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現代のクラフトアート:手書きの手紙

もう13年も前に出版した拙著(勉強法)を読んで勉強してくれている小学6年生がいると聞いて、先週は久しぶりに手紙を書いた。読者と手紙をやり取りするのは何年ぶりだろう。
手紙を頼まれたわけでもないけれど、その子のお父さんとは一緒に仕事をしていて、本を読んでくれている様子を聞いていつか手紙を渡したいと思っていた。書きながら、会ったことがなく嗜好性も知らない小学生に文章を書くのは完全に自己満足だなぁと苦笑。せめて説教臭くならないようにしよう…。

長い文章を手書きで書くことが激減している日常。自分の字の崩れ具合に愕然とする。社長時代は手書き文化重視の年代の目上の方へはお礼状を書いていて、あのときはまだ見られる文字だったのに、退化している。今の仕事ではホワイトボードに図と一緒に書くくらいで、走り書きが前提なので字が綺麗かどうかは気にならない。最近の小学生はまだ鉛筆もしくはシャープペンシルでノートをとって勉強をしているのだろうか(彼らが大きくなって手書きの文字を使う機会はレアだと思うけれど)。

普段の生活で文章を書くのは保育園の連絡帳くらいかな。日々の先生たちからのお返事にもそれぞれ個性が反映されている。字で個性を見る文化はもうなくなっていくのだろうか。連絡帳もそのうちメールに変わっていくのだろう。

便箋ストックからあれこれと選ぶ。出産記念に夫におねだりして贈ってもらったSAILORの万年筆(イニシャル入り)を取り出す。しかし、インクが異常に滲んで美しい便箋を1枚ダメにする。これが手書きの面倒くささを味わう趣よ、と自分を励ます。味気ないけれど結局1本100円のジェルインキペンに変更。

手書きで文章を間違いなく構成できる能力は既に失われているので、パソコンで下書きをしてからそれを手書きで移す。学年ごとに習う漢字をチェックしてくれる便利サイトを見つけ、そこに文章を流し込んで変換する。そこで赤字表示になった言葉は学年別漢字配当表から漏れていることを意味するため、読み仮名をつけることにする。

手書きの手紙はもはやクラフトアートの域に達しているのでは、と溜め息をつくほど手間がかかったが、その分、クラフトアートレベルの達成感があった。

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はじめまして。徳田和嘉子と申します。
私の本を手にとってくださってありがとうございます。感謝の気持ちを込めてお手紙を書くことにしました。
〇さんのお父さんとは一緒にお仕事をさせていただいています。〇さんのお父さんは、今まで世界になかった(略)を日本で初めて発売するための技術面のご担当として、とても活躍されています。お仕事を一緒にさせていただき光栄に思っています。

〇さんは今年中学生になるとお聞きしています。おめでとうございます!
僭越ながら、中学生になる〇さんにメッセージを送ります。
好きなことが見つかったら、それをとことんやってみてください。
好きなことが分からないときは、目の前のことを一生懸命やってみてください。そのうちにいつかきっと見つかります。

そして、勉強というのは、好きなことを仕事にしたり実現したりするための手助けになります。
勉強に興味を持つことができて、楽しく進められるならそれが一番です。一方で、覚えにくいな、興味を持てないな、と思う教科があったら、私の本に書いてあるやり方の中で、面白そうなものを選んで、試してみてくれたら嬉しいです。

私は旅が好きで(中学生のときはあまり旅に出た経験がなかったので、どちらかというと憧れです)、歴史の勉強を一生懸命しました。そして大人になってから世界一周の旅をしました。
本を読むのも好きで、国語の時間は楽しんでいました。それが、本を出すことに繋がりました。
仲間といろいろと遊ぶのが好きで、数学(算数)など苦手な科目もありましたが何とか一通り勉強をして、仲間と会社を成長させていく経営という仕事ができるようになりました。

人生は良いこともそうでないこともありますが、良いことがあって嬉しいなあとしみじみ思う時間は素晴らしいものです。
〇さんが自分の人生を幸せに生きていくこと、春から楽しい中学校生活を送ることを心からお祈りしています。

徳田和嘉子

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自己満足に過ぎないクラフトアートを人に押し付けて良いものか、と逡巡するも、ここまで書いたのだから、と封をして、翌日〇さんのお父さんにお渡しする。〇さんのお父さんは仕事のピークで、徹夜明けの疲労感漂う表情だ…が、手にした瞬間に笑顔になって大喜び。聞けば、今週末が中学の本命の受験日だという。

そんなことはつゆ知らず、受験についても触れないでしまった…でも、書いて良かった。

この度初めてサポートして頂いて、めちゃくちゃ嬉しくてやる気が倍増しました。サポートしてくださる方のお心意気に感謝です。