ。これは病院だ。病院に行かねば。今すぐに診てもらえる病院をインターネットで探して、お問い合わせフォームから電子メールを1通送った後に、直接電話し、電子メールの内容をそっくりそのまま伝えてから診察に向かおう。

デタラメだもの。

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エッセイ『デタラメだもの』

デタラメに生きる。デタラメに暮らす。薄暗い世の中をデタラメに生きるための処世術、バイブル。妄想まみれで日常を綴るエッセイです。
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