長いこと一緒にいると何かが見える。そして、へなちょこでbadなオトコノコが好きで困る。

 ゴールデン・ウィーク後半は、初日に彼氏のところに飛んで行き(お昼頃バカンスな感じの写真が送られてきたので、「明日行っていい?」と訊いたら「今日の夜は?♡」とか言うから、急遽走った)、結局3泊4日滞在してしまった。3日目の夜に、実家に「明日帰る」と電話を入れたら、若干父親の対応が冷たかった。ゴールデン・ウィーク前半も2泊3日しているので、計算してみると、87.5%の休暇彼氏率ということになった。なんと。

 それはそれでとても楽しい休暇ではあったが、帰る時にはやっぱり疲れた。それはいつものような肉体的疲れではなくて、どちらかというと精神的疲れだった。なんというか、彼氏情報量が多すぎて、処理が間に合わない感じ。ローデータが一気に流入して、加工分析ができない感じ。そう、処理も加工もできてないのでもやもや疲れる訳なのだが、それでも確かなひとつの大きな疑いが芽生えている。「この人やっぱり、ろくでなしじゃねえか!?」。いや勿論、稼がないとか浮気性とか暴力振るうとかギャンブル狂いとかドラッグ常習とか、そういう類のろくでなしではない(デートし始めの頃の彼氏の自己アピールは、「ワタシ浮気シナイヨー!」というのと「no drug, あ、でもマリファナは昔ちょっと」だった)。なんていうか、すごくオトコノコ!なんならもう、「bad boy!」というのが一番ぴったりくる。

 オトコノコって、彼女に安心すると俄然好きなことしか見えなくなるというか、やりたいことに没頭し始めるというか、そういう印象をわたしは持っているのだが、今彼氏の頭の中を一杯にしているのは、車とバイクだ。彼の持っている動かない車とバイクを復活させたいんだって。なので、「森の中に放置されてエンジンが固着した車を再び走れるようにする」動画だとか、「バイクをカスタムして bobber 型に改造する」動画だとかを、散々 youtube で見せられた。それはそれで、こんな腐ったような車が生き返るのかとかバイクも中型か大型かっていう違いだけじゃないんだなとかアメリカとかロシアとかドイツとかでは車は出来合いのものを買ってくるものなんじゃなくてガレージの片隅に放置されていた動かないやつとか友人から譲られたぽんこつとかを自分で何とかするものなんだなとか、いろいろ興味深く見ていた訳なのだが、さすがにこう、眠くて仕方がない夜中に youtube の動画を前にハーレー・ダビッドソンを例にとってエンジンの動く原理を延々と説明された時には、(いったい自分は何をしているのか)と疑問が生じないでもなかった。いや、エンジンの仕組みは大体分かりました。

 もうほんと子どもじゃん!と思ったエピソードはもうひとつある(いやまあ、これらだけじゃない、もっとあった訳ですけど、代表的なものということで)。ある晩、寝てる彼氏がやばかった。呼吸が乱れて睡眠時無呼吸症候群みたいな止まり方をするし、時々体をびくっと震わせる。起こした方がいいのやら、いや、おそらく相当疲れているのだろうから、下手に起こすより寝せておいた方がいいのか、ちょっとはらはらしていると、不意に目覚めて「なんか一杯夢を見ちゃった」とか言い出す。自分がいろんなことをしている夢を、次から次へと見たのだそうだ。空気が乾燥してる、と言うので、呼吸がおかしかったよ、と伝えると、彼氏はトイレに立ち、「お水飲んできた」と戻ってきた。喉が塞がるから仰向けじゃなくて横向きに寝た方がいいよ、と教えると、「ハイ、キクチドクター」と返事して素直に横向きになって寝た。なんならいつもはしないうつ伏せ寝もしていた。なんかもう、寝惚けた小さい男の子みたいで可愛かった。

 思わず昔のことを思い出す。元夫が飲み過ぎて寝ゲロした時のことだ。わたしが始末したのだが、心細げに「ごめんね、ごめんね」と言っていて、それがすごく可愛かったのだ。さらに思い出してしまったのが、高校の時好きだった先生のことだ。ちょっとワイルドな感じの30歳手前の男だったのだが、彼が授業中に話した、学生時代にインドに一人旅して銃撃戦に巻き込まれてやばい目に遭ってべそをかきながら知らないインド人のお爺さんにかくまってもらったとかいうエピソードに、やられた記憶がある。確か昔書いた小説に引用した筈だ、と調べてみたら、卒業後に電話をかけたら休日の昼間なのに家にいて、表でやくざがバーベキューしてるから外に出られない、と情けなく語ったのがとにかく可愛い、というエピソードが使われていた。

 なんというか、頼りがいのある安心感抜群の男より、へなちょこな男が好きなのだ。それが年上だともう最高だ。長いこと忘れていたのにその先生のことまで思い出してしまったので、へなちょこ好きがもう20年くらい治っていないことにも気づいてしまった。今さらどうしたらよいのか。

 というのも、連休前半の最終日、弟が家を建てると言うのだ。弟はわたしより6歳年下なのだが、優良な地元企業に就職し、中学高校の同級生と結婚、奥さんも資格職なので世帯収入は上々、子どもも2人生まれ、イクメンで、夫婦仲もよく、そしてその上家を建てるとか、なんだ、その安定っぷりは。学生時代はマッシュルームカットでヨーロッパにバックパックしたりとかそれなりにふらふらしてたのに、いつの間にか、安定堅実な男に脱皮していた。怖ろしい。

 おそらく、そういう安定堅実な男と一緒にいた方が、間違いがないのだ。弟も奥さんの前ではへなちょこであるという可能性もゼロであるとは言えないが、まあ、ゼロだ。ところが姉は、銃撃戦ややくざに怯えたり、寝ゲロ吐いたり、夢を見過ぎて睡眠がおかしくなったりしている男たちにときめいた挙句、連休の夜に youtube でエンジンの解説を傾聴している始末。弟は家族でアンパンマンミュージアムに行ってるっていうのに!

 覚悟を決めてへなちょこな男に殉じたらいいのか、男の好みを考え直した方がいいのか。しかしティーンエイジャーの頃からの20年来のへなちょこ好きだ。これはもう、この先も思いやられる。ネットで読んだコラムで、ダメ男と覚悟を決めて付き合うには彼の知らない貯金を確保しろ、と書いてあったので、ちょっと貯金にいそしみたい。でも彼氏、新しいバイクを買いたいからわたしをヤフオクで売るって言ってたよ。もー、彼氏と付き合い続けると、そのうち売られるのかよ!

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