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【インド】とうとう内なるシヴァ神と出会う

翌朝、出勤するのぞみと途中まで一緒にUBERに乗って空港へ。北部のリシケシュに向かう。

ここもシヴァ神の聖地の一つだ。シヴァ神が司るヨガと瞑想の聖地である。ここを流れるガンジス河はほぼ上流に近づき、バラナシでは考えられないほど美しい翡翠色をしている。

ガンジス河にかかる二つの吊り橋、ラーム・ジューラー橋とラクシュマン・ジューラー橋が街の中心である。ちょうどヨガのインターナショナル・フェスティバルが開催中で、世界各国からヨガのスペシャリストが集まってきているようだ。
街中にはヨガスクールが至る所にあり、アシュラム(修行場)に泊まることもできる。ひとまずドミトリーにチェックインし、宿の無料ヨガクラスに参加した。同じ部屋のベッドはニュージーランド、アメリカ、イスラエル、ブラジル等から来た7人の男女で埋まっていた。ビートルズやスティーブ・ジョブズが滞在していただけあって、特に欧米人に人気の土地だ。

2日目はゆっくりと寝て、遅めの朝食をとりに表に出る。歩行者用のでこぼこ道がガンジス河と並行して伸び、土産物屋と欧米系のレストランがずらっと並んでいる。
店をなかなか決められず、最後に入った韓国人が経営するコンチネンタル・ブレックファーストの店に落ち着く。

混んでいる店内のガンジス河を望むテラスで相席になったスウェーデン人が、じっとこちらを見ている。ガンジス河と同じ翡翠色の美しい眼をしたおじいちゃんだな、と思って視線を返すと、どうしてリシケシュに来たのか問われた。
シヴァ神の聖地だから、と答えると、
「気が合うね。わたしは去年シヴァ神と会ったんだよ。」
と驚くべきことを言う。

「去年もリシケシュに来て、ガンジス河沿いを歩いていたら、突然シヴァ神が自分を包み込んだんだ。周りのことは何も分からなかったが、大きく包まれるような感覚だった。ああ、シヴァがやってきてくれたんだと分かって、幸福感が溢れた。シヴァと一体になったような気持ちになったよ。」

普通なら引いてしまうような話だが、語りかける穏やかな雰囲気と優しい顔、落ち着いた所作から、決して冗談を言っているのではないことが分かった。

彼の名前はIngemar Nykvist、インジェマ。私に3歳の息子がいることや、彼の孫娘が来月生まれそうなことを話しながら、どうしてシヴァに惹かれるのかお互いに話す。インジェマは数年前に突然リシケシュに呼ばれたような気になってこの地を訪れて、シヴァ神が気になるようになり、以来毎年来ているという。ガンジス河の源流まで行ったり、ヒマラヤのてっぺんを「シヴァ・リンガだよ」(シヴァの偉大な象徴で男性器の暗喩)と写真で見せてくれたりした。この後はスペインのカナリア島に行く予定があると言う。

気が合って話が弾むも、内容はほとんどスピリチュアルで不思議な内容。お互い、出会うべくして出会ったと時が止まったように感じる。お互いの存在に感謝する。

店を出て、私も翡翠色のガンジス河の近くに行ってみよう、できれば入ってみようと思い立つ。バラナシでは衛生的に沐浴する気になれなかったが、ここならできるかもしれない。

宿で準備をして、ラクシュマン・ジューラー橋を向こう岸に渡り、ガンジス河の岩場側に降りる。
まずはインド式にサリーを清める。透明度の高い水にサリーを浸して洗い、地元の人に倣って岩の上にのばして干す。

それから、瞑想に入る。
ここ近年で瞑想はじっくり3回やる機会があった。2年前に京都の妙心寺春光院でタカ住職に教えてもらったのが最初。次に京都のワークショップ。最近は昨年に品川近くの常行寺で友光DJ兼住職に教えてもらってやったのだが、このときの向き合い方がとても良く、どうしても雑念が湧いたときにどうすればよいのかの答えが秀逸で、
「川があります。流れていっています。その川に舟を浮かべて、そこに雑念を乗せてすーっと流すんです。雑念が湧くたびにそれを繰り返します。」
というもの。気が散りやすい私は初回はそれこそ100艘くらい舟を流した。そしてこれ以来、瞑想がうまくハマるようになった気がしている。

手頃な岩の上にあぐらをかき、半眼(薄目になること)で河をぼーっと眺める。画面は淡い緑色だ。

あっ。

朧げな視界の中を、オレンジ色や黄色のぼんやりとした点が左から右へと動いていくのに気が付く。
恐らく…上流で誰かが神に捧げて流したマリーゴールドの花々だろう。

そのうち、まぶたの裏がちかちかしてきた。
いや、キラキラと言った方がいいかもしれない。

陽光が水面に反射しているのだろう。



ああ、綺麗だなあ…



すると突然、世界の次元が急に変わったような気がした。
水面のキラキラはそのままで、驚くことに周りが何かにふわっと包まれた感じがあったのだ。


そして、頭の中に流れてきたのは…


生きていることは素晴らしい


この世にいられることは尊い


世界は明るく光に満ちている


恵まれている


幸福を今まさに噛み締めている…



こんな天啓のようなものが、言語化されないままの感覚として、一気呵成でぐわーっと圧倒的な質量で脳に押し寄せてきた。



ああ、これがシヴァ神がやって来たということなのか…


なんてあたたかくて、優しくて、力強くて、居心地がいいんだろう


今、シヴァに祝福されている…




どれくらいそうしていたのか、ふと気づくと涙が滂沱と流れていた。


ゆっくり目を開けると、いつの間にか増水し、自分の座っている岩が河の中に取り残されている。


離れたところに置いていたスマホ(カメラのセルフタイマーをセットしていた)の三脚も水に浸かり、サリーはとっくに乾いていた。


朝聞いたインジェマの言葉の魔法がかかっていたのかもしれない。それにしても不可思議な体験だった。まだ頭がふんわりしている。


今まで特に意識したこともなかったけれど、幸せになっていいんだ、楽しく生きていいんだと、力強く自分の存在を肯定されたような気になって、世界に深い愛情を覚えていた。

それから何だか解放された気持ちになって、服ごと翡翠色の冷たい水に入り、いっぱいに満たされた心でのびのびと沐浴をした。

この度初めてサポートして頂いて、めちゃくちゃ嬉しくてやる気が倍増しました。サポートしてくださる方のお心意気に感謝です。