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【読書記録】サクリファイス

サクリファイス (sacrifice) : 犠牲、いけにえ、身代わり

今回は、近藤史恵さんの”サクリファイス”です。


読む前に

何度もおすすめ図書などで目にしていたが、このタイトルの物々しさに怖気付いて、今まで読んでこなかった作品です。あと近藤史恵さん、ミステリ寄りのイメージがあってですね…(食わず嫌い)。

初めて読んで

読みながら、サクリファイスってそういうことかあぁぁぁって。なんかもう。この物語にぴったりの名前やわ。と。

冒頭あのシーンを見せつけられたら、それからの物語の始まりに立った時点で、今後どういうふうに展開していくのだろうと思わずにはいられないじゃないか。
そして実際読み進めながら、ずっと自分の立ち位置を決めかねている感覚に襲われていた。それぞれの人間に対する情報が部分的に入ってくる物語の中、無意識か意識的にか分からないところで、この人はこういう風な人かな、って感じ取ってしまうところがあって、そういうものをやすやすと超えていってしまう展開。自分は誰を信じて、誰を応援すればいいんだ (大袈裟)。

これはなんというジャンルの作品なのか

重量感のあるタイプの物語ではなくて、さらりと読んでしまえるのに、その中に迸っている熱量に触れることができる。読んでいく中で窺い知ることのできるそれぞれの人柄、思惑の絡み合いも楽しい。ロードレースに対する知識がほぼゼロ (ツールドフランスの名前は知ってる、レベル) の私でも、その競技に対する疑問で手が止まることなくスムーズに読み切れてしまった。競技そのものにも関心を持った。
個人戦ではなく、チームの中で自分に与えられた立ち回りがあること、そしてそのチームのみんながいるからこそ勝ちに行ける存在がいること、その人が背負っているもの、公平性や紳士性、これは人間力のスポーツなのか。

驕りと誇り

最後まで読んで、あぁ、分からない人にはその美しさは、信念は、分からないものなんだなって思ったりした。
それはある人から見れば一種の哀しさを含んでいるのに、その哀しさに気づかないまま生きていくなんてことは、当たり前にあり得るのだ。
私だって、作中に存在する誇り高さとそれを守るための行為を、流石に過激だと思わずにはいられなかった。
たかが…と感じてしまう自分の気配をどこかで感じざるを得なかった。けれど所詮それはその人にしか分からないものなのだ。その人の人生、その人の選択。それだけのものを背負って、それだけの愛を抱えて、それだけの誇りを掲げながら、一つのことに打ち込むこと。

とんでもない強さ、人間としての強さだなという思いもあり、尊敬もある。それを知る人たちだけの集まりにいることは、どれだけ純度の高い美しさに触れられることなのだろうと、少し羨ましさすら感じる。

これはなんというジャンルの作品なのか(再)

読後、初めての感覚だった。必ずしも私の好きなザ、スポ根というジャンルではないのに、そういう熱の疼きみたいなものが残っていて、かつ真相に触れられた達成感のような、私の苦手なミステリにおける感覚も同時にある。
心情描写の割合と出来事の展開との塩梅が絶妙だったのかなと思ったりした。

続編あるんですよね。
ありがとうございます。
読ませていただきます。


暖かくなったり寒くなったりしていますが、皆様お身体に気をつけてお過ごしください。
うち近所の桜の花は、開いていいのかまだなのか困惑している様子です。

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