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【子どもの本の本屋さん 番外編】    ミュンヘン国際児童図書館 訪問記

 2022年10月、フランクフルトブックフェアへの出張の際、少し足を伸ばして、ミュンヘン国際児童図書館に行ってきました。今回はその様子をご報告します。

〈ブルーテンブルク城へ〉
 イェラ・レップマンによって1949年に創立されたミュンヘン国際児童図書館は、世界最大規模の児童図書館として、世界中の子どもの本を収集・所蔵し、さまざまな企画展、原画展を行っています。一般の方も利用でき、また、児童文学研究を支援する図書室も備えています。
 この図書館があるのは、ミュンヘン郊外の「ブルーテンブルク城」。フランクフルトから3時間半ほどかけて、特急電車と普通電車を乗り継ぎ、最寄駅へ。さらに路線バスに10分ほど乗り、住宅地を抜けると、ブルーテンブルク城。かつては公爵の狩猟時に使う館だったそうで、湖と小川、森にかこまれたのどかなところです。

「ブルーテンブルク城」の標識。
城のそばには小川が流れ、ジョギングや散歩をする人も。
木立には、赤毛のリスを見かけました!


〈書庫〉
 まずは、膨大な蔵書をおさめている書庫から見学。書庫は、城のメインの建物の地下にあります。
 階段を降り、薄暗い廊下を通って、フェルト製の巨大なスリッパのような履物を靴の上から着用(書庫の本の保護のためでしょう)。そして、重い扉を開けると、大きな部屋に可動式の本棚がずらっと並んでいました。書庫は思いのほか広く、通路を進んでも進んでも、本棚、本棚、本棚…。世界中からの献本によって集められた子どもの本が国ごとに分けられ、可動式の本棚にぎっしり詰まっています。
 日本の棚をのぞくと、昔、学級文庫で読んだ 80年代の児童文学や、戦後に出版された昔話の絵本〈講談社の絵本〉などを発見。日本でもなかなか見られないような古い本を、ミュンヘン郊外で何冊も目にするのは、ふしぎな感覚でした。もちろん、最近出た新しい本も所蔵されています。なお、現在は別の場所にも本を保管しているそうです。

書庫の可動式の本棚。
ハンドルをくるくる回してスペースを作ります。
徳間書店の本もありました。


〈アクセル・シェフラー原画展〉
 図書館のメインの建物では、ちょうど絵本作家アクセル・シェフラーの原画展が開催中でした。ドイツ出身で英国在住のシェフラーは、ヨーロッパでは、「グラファロ」シリーズが大人気。徳間書店からは『チビウオのウソみたいなホントのはなし』を出版しています。
 1階の玄関ホールからすぐに展示が始まります。作家紹介のパネルに続き、壁には原画、床にはグラファロのものと思われる足跡が…! 足跡は、階段を経て2階の会場の回廊ギャラリーへと続いており、原画展の順路を示す目印になっています。途中の階段にもたくさんの原画が展示されているので、「わあ!」と目を輝かせて玄関ホールに入ってきた子どもは、きっと移動する間もわくわくした気持ちを途切れさせることなく、建物を探検するような気持ちで展示を見ることができるのではないかと思います。
 原画の点数は多く、かなりの見応え。90年代にほかの絵本作家と共同で作った本の原画や、シェフラーが家族に送った手紙の入っていた封筒(宛名の周りに絵が描いてある!)などもあり、幅広く充実した展示でした。
(ちなみに、翌日、ブックフェア会場でシェフラーさんにお会いしました!)

原画展は足跡をたどって…。


〈本の企画展〉
 原画展のギャラリースペースの奥にある階段を上がり、屋根裏部屋を使った展示スペース「宝物庫」へ。訪問時には、世界各国のノンフィクション絵本を紹介する企画展が行われていました。ドイツやフランスの古い貴重な絵本はガラスケースにおさめられていましたが、現代の絵本は、ベンチに座って読むことができるようにもなっていました。
 さらに奥には「ビネッテ・シュレーダー・キャビネット」と呼ばれるスペースが。ドイツの絵本作家ビネッテ・シュレーダーの蔵書、絵本の登場人物の紙製の人形がオルゴールにあわせて動く展示物などがあり、シュレーダーの作品の繊細で美しい世界を体感できるようになっています。ミュンヘン在住だったシュレーダーは、存命中は、ときどきここへやってきて、ご自身で蔵書に手を入れたりしていたそうです。

〈一般利用者向けの図書室〉
 別棟にある、一般の利用者向けの図書室も見せていただきました。世界中から収集された子どもの本で、同じ本が二冊ある場合は、一冊をこの図書室におさめているそうです。貸出カードを作れば、誰でも借りられるとのこと。訪問中も、日本人のお母さんが、お子さんを連れていらしていました。

一般利用者向けの図書室。
窓の外からは、湖に集まる鴨や白鳥たちの鳴き声が聞こえました。


 敷地内にはほかにも、「ミヒャエル・エンデ・ミュージアム」「ジェイムス・クリュスの塔」があり、作家の遺品や蔵書などが展示されています。また、児童図書館が受け入れている研究生のための図書室では、専用の机をもらった研究生が、熱心に研究に取り組んでいました。

 第二次世界大戦後に平和を願い、子どもたちのために作られた、この図書館。子どもの本の専門図書館であると同時に、一般の読者にも広く利用されているところが印象的でした。

★見学に際して、ミュンヘン国際児童図書館日本部門ご担当の中野怜奈さんに大変お世話になりました。また、ドイツ在住の絵本作家で図書館アシスタントの西村ももさんに館内をくまなくご案内いただきました。ありがとうございました。 

ミュンヘン国際児童図書館
Internationale Jugendbibliothek
https://www.ijb.de/en/home
Schloss Blutenburg
81247
München, GERMANY

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2023年1月/2月号より)

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