見出し画像

Tohji「mAntle f**k」感想 ~スケールのデカさアピールが独特すぎるラッパー~

Tohjiの「mAntle f**k」(マントルファック)という楽曲について感想を語ります。

「mAntle f**k」は2018年7月21日にリリースされた『9.97』というEPに収録されています。作詞、作曲、MVのすべてがTohji自身によってプロデュースされているようです。

Tohji - mAntle f**k (prod./dir. Tohji)

「mAntle f**k」歌詞

今回、歌詞は以下のページを参考にしています。

[Verse]
Mantle fuck mantle fuck mantle fuck mantle fuck mantle fuck

ここにない モノ見たい
誰よりも空を飛びたい
誰も敵うことができないくそでっけえ城を建てたい
広い世界 交わりたい
砂漠に落ちる俺の鼻血
よくいるちょっとブスなビッチよりmantleに突き刺したい

[Hook]
俺ファックしてる地球の中心
俺ら以外全員が宇宙人
Mantle fuck, mantle fuck, uh ye
Mantle fuck, mantle fuck, uh ye (OK)
俺ファックしてる地球の中心
俺ら以外全員が宇宙人
Mantle fuck, mantle fuck, uh ye
Mantle fuck, mantle fuck, uh ye

[Verse]
Mantle fuck mantle fuck mantle fuck mantle fuck mantle fuck

張り裂ける宙 落ちる雷
空は泣き出し 俺と溶け合う
種が生える 外は晴れる
地鳴りがうるさくて仕方ない

[Hook]
俺ファックしてる地球の中心
俺ら以外全員が宇宙人
Mantle fuck, mantle fuck, uh ye
Mantle fuck, mantle fuck, uh ye (OK)
俺ファックしてる地球の中心
俺ら以外全員が宇宙人
Mantle fuck, mantle fuck, uh ye
Mantle fuck, mantle fuck, uh ye

Tohji - mAntle f**k

「mAntle f**k」感想

私はこの曲のことが結構好きなんです
音楽として気持ちいいし、テーマもおもしろく感じます。

個人的な楽しみ方

私がこの楽曲を一番楽しんでいた時期は、大学院生の頃です。Covid-19が流行し始めた時期に知人がいない土地に越してきて、この社会の中で自分一人だけ浮いて生きているような心地がしていました。気づいたら生活習慣はぶっ壊れ、日中眠り、深夜に活動し始めるような状態でした。一日中空腹で過ごすことが多かったのですが、夜に活動を始める自分にとって午前5時に営業開始する「すき家」だけが救いだったのをよく覚えています。
そんな当時、私は深夜から早朝の人がいない時間帯にイヤホンを着けて外を出歩き、このMVで見られるTohjiのステップの踏み方に憧れて、ノリノリで変なステップを踏みながら移動していました。その瞬間だけはマジでバカデカい幸福感を感じたものです。「俺だけがこの喜びを知っている」と強く感じていました。個人的には、この曲は外で暴れまわりながら聞くのが一番気持ちいいです世界で自分一人だけがこの世界を超越したような気分でいられます。これはたぶんそういう力をもった楽曲です。

Tohji「自分が同世代で世界的に見てもポテンシャル含めてトップクラスにいるって感じてた」

「mAntle f**k」に関する感想を語るために、まずはTohjiのインタビューを参照してみます。Tohjiが高校を中退した後で音楽を始めたときのことを語っている場面です。

ー本気で〔音楽を〕やろうと思うきっかけは何かあったんですか?ー
Tohji「うーん、どうだろう。でも自分が同世代で日本だけじゃなくて世界的にみても、ポテンシャル含めてトップクラスにいるって感じてたから“じゃあもう自分で思ってるなら試せよ”って思ったんで、“じゃあやるわ”って感じです」

