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上大崎発読書案内

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記事一覧

初めての学校は不安がいっぱい!/『がっこうのてんこちゃん はじめてばかりでどうしよう!の巻』/文:編集部 田代翠

 『がっこうのてんこちゃん はじめてばかりでどうしよう!の巻』は、漫画家の細川貂々による小学校低学年向けの読み物です。これまでにも細川がさし絵を担当した児童書は多数ありますが、本書はお話も自分で書いた初めての作品です。  てんこちゃんは「初めてのこと」がとても苦手。小学一年生になり、ドキドキしながら登校した最初の日、ひとりずつ名前とすきなことを言って自己紹介をしよう、と担任の先生が言います。  わたしのすきなことってなんだろう? と、てんこちゃんが考えこんでいるあいだに、ク

できるってどういうこと?/『体はゆく』/文:上村 令

 小学3、4年生のころ、スポーツが得意な男子と、同じSFのシリーズにはまり、本を貸し借りするなどして急に仲よくなったことがあります。どういう話の流れだったのか、あるときその子がわたしに、「なあ、おまえ、どうして逆上がりができないの?」と尋ねました。全然意地悪ではなく、心底不思議がっている口調だったので、わたしも真剣に考えました…どうしてかな? するとその子は、「オレ逆に、もうできなかった時の感じが思い出せない」と言いました。その後SF好きの二人は、「もし脳みそだけ入れ替われた

かめが語る戦争/『ひろしまの満月』/文:編集部小島範子

 物語は、ある池の庭にいるかめのモノローグ、「わたしは、かめです。」で始まります。かめは、だれも住んでいない家の古い池に何年も何年も前からずっとひとりで暮らしていました。  けれどもある日、その家に引っ越してきた家族の、小さな女の子の声で、かめの記憶がよみがえります。  月を見上げると、満月。かめの思い出ドアのかぎがあきます。かめには、心がばりばりとやぶれてしまいそうな思い出があるのです。  引っ越してきたのがどんな子か見てみよう、と思ったかめは、池を出て、女の子と出会

女の子だと……?/『囚われのアマル』/文:編集部 小島範子

 舞台は現代のパキスタン。主人公のアマルは、小さな村に住む12歳の少女。本が好きで、学校で先生のお手伝いをする時間が楽しみ。家では三人の妹たちの世話をする日々ですが、さらにもうひとり妹が生まれます。父親は、生まれたのがまたしても女の子だと知ると、喜ぶ様子もありません。母親は産後体調がすぐれず、赤ん坊の世話はアマルがしなければならず、学校へも行けなくなってしまいます。  そんなある日、市場に買い物に行ったアマルは、店にあった最後の一個のザクロを買い求めた直後に、車にぶつけられ

被災地を歩いて見つけた美

 今年で東日本大震災から10年。当時はまだ赤子だった子どもたちが10歳になると考えると、月日が経つのは早いと感じます。  2月刊絵本『はるのひ』の作者、小池アミイゴさんは震災後、自分が被災地に唯一貢献できるのは被災地で見つけた美しい風景を描いてその美しさを共有していくことだ、と感じてから、何度も被災地を訪れて海辺の風景などを描き、「東日本」という個展を定期的に開催されてきました。その活動がきっかけになり、依頼を受けたのが、絵本『とうだい』です。  岬にたつ生まれたての灯台

子ども時代の終わりに/『ちいさな国で』/文:編集部 上村令

 アフリカの「ちいさな国」、ブルンジ共和国で、フランス人の父と、ルワンダからの難民である母との間に生まれた少年ギャビーは、欧米人や裕福な黒人が暮らす通りで、仲のいい何人かの友だちと、林に小屋を作ったり、近所に実っている果物を取ったりと、楽しい毎日を送っています。近所じゅうの大人や子どもが集まり、夜中過ぎまで音楽で盛り上がったギャビーの11歳の誕生日。新品の自転車を、盗まれてしまい、使用人たちと探しまわったこと。そして、盗品とは知らずにそれを買った貧しい一家から、無理に取り戻し