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「短編」古今東西、日本に伝来、もたらした精神は何ですか


*  愁い顔のハムレットが窓辺に寄りそっておもわずつぶやいた、ボクって何?
青春の野望と愛につまづくジュリアン・ソレル。
そんな『ハムレット』や『赤と黒』の主人公、
シェイクスピアやスタンダールの文学がわが国に持たされたばっかりにトラブル騒ぎさ、いまだに作家業の人を思い出したかのようにくすぶっている。


 少年の頃の女遊びや素行の悪さで、
古今東光は旧制中学(現高校)を追い出されて以来、学校に行かなかったけれど文学には親しんでいた
悪たれも改心し勉強して、大僧正までなって中尊寺貫主まで登りつめ、生臭いと思われても国会議員にもなった古今東光さん、
でも一番関心があったのが文学だった

 同じく国会議員や都知事になっても文学作家として名前を残したかったらしい石原慎太郎、
死ぬ前に出版社の社長から短編か何かの全集を出してもらえると聞いて、涙を流したという
なぜか、文学には一度親しんだら抜け出せない魔力があった

 ある時遠出した東光さん、
ちょうどその街に禅寺の文学院があると知って、立ち寄ることになった
作家なら誰でもが知っていて、小説家を兼ねている夏目和尚がいるところだったので、つねづね東光さんは一度会って小説家として、先輩にあたる人に聞いてみたいことがあった
カレ、夏目和尚は英文学ばかりでなく漢詩文なども造詣が深く、その素養が小説にも活かされていた
禅寺の門に入り、文学院の僧室に通され、夏目和尚と文学談になり、さっそく問うてみた
「シェイクスピアがわが国にもたらした精神はなんですか」

 そうですかと言って、夏目和尚はそばにあった茶をいれて、どうぞと差しだした

 ありがとうございます、古今東光さんは遠慮なくいただきますと恐縮して、お茶を飲んだ
とてもおいしい、抹茶入りですね
でも、わたしの問いの答えになっていない
「シェイクスピアがわが国にもたらした精神を答えていませんぞ」

 しばらくの後に、別棟にいる愚風和尚に会いに行った
偶然、愚風和尚が立ち寄っていたのを聞いて、これ幸いとさっそく尋ねることになったのだ
愚風和尚も作家として名が通っていて、古今東光は、オレも多少変わった男だと思っていたけど、それ以上に奇行で知られ、文章はいっけん見ただけで詩情感あふれ、東光さんがとうていかなわないところにあった
愚風和尚もフランス文学に造詣深く、とくにモーパッサンに私淑して江戸文学にも思い入れがあった
だから和尚にもさっそく
「スタンダールのわが国にもたらした精神はなんですか」

 すると何を思ったか、懐から扇子を取りだし顔をあおいで気持ちよさそうで、夏はもう終わったのにおかしいな
そう言って、東光さんの方にも心地いい風を運んできた

 ああ気持ちいい、じゃなくて、そんなことでだまされませんぞ
「スタンダールがわが国にもたらした精神を答えていません」


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 日本は世界の田舎者か、モノマネばかり。
モードの先端は翻訳からだなんて、政治経済ばかりでもなく、ほんと欧米の黒船に弱い。

日本の知識人、文化の担い手。
貴族、公家出身
武士、名門武家出身
市民、有名大学出身。
 最初にインテリがいつもシャシャリ出てよくやるように、中国そして欧米の政治経済の機構を学んで応用したように、日本人お家芸の十八番のモノマネで、エリートが文学も学んで応用して、鴎外や漱石らの翻訳調のお勉強しているような文章、世界大戦後すぐの欧米もどきの小説がもてはやされた。

 でもやがてマンネリして枯渇し、インテリの外国模倣も底がつき創造力がなくなり、いつしか出身の偏差値が低くても、真に才能有る人々が出てきて、「擬欧米主義」を脱して、大国に学んでも媚びない日本文化を創造していった、また創造していくだろう。

 人麻呂とか西行、芭蕉、西鶴、上田秋成がそうだったように、あなたも。

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