ラッパーTohjiが見てきた景色と、そこから生み出す新しい世界 | Newave Japan #41

Tohjiは、様々なリリックやインタビューから伝わってくるように、「自分はすげぇやつだし、これからもっともっと上に行く」ということをごく素朴に信じ続けられている人物みたいなのです。
(ちなみに上述のインタビュー記事で語られていますが、Tohjiは高校時代、麻布高校のヤンチャ派閥の中で教師から目を付けられるほどのカリスマ的存在だったようですね)。
「mAntle f**k」とは、そういった「俺は根本的にレベルが違うんだ」という肥大化した全能感が暴走気味に表現された楽曲である、と思います。彼が自分の"スケールの違い"を見せつけるやり方が「マントルにファックする」というものだった、という捉え方です。

マントルとは

ここで、せっかくなのでマントルについて掘り下げてみます。(楽曲に絡めて知識を深めたり学校の勉強を復習したりするのが好きなんです)。
とりあえずマントルとは、地球というバカでかい岩石の大半を占める「中身」の部分みたいですね。
自分が聞いたことがあるのは「ゆで卵」とのアナロジーで、ゆで卵における「殻・白身・黄身」が、地球における「地殻・マントル・核」と類比的に捉えられる、というものです。そう言われるとイメージがつきやすいですよね。
なお、いまだ人類は「核」(黄身)どころか「マントル」(白身)にも到達したことがないそうです。

海洋研究開発機構の記事(2022)によれば、マントルは赤い溶岩ではなく透き通った緑の宝石だとか

このように莫大な規模をもつ「マントル」に対して"何か"を突き刺すためには、"それ"はよっぽどデカくないといけないことでしょう。

ファックとは

「mAntle f**k」では、「よくいるちょっとブスなビッチよりmantleに突き刺したい」とか「俺ファックしてる地球の中心」などと歌われています。つまり、おそらくTohjiは自身のペニス(=ちんぽ=dick)を地球に対してぶっ差しているようなイメージをもっているのでしょう。よほどデカいんでしょうね。
確かに、ヒップホップ文化なので「俺はお前らとはスケールが違う」とか「性生活の面でも俺はやべぇ」みたいなことを歌うというのは一つの作法として確立されてるのかもしれません。また、自身の性器のデカさを誇示するというのは、男性が自分のすごさを誇示するためのノリとしてそれなりに確立された振る舞いなのかなとは思います。
しかし、たとえそうだとしても、「俺はこの地球にぶっ差してやるぜ!」みたいなアピールの仕方はやはりどこかズレていると思うし、滑稽さもあり笑いが込み上げてきます。だって、誰もそんなことしたいと思ったことがないし、マントルにファックしてても別にかっこいいのか不明ですからね。

一方で、私たちはふつうに地球上で暮らし、ご飯を食べたり、道を歩いたり、家で眠ったりして暮らしています。これがふつうの人々の過ごし方です。
他方で、Tohjiは「誰よりも空を飛びたい」「誰も敵うことができないくそでっけえ城を建てたい」「広い世界 交わりたい」「空は泣き出し 俺と溶け合う」など、もはや一個人が送る生活のスケール感を抜け出し、この地球全体と溶け合って一体化しようとしているかのようです

そして極めつけはフックの歌詞です。
「俺ファックしてる地球の中心
俺ら以外全員が宇宙人
Mantle fuck, mantle fuck, uh ye
Mantle fuck, mantle fuck, uh ye (OK)」。
まるでTohjiは「俺だけが地球と繋がっていて、お前ら全員地球"外"生命体だ。俺と地球だけが本物の"地球"だ」とでも喚(わめ)いているかのようです。
なお、イヤホンでTohjiの音楽と繋がっているときに「俺ら以外全員が宇宙人」というリリックを聴くと、自分とTohjiだけがこの世界で特別な存在になったかのような連帯感を味わえる場合があるのでちょっとオススメです。(こんな曲聞いてて絶対「俺ら」の方が宇宙人だろとは思いますけどね。それもまた楽しいです)。

