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シヴァ神バンザイ音楽ライブ

この現代にまさかと信じられないような生き方を自ら選択する仙人サドゥたち。期待を遥かに超えていて眩暈がする。
それから取り憑かれたようにサドゥのテント村に通う。

3月初旬のバラナシは朝は底冷えしてダウンジャケットを羽織っても、昼は30度近くにまで上がる。歩き回っていたらかなり体力を消耗する。
12年前と異なり体力も落ちているので、基本的に夜明け頃起きて早朝からぶらぶらするか次の街に移動して、昼を食べてから長めの昼寝をし、夕方から夕飯にかけて活動を再開して早寝する、という体力温存型が今の私の旅スタイルになりつつあるがが、さすがに疲れを感じて来た。ここまでの旅の疲労蓄積もある。
ルドラゲストハウスの晃子さんに紹介してもらい、リラックスにアーユルヴェーダを受けに行くことに。

ガンジス河沿いを南下し、顔馴染みになったサドゥに手を振りながらテント村を過ぎて、バラナシで最上流にある沐浴場アッシー・ガートまで辿り着く。サドゥと言葉を交わしたりするのでゆっくり歩いて30分ほど。そこから街中に折れたところにアーユルヴェーダのサロンがあった。

担当の女性は、なるほどこれはゴールデンハンドだと唸るほど揉みほぐしが上手。全身の凝りを取ってもらったところで次にシロダーラ。これは圧巻で、ポットに入れた熱いハーブオイルを高いところから額にある第6のチャクラめがけて長時間流し続けるもので、そのうちに額も髪もオイルでべっとべとになる。とはいえ、目が塞がれているので詳細は想像するだけ。マインドのリラックスに効果があり、確かにシロダーラの間は額に感じるオイルの優しい圧に脳がマッサージされているような気持ちになってくる。

※写真は施術を受けたサロンSparsaのサイトより。

ただ、揉みほぐしのときから気づいていたが、薄暗い部屋の中で流されているBGMがシヴァ神のマントラ「オム・ナマ・シヴァヤ」。早朝のガンジス河沿いでアップテンポで歌われていたものと文言は一緒だが、雰囲気は全く異なる。

「ぅぉおおおおおお~~~~~~~~~~ム。
ナァマぁぁぁぁぁぁシヴァァァァァァァや~~~~~~~~~~~~~~」

伴奏などは無く、よく響くバリトンの男性のアカペラでひたすら長く引き伸ばされたこの言葉を延々と聞かされる。意味は、シヴァ神に敬意を表します、私の内なる神を信じます等の解釈がある。あまりにも聞き続けているとだんだん洗脳に近いような状態になってきているのが自分でも分かる。揉みほぐしは部位が変わっていくので先が見えるが、シロダーラはずっと一定なのでいつ終わるか全く読めない。だんだん時間の感覚も無くなっていく。夢うつつで浮遊しているような気分になってきて、このままだと本気でシヴァ神に内面世界が乗っ取られると遠くなる意識でぼんやりと思う。

何百回マントラを聞いただろうか。いや何千回だったかもしれないし、何万回だったかもしれない。何十回だけだったかもしれない。時と精神が把握できなくなってどれくらいたったころだろうか、オイルが止まり、ゴールデンハンドの女性の気配がして(もしかしたらしばらく部屋にいなかったかもしれない)、目隠しが外された。脳が痺れたようになって身体がうまく動かない。

ぼんやりとしながら、顔だけ外に出す蒸し器に全身を入れられてサウナ。ここまでシャワーばかりで風呂はなかったので身体がほっとしている。

着替えをして支払い(2時間で1,900ルピー=3,040円)を済ませ、表に出る。夕方の風に当たってだんだんと正気に戻ってきた。同時に、移動続きで疲れた身体も、刺激を受け過ぎてアドレナリン過多になっていた脳も、羽のように軽くなっていることに気がついた。

乗合リキシャでゴッドリア交差点まで行き、ルドラゲストハウスに戻る。オイルで艶々、むしろべとべとの髪を洗い、近くのメイン・ガート(ダシャーシュワメード・ガート)で日暮れに行われる礼拝儀式プージャへ行く。

1時間ほど前に到着したにも関わらず、すでにガートは人でいっぱい。バラモン(聖職者)たちが乗るのであろう台座に向かって階段まで人に埋め尽くされている。ガンジス河の側も沢山の船がプージャを見に続々と集まってくる。


台座の近くは有料で2,000ルピー(3,200円)というので、後方の隙を見つけてぎゅうぎゅう詰めになって座る。仙人サドゥもプージャが見たいのかちらほらとテントが張られている。私の近くにいたサドゥは自分のテントの領域にはみ出してきたインド人女性の腕を熱そうな火ばさみで思いっきりツネっていた。容赦がない(笑)。
こんなに大規模なプージャはシヴァ神フェスに向けたこの時期だけかと思っていたら、年に数日ある「お祈り禁止の日」を除き、ほぼ毎日夕方18:30から1時間プージャを行っているという。この人出もほぼ毎日あるのだろう。さすがシヴァ神の聖都。

時間になると、7人のバラモン(カースト制度頂点に君臨する聖職者たち)が登場。それがまあ若い男性で揃いも揃ってイケメン!
マイクを使ってアーユルヴェーダでも散々聴いたマントラ「オム・ナマ・シヴァヤ」を唱える。その間、見ている地元のインド人たちは神妙な面持ちで手を合わせたりして祈っている。次に鐘の音が響くとバラモンがリズムを取って歌い出し、伴奏の音量が上がってくると火のついた燭台を手にして踊り始める。そのときにはもうお堅くはなく、なんとも明るく幻想的な礼拝儀式である。

見ているインド人たちは手拍子をしたり、決まっている箇所があるのだろう、ところどころで一斉に声を出して合いの手を入れたり、途中で一緒に歌うフレーズがあったり。まるで音楽ライブだ。

そのうちに、サドゥが立ち上がり始める。もちろんこんなに大勢の人のなかでも局部はモロ出しで、例の局部に巻き付けた木の棒に仲間を乗せる秘儀を披露したり、シヴァ神の三ツ又の武器を振り回したり、孔雀の羽根で周囲を取り囲んだ人の頭を祝福したり。柔らかい体でヨガを見せるサドゥもいた(このサドゥは局部は隠していた)。ますます盛り上がってくる。

あっという間の1時間。最後は大盛り上がりで、地元のインド人たちも立ち上がり、両手を高々と上げて叫ぶ。ヒンドゥー語が分からない私も興奮してくる。

最高潮のまま音楽ライブが終わると、みな清々しい顔をして立ち上がって帰っていく。

信じがたいことだが、シヴァ神は毎日毎日これほどの人数からこれほどの熱狂を送られているのだ。
早朝のガンジス河で聞いた陽気なシヴァ神の歌。あちこちに祀られるシヴァ神の絵やモニュメント。アーユルヴェーダ中に延々と流れるシヴァ神のマントラ。そして毎夕の音楽フェスのプージャ。バラナシでは、仙人サドゥだけではなく市井のインド人の日常にも破壊と再生への畏怖と敬意、それを司るシヴァ神への信仰が浸透している。


この度初めてサポートして頂いて、めちゃくちゃ嬉しくてやる気が倍増しました。サポートしてくださる方のお心意気に感謝です。