ちんぽ大喜利

Tohjiは「mAntle f**k」以外にも、彼の"dick"と関連付けられる仕方で自分のスケールの大きさを表現する場合があります。
Tohjiが彼のdickと関連付ける仕方で行ってきたスケールの大きさアピールは、あえてコミカルに名づけるならば「ちんぽ大喜利」とでも呼ぶことができるでしょう。本当はもっと別の言い方(dick, ペニス, ちんちん等)でもいいのですが、「ちんぽ」が一番滑稽でギャグな言い方だと思います。また、Tohjiが「ねるねるねるね」という楽曲ではっきりと「ちんぽ」と歌っているので、Tohjiの歌詞をおもしろがる文脈ではやはり「ちんぽ」でいいだろうと思うのです。
(私だって、本当は自分の記事でそんな言葉を出すのはみっともなくて嫌ですよ!? でもそれがおふざけとして正解だと思うならやるしかないです)。

Tohjiによる「ちんぽ大喜利」(=dickに絡めたビッグスケールアピール)の例をいくつか挙げていきます。

① Iron d**k

『KUUGA』(2021)というアルバムの「Iron d**k」という楽曲タイトルは、直訳すると「鉄ちんぽ」。このdickはただものじゃない感じがしますね。
(それにしてもふざけやがって…笑)
なお曲としてはかなりいいです。

② My Swag

「My Swag」(2021)の歌詞に「はみでそうな mega dick」とあり、これもデカさのアピールの仕方が直接的過ぎて自分は「オエーッ」ってなります。

③ ねるねるねるね

『t-mix』(2022)収録の「ねるねるねるね」という楽曲。(作詞作曲は共にTohji)。

俺ら 1 2
叩く ちんぽ
高く鳴ってるフルートがリード
俺ら3 4
叩く クラップ 鳴る
ベッドの上

Tohji - ねるねるねるね

ベッドの上で二人溶け合う様が「ねるねるねるね」にたとえられ神秘的に表現された芸術的な楽曲です。しかし、高く響くフルートの音色がリードする中で「1 2」のリズムに合わせてちんぽを叩いている様子が想像されてしまい、この美しい雰囲気に綺麗なままで酔いしれることを許してくれない意味不明な楽曲でもあります。(ふざけやがって!!)
音楽としては結構いいです。

④ Super Ocean Man

『t-mix』(2022)収録の「Super Ocean Man」という楽曲の2番冒頭の歌詞。

Let me see ur
ANAにつきさすmy flight
I gon make it splashする
嵐みたい ニノ

「ANAにつきさすmy flight」では、「俺のジェット機を穴(航空会社)に突き刺すぜ」「そして台風みたいな規模のsplash(液体の噴出)を巻き起こすぜ」みたいなことが歌われているんだろうと思っています。ここには下ネタが含まれていると考えています。
「Super Ocean Man」のこの箇所では、「mAntle f**k」ほどではありませんが、それを彷彿とさせるような規模の「ビッグスケールファック」が歌われていると思っています。
さらに言えば、そんなことを歌っていながら、「嵐」に関連付けて「ニノ~」という実在する人気アイドルの愛称を歌ってみせるなんて、「ふざけやがって!」と言わざるをえません。

本人はいたって真面目に彼なりのやり方で自分のスケールのデカさをアピールしたいのかもしれないけど、そのやり方がユニークすぎるあまり、かえってズレてる感じや滑稽さを生じさせており、妙におもしろいです
気持ち悪がるよりおもしろがった方が楽しいとは思っていて、私にとってTohjiの楽曲では何とかそれができています。

おわりに

今回は、大好きな楽曲である「mAntle f**k」を題材に、Tohjiが彼のdickを素材にして彼自身のスケールの大きさをアピールするやり方について少しまとめてみました。
私個人の感性においては、例えば「いろんなbitchとヤリまくりだぜ」みたいなリリックはキモいとしか感じられないのですが、「俺はmantleに突き刺したいんだぜ」みたいなリリックはちょっとおもしろくて笑っちゃいます。
これからもTohjiには、自分の思うように楽しい音楽を作っていってもらいたいですね。本当に楽しみにしています。(なんだか上から目線っぽくてすみません)。
(個人的には下ネタはあってもなくても全然構いません。何となく今回はそういうテーマになってしまいましたが、もちろんTohjiの魅力は別にそういうおもしろさだけではありませんからね)。

おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?